強くて弱い君が好き。
結城彩咲
第1話 月島明里という女
1話 月島明里という女
「わぁ! 見て見てお母さん!! あの人かっこいいーっ!!」
「えぇ? あの人……って。もしかして、このバンドの人のこと?」
「うんっ! 私もこんな人になりたいなぁ〜っ!」
志が強く、かっこいい人に憧れた。
幼少期の私が初めて憧れて私もこんな風にという気持ちを抱いた相手は、テレビの中の人。当時国内で爆発的に人気を伸ばしたロックバンドのボーカルで、ちょうどその時は音楽番組に出演していたようだった。
子供が初めて憧れる相手なんて、大抵は決まっていて。なんちゃらヒーローとかなんちゃらライダーとか、ああ、女子ならマジカルうんたらとか、そんなのもあったっけ。
けど、私はそのどれにも一度たりとも憧れることはなく、基本的に寛容だった母親ですらやめておきなさいというほどのその人への憧れの種を成長させ続けてしまった。
(今日もダサいな、私……)
そして気づけばスマホの画面に反射した自分の姿を見て日常的にそう心の中で呟いてしまう、そんな私になっていた。
「ねぇ見て? 月原さん今日も怖い顔してる……。また誰かと喧嘩でもしてきたのかな?」
「しっ! ちょ、声大きいって! 聞こえたらどうすんの!?」
(いや、余裕で聞こえてるけど)
月島明里。高校二年生。
私は俗に言う″ヤンキー″というレッテルを貼られており、クラスでは一年時から浮き続けている。クラスメイトからの内緒話が聞こえてくるのなんてとうの昔に慣れてしまった。
黒の髪にインナーで青を挟み、襟足を伸ばしたウルフカット。制服の上からはパーカーを羽織り、クラスの端でずっとスマホを見たり音楽を聴いたり、寝たり。そんな一人行動を繰り返す愛想の悪い怖い人。それが周りからの私に対する評価だ。
(やっぱり私、こういうの向いてないのかな)
分かりやすく学校に馴染めていない私には、友達はおろか彼氏の一人もいない。いたこともない。いや……友達くらいはいたか。小学校と中学校の時の話で今はもう一切交流は無いけれど。
まあとにかく、適当に選んで入った高校での生活もあっという間に一年が経過した。学年が上がったからといって何かが変わるわけもなく。二年生になった私は今もこうして、一人寂しくくだらない青春を送っているのだ。
それもこれも、全てーーーー
(こんなものが無ければ、少しは変わったのかな……)
それは、考えたところでどうしようもなく、あまりに遅すぎる後悔。
あの時これをしなければ……なんて、考えても無駄なのに。だってこの世界には漫画の世界で出てくるようなタイムマシンも、タイムリープも存在しはしないのだから。
一度脱輪してレールから外れてしまった私は、もう普通の道に戻ることはできない。このまま、腐っていくだけ。
私は、私が大嫌いだ。普通になれず、醜い姿で怠惰な日々を送る、そんな私が。
「……」
ガタンッ。私が椅子を引く音で周りからの視線が集まるが、気には止めず。イヤホンを付けたまま知らないふりをして教室を後にする。
ーーーーこの何の変哲もない放課後こそが私の人生を大きく変える出会いを生むなんてことは、知りもせずに。
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