第14話 交わした視線2
14話 交わした視線2
クラスメイトの誰もが。そして、谷山先生でさえもが。一瞬先輩と目を合わせただけで、視線を逸らす。
けど、それは先輩も同じことだった。別に、ガンをつけに来たわけじゃない。合わせたくもない相手と目を合わせる必要なんて、これっぽっちもありはしないのだから。
「こっわ!? オイ旭……あさ、ひ……?」
きっとそれは、時間にすればほんの数秒のことだったのだろう。
けど、僕にはそれが何十秒にも感じた。
先輩の視線は決して怖くも、冷たくもない。
「……」
「……」
月島先輩は、僕を探してくれていた。僕と目を合わせるためだけに、わざわざこのクラスの前を通ってくれた。
こうやって視線を交わしているだけで、先輩の暖かさが伝わってくる。
ああ、きっとあの表情は、僕以外の人には読み取れないんだろうな。
あんなにーーーー優しい笑みを浮かべているのに。
「ま、マジかコイツ。手、振ってやがる……」
みんな、僕の方を見ている神崎君以外は、先輩と目を合わせるのが怖くて俯いているか、黒板に視線をやっている。廊下を歩いている先輩のクラスメイトさんたちだって、隣にいる友達と喋っているか、そもそも一年生のクラスに興味なんて無い。
誰にも見られていないし、と。いや、正直見られていても同じことをしたかもしれないけれど。
そっと、小さく手を振る。
窓を挟み、教室と廊下にいるのだ。声で応答はできない。けど、せっかく僕を見つけてくれたのに。何も返せないのではなんだか忍びなくて。
「っ!? ……っ」
(先輩、照れてる。可愛いなぁ)
ほんのりと、先輩の頬が赤く染まった。
どうやらあの人は案外分かりやすいらしい。
あんなの、誰がどう見たって照れてるに決まってる。今のあの姿を他の人に見せられたら、案外簡単にレッテルなんて剥がせてしまうのではないだろうか。
そう思わされるほどに、その表情は可愛くて。
でもやっぱり、独り占めしたいものだった。
「へへ……」
「あ、これマジだ。マジなやつだ。だって、あんな。あの月島先輩が、あんなこと……」
一瞬、キョロキョロと周りを見渡して。
自分から全員が目線を外していることを確認してから、先輩は。その細い右手を開き、一度閉じて。肩より下くらいでほんの少しだけあげると、再び手のひらを見せて、僕にーーーー僕だけに、手を振る。
それはたった一回のことで、やがてすぐに恥ずかしさに耐えられなくなったらしい先輩は廊下から姿を消してしまったけれど。
僕にとってはそのたった一回の手振りが、十分過ぎるほどの幸福感をもたらしていたのであった。
「見られちゃった、か。多分神崎君だけだね。気づいたの」
「お? おう。えと……改めて、おめでとう。あれ見せられたらもう疑えねえわ」
「どう? 先輩のあの顔、最高に可愛かったでしょ」
「……」
こくっ。神崎君は僕の問いかけに応じ、無言で頷いた。
本当は他の誰にも先輩のあんなに可愛いところは見せたくなかったけれど、神崎君になら嫌な気はしないな。というか、一人くらい先輩の魅力を理解してくれてる自慢相手がいてくれたってーーーー
『なまいき。後輩君のくせに』
「……はい」
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