第22話 一番に
22話 一番に
「やっぱり……ムカつく」
誰もいない廊下で一人、呟く。
私ーーーーこと華川陽菜には、嫌いな奴がいる。
そいつの名前は月島明里。今後輩の男子と理科室へ入っていった女だ。
一年生の時はせいぜい、ヤンキーだという噂を小耳に挟む程度だった。その時はどうせ関わり合いになることもないだろうからどうでもいいと、聞き流していたのに。
アイツは、二年生で私のクラスメイトになった。
整った顔立ち、ウルフカット。青の綺麗なインナーカラーを入れて制服の上からパーカーを羽織るその姿はまさに異質。
孤高の一匹狼。そんなあだ名が正に相応しい女だった。
「なんっ、なの……マジで!」
そして、瞬時に理解させられた。
ーーーーコイツは、私より″上″なのだと。
男子にも女子にもチヤホヤされたい。一番になりたい。そんな、きっと女子高生なら誰もが持っているであろう願望。私はそれを、簡単に諦めさせられたのだ。
ルックス、スタイル、話題性。どれをとっても私は勝てない。この手入れに長い時間を割いているロングの髪も、メイク技術を必死に磨いて可愛くあろうと努力し続ける顔も。日頃から運動とダイエットを続けて保っているスタイルも。
どれだけ頑張っても、常にそれ以上のものを。アイツは全部兼ね備えている。
ムカついた。邪魔だった。でも、それでもなんとかアイツが一人ぼっちでいるうちはこの気持ちを我慢しようと、そう思っていたのに。
約一週間前、アイツには男ができた。別にその相手が私のタイプだったとか想像を絶するイケメンだったとか、そういうんじゃない。
けど、見ていれば分かる。アイツはまた私には無いものを手にした。
『陽菜ちゃん、俺と付き合わね? ぶっちゃけ俺イケメンだし? ね、いいっしょ!』
『俺が付き合ってやるって言ってんだ。断らないよな?』
『なあ、このままホテル行こうぜ。別にいいだろ減るもんでもないし!』
告白されたことも、彼氏がいたこともある。
でも私には、恋心というものを何人と付き合っても理解することはできなかった。
一人の男子を好きになる。たったそれだけに感じていたことがいつまで経ってもできない私を……それでもなんとか好きになろうって。努力を続ける私を。あの女はまた、簡単に置き去りにしていく。
「アイツがいるから。アイツのせいで、私はッッ!!」
感情に任せて壁を殴りつけても、返ってくるのは痛みと虚しさだけ。
分かっている。きっともう、私がどれだけ努力を続けてもあの女には勝てない。アイツがいる限り、私はずっと二番だ。もう一番になることはない。
「もう限界。今までは見逃してやってたけど、ずっと私の上に立ち続けようってんなら……」
私は一番になりたい。負けたくない。
あんな、ただ生まれ持ったものが凄いだけの奴になんて。なんの努力もせずに一位の座に居座り続ける奴なんて、許せない。
だから私は、どんな手を使ってでもアイツに勝つ。
例えそれが、綺麗な行いではなかったとしても。
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