第24話 タピオカデート2

24話 タピオカデート2



 ミルクティーの底に沈澱する黒い物体と、それをまるごと吸えてしまうほどに太いストロー。キッチンカーのオシャレな店員さんから手渡されたそれは、明らかに普通のジュースとは違った異質なオーラを纏っている。


 ああ、これだ。写真で見た通りのタピオカミルクティーだ。まさか私が飲む日が来るなんて思いもしなかった。


「こ、これがタピオカ……キラキラJKの飲み物……」


 ずっと興味はあったけど、やっぱり私みたいなのがこういうのを一人で買いに行くのはどうなのかと思って。


 そんな憧れの感情を話すと、犬原君がここに連れてきてくれた。ちなみにどうやら彼もタピオカ初挑戦らしい。


「うう、彼氏さんとしてかっこよく奢ろうと思ったのに。なんでさせてくれないんですかぁ……」


「いやいや。流石にそんなことさせられないって。犬原君は彼氏さんだけど後輩なんだよ? どっちかと言うと私が奢る側なのに。そっちこそよかったの?」


「ぼ、僕は大丈夫ですよ! その……なんか奢ってもらっちゃうと、そのために来たみたいじゃないですか。僕は先輩とこれが飲みたいから来たので!」


「ふふっ、そっか。じゃあ私が奢ってもらわない理由もよく理解できそうだね」


「う゛っ」


 彼氏だから奢る。年上だから奢る。そんなのは格好をつけるためだけにするものだと思う。


 だから、まあ例えばプロポーズする時にちょっと高いお店を奢るとかそういうのは一つの手段としていいと思うけれど。


 私たちに今更そんなものは必要ない。格好なんてつけなくても側にいるし、一緒について行く。彼が彼氏としてを主張するならば、私は先輩としてでそれを相殺してやるまでだ。


「ベンチ行こ? 立ち飲みするには勿体無いよ」


 そうして、観念した犬原君を連れて。タピオカを片手に近くのベンチへと腰掛ける。


 この公園には長めのベンチが何個か置かれていて、散歩中のおじいちゃんやゲームをする子供なんかで賑わっていたけれど。ちょうど一つだけ空いていてラッキーだった。これで存分にタピオカを楽しめる。


「せっかくだし写真も撮ろうよ。まあ私はSNS系やってないから、スマホに保存するだけになっちゃうけど」


「い、いいんですか!? ぜひ! 一緒に撮りたいです!」


 そういえば、犬原君と写真を撮るのは初めてか。


 別に撮らせなかったわけじゃない。ただなんとなく、そういう感じになったことがなくて。多分私の中に写真を撮るという文化が無いのが問題だろうけど。


 キラキラしたものを持って、彼氏と二人でそれを共有して。この素敵な時間を写真の中に閉じ込めたいと思った。本当、彼と一緒にいると自分が自分の思っている以上に変化を続けていてびっくりする。


 けど……多分これは、良い意味での変化であり、変革だ。


「あ、でもどうやって撮ろうか。こういう時って大体自撮りだよね。けど私、したことないから下手くそかも」


「ふふんっ。安心してください、僕もしたことないです!」


「いや、なんでそんな自慢げなの……」


 となると、やっぱり無難なのは誰かに撮ってもらうことか。

 

 彼氏とのツーショット。それを誰かにスマホを渡して撮ってもらうというのは中々に勇気がいるし恥ずかしいけれど、仕方ない。できるだけ若い人じゃなくて優しそうなおじいちゃんおばあちゃんにーーーー


「自撮り、一緒にがんばりましょう! 時間はいっぱいありますから。何枚でも撮って、綺麗になるまでやり続ければいいんです!」


「えぇ。本当に誰かに撮ってもらわなくていいの?」


「はい! これからは、その……きっと色んなところに行って、色んな写真を一緒に撮ると思うので。その練習と言いますか……えへへ」


「っ……!」


 ふふっ、なんだそれは。


 そんな可愛いことを言われたら、断れない。


 仕方ないな。きっと何回も何回もミスするだろうし、フォルダがブレブレの写真まみれになるだろうけど。




 犬原君がそう言うなら、頑張ってみるか。

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