第13話 交わした視線
13話 交わした視線
案の定、というべきだろうか。
(……集中できない)
月島先輩に早く会いたい。その思いにブレーキがかかることはなく、先生から配られた授業プリントを眺めながら、僕は半分上の空になっていた。
かれこれ、三十分ほどの時間が経っただろうか。正直授業の内容はこれっぽっちも頭には入っておらず、空白を埋めていく形式のプリントに書いたのは自分の名前だけ。
早くお昼になってほしい。僕の心の中はもう、完全にそれ一色だ。
「で、あるからしてこの地図記号が持つ意味合いは……ん?」
怖いことで有名な谷山先生のチョークを動かす手が止まる。
ぼーっとしてしまっていた僕にも、その理由はすぐに分かった。
「オイ、うるさいぞ! 授業中なんだから静かにしろ!!」
先生の怒号が廊下に響く。
原因は談笑しながら教室の中にまで聞こえてくる声を出し、廊下を歩いていた女子生徒。授業中なのに何故、と思ったが、体育館シューズの入れ物を持っている、どうやら体育が早く終わり、教室へ戻る最中だったようだ。
「ふがっ!? な、なんら!?」
お、先生のあまりの大声に、隣で爆睡していた神崎君も目を覚ましたようだ。というかよくこの先生の授業で寝れるなあ。この前居眠りがバレた人が反省文ならぬ反省課題を課せられていたのを見ただろうに。
「はぁ……。えぇと、どこまで話したか」
それにしても、廊下の人たちは一喝ですぐ静かになったな。銭湯でうるさかった二人が教室の横を通り過ぎてからも何人か通ったが、先生への恐れからか誰一人うるさくしている生徒はいない。
「びっくりした。怒られたのは廊下の先輩かよ紛らわしいな」
「? 廊下の人たちって先輩なの?」
「どう見てもそうだろ。リボンの色違うし」
「あ、ほんとだ」
この学校では、属している学年によって身につけているリボンの色が異なる。
一年生なら青、二年生なら紫で、三年生なら緑だ。
そして廊下の人たちが身につけているのは紫色。つまりあの人たちは二年生のどこかのクラスの人たちだということになるな。
(二年生……。ってことは、月島先輩と同じ学年、か……)
もしかしたら、なんて思うのは、夢の見過ぎだろうか。
第一、仮に通ったからなんだというのだ。俺の方は気付けても、きっと先輩の方は気づかないだろう。向こうは教室に戻ろうとしているだけなのだから。わざわざ一年生の教室なんて覗くわけーーーー
「ひいっ!?」
「っつ!?」
「あ、うぁ……」
しかし、そんな僕の予想とは裏腹に。
「あ、旭! あれ……」
廊下に目をやっていたのであろう教室の前列生徒何人かが、小さな悲鳴をあげる。まるで何か、″怖いもの″を見てしまったかのように。
「先……輩……?」
青のインナーカラーを纏ったウルフカットを靡かせながら。一人だけパーカーを羽織り特別感を醸し出している女子生徒が、一人一人品定めするかのようにクラスメイトたちへ冷たい視線を送って。
そしてーーーー僕と、目が合った。
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