第3話 私ではない私

3話 私ではない私



(え? ちょ、は? この子が、私を呼び出したヤンキー……?)


 金髪なわけでも、校則違反な服装をしているわけでも、ましてや顔が怖いわけでもない。


 真っ黒で短めの髪に、丸い瞳。そしてキチッと着られた高校指定のブレザー。


 これではもはや、私の方が圧倒的にヤンキーだ。とてもじゃないが、こんな子が私に決闘を申し込むだなんて思えない。


(けど、来てくれたんですねって言ったし。私を呼び出したのはこの子で確定なわけで……)


「あ、あのっ!」


「ん? あー、ごめん。えっと、何?」


「き、来てくださってありがとうございます! 月島先輩……僕、どうしても先輩に伝えたいことがあって!!」


 気うけば「この子」と心の中で呼んでしまうほどに弱々しい彼は、喧嘩を売るなんて雰囲気は微塵もなく。叫ぶようにして、告げる。


「僕……犬原旭は、月島先輩のことが大好きです! 釣り合っていないことは分かっています。けど、この想いを伝えないなんてできなくて……だから、その……俺と付き合ってくださいッッ!!!」


 バッ。あまりに突然の告白と共に頭を下げた彼ーーーー犬原君は、右手を差し出した。


 そしてそれと同時に、私はショートした。


(……? …………っ!?!?)


 は、え? 今この子、なんて言った?


 私のことが……好き? 付き合って、ほしい……?


 思考回路がバグり、目の前が真っ白になりかけて。彼の放った言葉がピンボールのように脳内で何十回と反響をしたのち、ようやく私は現状を理解する。


 私はーーーー彼に告白されたのだ。


 決闘なんてのは完全に私の勘違い。手紙を入れるロッカーを間違えていて、本当は他の子に対しての告白ーーーーということもない。月島という名字の女子は、私と同じ学年の女子にはいなかったはず。


 つまり。全くもって信じられないことではあるが、犬原君は本当に私に対して好意を抱き、本心から告白するに至ったのである。


 まさか、私の人生において親以外の誰かから「好き」と言ってもらえる日が来るとは。


 この子のことは知らない。今まで会ったこともない、本当に初対面の後輩だ。きっと私に対する悪い噂はいっぱい聞いてきているだろうに。それでもなお、私にそうやって好意を向けてくれたのは素直に嬉しい。この想いに応えてあげられたら……とも、思う。


 けどーーーー


「ごめんなさい。私は、君とは付き合えないよ」


 私の口からはそんな言葉が、無意識のうちに溢れていた。


 犬原君が顔を上げる。


 失恋をした男の子の、悲しげな表情だ。


「そ、そうですよね。やっぱり僕なんかじゃ……」


「ううん。違うよ、君が悪いんじゃない」


「えっ……?」


 彼は言った。「僕なんかじゃ釣り合わない」と。


 けど、違うんだ。君が私に釣り合ってないんじゃない。


「私なんかじゃ、君には釣り合わないから。次はもっと普通の子に恋をした方がいいよ」


 この子が恋焦がれた月島明里は、私であって私ではない。



 だから……私は、彼の想いに応えることはできないんだ。

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