第2話 屋上へ
2話 屋上へ
「…………は?」
思わずそんな声をあげてしまったのは、教室を出て数分後。
二階から一階へと降り、靴を取り出すために下足室の自分のロッカーを開けた。
すると、そこには……
「なに、これ」
サイズにしてハガキ一枚くらいな、真っ白な封筒。そこには「月島先輩へ」と文字が添えられており、後ろはシール一枚で止まっている。
手紙……だろうか。ロッカーに入れられている手紙なんて、思い浮かぶものは一つしかないんだけども。いくらなんでも私に対してそれはないか、と自分の中で即座に否定して封を開ける。
ああ、きっとあれだ。お前に決闘を申し込む、みたいなやつ。噂が噂を呼んでどこまで広がり、誇張されているのかは知らないけども。とうとうどこかの本物のヤンキーに目をつけられてしまったか。
恐る恐る中の紙を開くと、そこにはたった一行の文章。
『放課後、屋上にて待っています』
呼び出し、か。
屋上に行ったら何が待っているのだろう。言葉が敬語なのは気になるが、先輩呼びで私の名前が書かれていたから、きっとただ歳下の一年生というだけだろう。
おそらくは入学してしばらく、私の噂が湾曲して伝わり、伝説のヤンキーか何かと勘違いしてしまっている。一瞬……この手紙を入れられるシチュエーションに対して「ラブレターなのでは?」と思わなくもなかったが、もう確定だ。
屋上では、一年生のヤンキーが私を待ち受けている。どうしよう、死ぬほど行きたくない。
(で、でも……行かなかったら絶対ヤバい、よね)
行きたくない。しかし、もし行かなければきっと待っているのは決闘よりも辛い報復だ。リンチされ、大怪我を負わされるに違いない。
なら、選択肢は一つ。
(屋上に行って、私は伝説のヤンキーなんかじゃないって伝える。なんとか決闘しなくて済むよう、説得するしかない)
すう、と軽く深呼吸して。取り出すはずだった靴をそのままに、ロッカーの扉を閉める。
重い足取りの中、四階のさらに上の屋上へ続く踊り場へは、自分が想像していたより何倍も早く辿り着いてしまった。
「鍵、開いてる……」
屋上が開放されている学校というのは、基本的にフィクションの世界にしか存在しない。そしてここも当然のように普段は屋上へと続くこの扉は南京錠で施錠されているはずなのだが。
鍵はーーーー開いていた。壊されたりした痕はない。ただシンプルに鍵で開けられている。どうやって鍵を入手したのかは分からない。いや、想像したくないというのが正しいか。
相手は私と決闘するためには手段を選ばないヤバい奴。その可能性がこれでグンと上がった。
「ふう……すう……っ」
しかし、もうここまできたら後戻りはできない。
どれだけ相手が怖かろうと、言わなければ。私はあなたの思っているような奴ではないって。
何度も……何度も、深呼吸と鼓舞を繰り返すこと、数分。
震える手でドアノブを捻り、屋上へと進んだ。
「あ、あなたが私を呼び出した人……ですか?」
そこにいたのは、一人の男子生徒。
髪色は……普通だ。後ろを向いているからまだなんとも言えないけれど。それほど怖い人には見えなーーーー
「っっ!! き、来てくれたんですね! お、おおおお待ちしてましたっ!!!」
「…………へ?」
怖、いどころか。
私でも倒せてしまえそうなほど華奢で、おどおどと弱々しいオーラを纏った子だ。
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