第12話 寂しい気持ち
12話 寂しい気持ち
「はああああッッッ!? ちょ、マジで!? お前があの月島先輩と!?!?」
「こ、声大きいって! 恥ずかしいから叫ばないでよ!!」
三限終わり。一年四組に咆哮が響く。
声の主は、つい最近仲良くなったばかりの神崎守君という男友達。大寝坊をかまして担任の先生にこっ酷く叱られ、三限の途中から重役出勤してきた問題児である。
しかし、ヤンキーのようなものとはまた違って。少し格好は派手だけれど、話してみると普通にいい奴だった。だから先輩のこととかも色々相談したりしてて。ついさっき、告白の結果を報告をして咆哮に至る。
「いや、えぇ……。俺あてっきり失敗したもんだとばかり。昨日はLIMEも来なかったしよ? めちゃくちゃ凹んでしおれてるとこまで予想してたのに」
「ごめんね、昨日は色々ドタバタしてて」
「あ、謝ることはないけどよ。それにしてもマジで、何がどうなったらお前があの人と付き合えんだよ。諸々聞きてえな」
「あ〜……ううん。どこから話せばいいんだろう」
神崎君には本当にお世話になった。屋上で告白するというアイデアを授けてもらったり、告白の言葉を一緒に考えてもらったり。だから彼には、色々と聞く権利があると思う。
ただ、どう話したものやら。流石に先輩の刺青の件は言っちゃまずいだろうし。かと言ってそれをエピソードから中抜きするとなると、納得してもらえる内容にはならないようにも思える。作り話で嘘をつくのも嫌だしなあ……。
興味半分、疑い半分といった様子で僕の返答を待つ神崎君への最適なエピソードを、脳みそをフル回転させて考える。
屋上に呼び出して、想いを告げた。そして一度は断らたけど、自分に自信が持てないらしい先輩に対し、俺は思ったことを素直に全部伝えて。二度目の告白で、お付き合いを許してもらえた。
ありのままの起こったことそのものは、刺青のことを話さなくても言える。しかし、具体的にと詰められたら何かを隠していることは簡単に見破られてしまいそうだ。
「本当、色々あった。月島先輩は本当は、みんなに思われてるような怖い人じゃなくて。そういう話を聞いている間にもどんどん先輩への好きが溢れてて、気づいたらその……全部、ぶつけてて」
「ふむ分からん」
「う゛っ」
「まあでも、いいか。とりあえずおめでと。手伝った甲斐があったな」
「え? あ、うん。ありがと……」
神崎君はそれ以上、深く聞いてくることはなかった。
僕が昨日のことを上手くは話せないであろうことを感じ取ったのだろうか。相変わらず、怖いようで優しい人だ。
「にしても、あの月島先輩かあ。前にも言ったと思うけど、俺なら絶対無理だなあ。そりゃルックスは抜群だし? スタイルだってほら、アレけどさ。それ以上に怖いったらない」
「あ、アレって。いや、うん……言いたいことは分かるけどさ」
敢えて彼は口にはしなかったが、先輩が男子から人気な理由は、決してその顔の良さからのみではない。
制服の上からパーカーを羽織っていても確かに分かる″膨らみ″。男子高校生にとって、その果実はあまりにも魅力的なのだ。
「触らせてくださいって言ったら半殺しにされそうだよな」
「先輩はそんなことしないって」
「ほんとかあ? あの人が本当は優しい、ねえ。俺にはどうも想像できねえわ」
「……」
その言葉を聞いて、どこか心がむず痒くなるのを感じた。
きっと神崎君は悪意をもって言ってるわけじゃない。つい昨日までは、惚れていた僕でさえも怖い人なイメージはあったのだから。むしろこれこそが、先輩に向けられた正常な評価なのだろう。
けど、今は違う。僕だけは、先輩の本当の姿を知っている。
だからこれをもっと共有したい気持ちがあるし、でも同時に、知っているのは僕だけがいいなんて、そんな自分勝手なことも思ってしまっていたりして。だからこそ、どっちつかずな僕の心はむず痒い。
「っと、そろそろ休み時間終わるな。次は……うわ、上杉の地理じゃん! 面倒くせえなあ……」
(色々考えたいけど……とりあえず、早く会いたいな)
面倒くさい。なんの気なく神崎君の口から発せられたその言葉が、勝手に僕の中で脳内変換されて突き刺さる。
あと五十分。さっきはなにかを送りたいと色々悩みすぎた末に訳の分からない語文を送りつけ、結果的には授業中にも関わらず相手をしてもらってしまって。そして今は、それでもなお、まだ会いたい欲が一ミリも治らない。我ながら、なんて女々しくて面倒くさい男なのだろうか。
「おい、何急に捨てられた犬みたいな顔してんだ?」
「そ、そんな顔してた!?」
「してたしてた。なんだ? 愛しの先輩に会えなくて寂しいのか?」
「っ……」
「いや図星かい」
だって、仕方ないだろう。
やっぱり、寂しいものは寂しいのだ。
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