第39話 ″好き″の共有2

39話 ″好き″の共有2



 私は基本的に、イヤホンは有線派である。


 ワイヤレスも一個くらい、なんて思ってはいるんだけど。すっかりこっちで慣れてしまった。


「犬原君はどっち派? 有線とワイヤレス」


「僕はワイヤレス派、ですかね。というかワイヤレスしか使ったことがなくて」


「へえ、そうなんだ。ちなみに何使ってるの?」


「これです」


「へっ!?」


 そう言って犬原君がポケットから取り出したのは、今現在おそらく高校生が一番使っているであろうーーーーそして同時に最も効果であろう、ワイヤレスイヤホン。


 小さな白いケースに、短いうどんのような形の本体。私たちの世代でこれを知らない奴はもはやいない。


(こ、こんなに高いの、使ってたんだ……)


 お値段は種類によって細かく分類されるが、大体一万円後半から三万円ほど。バイトの一つでもしていれば充分手が出せるのかもしれないが、いかんせんうちの高校はそれを許してくれない。それだというのに一体どこからこれを買うお金を賄っているのだろうか。


「よく買えたね? 高かったでしょ、それ」


「じ、自分では流石に買えないですよ! 僕のお父さん、結構音にこだわる人で。新しいのを買ったときにこれをくれたんです」


「ああ、そういうこと」


 親のおさがり、か。なんか少し安心した。


 別に高い物を持っていたり使っていたりが悪いという意味じゃない。ただなんというか、こう……金銭感覚が近い方がほっとするから。


 店内入ってすぐのワイヤレスコーナーを抜け、有線コーナーへと向かう。


 ざっと見渡しただけで数は百個以上。安価な物に絞っても数十個はある。


 ただ、犬原君が今使っているのは効果な部類の物。あまり安物過ぎると音の違いで違和感を覚えてしまうかもしれない。低価格帯で全く同じような音質というのは難しいかもしれないが、最低でもそれに近しい物を選ばないと。


「有線だけでもこんなにあるんですか。凄いですね……」


「まあここは特別取り扱いが多いからねぇ。最近だとこんなに置いてる店は少ないと思うよ」


 ここ数年、ワイヤレスイヤホンは急速に成長していった。


 犬原君が持っているうどん型をはじめ、その類似品、耳栓のように小さな物まで。「ノイズキャンセリング」という周りの雑音を遮断できる機能が搭載されてその精度がより高まっていったことや、小型化に成功していったことが要因なのだろう。


 しかし、やはり私はいまだに有線イヤホンを手放せないでいる。有線でしかできない″やってみたい″こともあるし、なんかこう……今更ワイヤレスに乗り換えると負けたような気分になる。あと、やっぱりこの店に置いてある有線タイプのデザインが好きなのだ。


「じゃあ先輩、僕のイヤホン選び……お願いしてもいいですか?」


「任せて。まずは好きな色合いから探していこっか」


 色だけで見ても、同じ機種で多い物だと十数種類。やはりさすがの品揃えだ。




 犬原君に有線イヤホンの良さを伝えられる絶好の機会。絶対にお気に入りの物を見つけてみせよう。

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強くて弱い君が好き。 結城彩咲 @yuki10271227

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