第18話 交換っこ2

18話 交換っこ2



 エントリーされし食材たちは、まず私の方が「卵焼き•トマト•ウインナー•春巻き•ポテトサラダ•焼き鮭」。


 犬原君からは豚の生姜焼きを貰うとして。私からは何をあげようか。特に”これだけは残したい”みたいなのは無い。


 だからどれを選ぶのかは彼次第。食べ盛りの男の子なんだから、一個と言わずなんか持っていってくれたって構わない。


「こ、交換っこですか!?」


「うん。私は生姜焼き貰うから、犬原君はその代わりに私のおかずから何か。好きなの取っていいよ」


 彼の目が煌めき始める。


 期待、幸福、そしてワクワクに満ちた、そんな目。


 私がすっ、とお弁当を差し出すと、早速どれにしようかと頭を悩ませ始めた。「食べたいの全部取っていいよ」と言ってあげたいところだけど、こうやって悩んでいる姿は可愛いからもう少し黙って見ていよう。


「うぅ、どれも魅力的です。流石は先輩のお母さん。どれもキラキラしてて選べそうにありません……」


「? どうしてそこでお母さんが出てくるの?」


「え? いやだって、こんなに美味しそうなお弁当を作る先輩のお母さんは凄いなって……」


 ああ、そういう。


「これ、作ったの私だよ。毎日私が自分で作ってるの」


 うちは親が離婚している。


 その理由は当然私の刺青なわけだが。まあともかく、そんなわけで私は今離婚調停で決められたお父さんからの毎月の仕送りとお母さんのパートの稼ぎで学校に通わせてもらっているのだ。


 本当は私もバイトをして少しでも足しにしてほしいんだけど……この学校がバイト禁止だったのを知ったのは、入学してからのことだった。


 だからせめて少しでもお母さんの負担を減らそうと、できる限りの家事は私が担当している。もちろんその中には私のお弁当作りも含まれているわけだ。朝からパートに行くお母さんを早起きさせてそんなこと、させたくないし。


「えぇっ!? こ、これ先輩の手作りですか!? 先輩、凄いです!!」


「褒めすぎだよ。こんなの、多分犬原君だって練習すればすぐにできるようになると思うよ?」


「いや、僕はそんな……。もしかしたら同じメニュー自体は作れるようになるかもしれないですけど、こんなに美味しそうには無理ですよ。これは、先輩の努力あってこそです」


「っ……そ、そう」


 本当に、犬原君にここまで言われるほどのものではないのに。


 トマトはヘタを取っただけだし、ウインナーも端に何個か切れ込みを入れてタコさんになるよう揚げただけ。焼き鮭も言ってしまえば焼いただけだし……まあポテトサラダと卵焼きは色々と手間がかかっているけれど。


(相変わらず、褒めるのが上手いなぁ)


 でも、少し面倒でもちゃんと自分で作っていてよかった。


 元々冷凍食品なんかに頼らないのは金銭面の問題で、自分で作った方が圧倒的にコストを抑えられるから。私自身あまり食に興味がある方ではないけれど、変に手抜き過ぎるものを食べているのが見つかってしまうとお母さんに「私が作らなきゃ」と思わせてしまうかもされないし。


 そんな小さな理由の積み重ねで作り上げられたこのお弁当にも、確かに意味はあった。


「先輩のお手製……これはより慎重に選ばないと」


「大袈裟だなぁ。そんなんじゃいつまで経っても選べないよ?」


「むむ、やっぱり卵焼き? でもポテトサラダやタコさんウインナーも捨てがたいです。ああ、やっぱり焼き鮭も……っ!」


「……もぉ」




 だって、私の好きな人がこんなに褒めてくれて、ただの交換っこでもここまで喜んでくれるのだから。

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