第23話 タピオカデート

23話 タピオカデート



「犬原君ってさ。ずっとあのちょっと悪そうな子と一緒にいるよね」


 放課後。彼と付き合い始めて一週間と少しが経った今日は、近所の公園に出ているキッチンカーのタピオカを飲もうと約束していて。今はそこに向かっている最中だ。


 そんな道中で、私は思い出したかのようにぽつりと呟く。犬原君は目をまん丸にしていたけれど、やがて微笑み返して言った。


「神崎君のことですか? そうですね、僕中学がここら辺じゃなかったのでその頃からの友達っていなくて。まだそう呼べる相手は神崎君だけなので」


「へぇ、意外。犬原君ならすぐに友達百人作れそうなのに」


 神崎。私がこんなことを言うのはなんだけれど、少しヤンキーに近い服装をした子だ。けれどふと廊下ですれ違ったり教室を覗いたりした時、犬原君は必ず彼と行動を共にしている。


 ああ、体育の時もそうだ。この間教室から犬原君の姿を目で追っていた時にペアを組んでいるのを見た。きっと本当に仲良しなのだろう。


「……もしかして、嫉妬してくれてます?」


「えっ!? い、いや。まさか。私は彼女で先輩だよ? そんなことで嫉妬なんて……しないよ」


 嘘だ。正直かなり嫉妬している。


 だって私はどう頑張っても学校ではほとんど彼と一緒にいられない。いられるのは登下校を除けば昼休みの時間だけで、その他の時間は全て神崎君とやらに取られてしまっている。


 せめて学年が同じだったら……いや、私が周囲から抱かれてるイメージを考えれば、やはりそう簡単には会いに行けないか。


「安心してください。神崎君は確かにとても大切な友達ですけど、僕の彼女さんは月島先輩ただ一人です。取られたりしませんから」


「……分かってるよ、そんなの」


 神崎君が妬ましい。犬原君にここまで言ってもらっても、やっぱり嫉妬の気持ちは消えそうなにはなかった。


 なんともまあ面倒臭い女だ。自分で自分を責めそうになる反面、それだけ私にとってはもう犬原君がそれだけ大きな存在になっているのだと気付かされて。少し嬉しくなってしまう。


「というか、そういう先輩は友達……」


「いるように見える?」


「……すみません」


 友達、か。最後に作ろうとしたのはいつだったっけな。


 中学の時はそれなりにいたけれど、高校になってからは一人も作ろうとしなかったな。友達どころか、必要性のあるペアワークなど意外では誰ともほとんど喋らずにここまで来た。そもそも私の気持ちどうこう以前に、こんなナリをした人に対して近づこうとするような物好きは犬原君くらいなものだろう。


「でも、仲良くなりたい人くらいはいるんじゃないですか? 先輩がその気なら僕は全力で応援しますから!」


「うーん……仲良くなりたい人、ね」


 相手に迷惑をかけることになるだろうから、と。あまりそういうことは考えないようにしてたんだけどな。


 仲良くなりたい人。……いるにはいる。


「分かった。じゃあその気になったら相談させてもらおうかな。今はとりあえず、犬原君とこうして二人きりでいられればそれで充分だから」


「〜〜っ!! え、えへへ。嬉しいですけど、ちょっと照れ臭いです……」


 そう言って、ようやく見えてきた公園へと歩みを進める。


 言葉の通りだ。今はまだ、犬原君だけいてくれればそれでいい。いずれは犬原君だけじゃ物足りなくなる、なんてことはないけれど。




 もし、私がまた昔のように友達という存在に憧れられるようになったなら。その時は、彼に話を聞いてもらうことにしよう。

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