第31話 ありがとう
31話 ありがとう
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「う、うん。犬原君のおかげで……」
犬原君の脅しに屈し、二人のヤンキーさんは逃げるように姿を消した。
なんだか一瞬の出来事だったように思う。つい数分前まで私は殴られる寸前だったのに。彼が来て一瞬にして解決してしまった。
「よかった……。本当によかったです。手遅れになる前に戻って来れて……」
それに比べて私は、なんて情けないのだろうか。
私が招いた。招いて、自分を犠牲にしてでも解決しようとして。それでも叶わなくて、巻き込んだ。
結局は守ってもらったのだ。私は厄災を招くだけ招いて、自分は何一つ傷つかずに助けてもらって。
(こんな私じゃ、やっぱり犬原君の隣にはーーーー)
「先輩、僕は怒ってますよ。あの人達に対しては勿論ですけど、先輩にもです!」
「……うん」
当然だ。私が巻き込んだのだから。
犬原君は私を守ってくれた。文句一つ言わず果敢に立ち向かって。火の粉を振り払ってくれた。
けどそれは本来、彼の目線からすればしなくてよかったこと。私がいなければする必要のなかったことになる。そんなことをさせられて、怒るというのは自然だろう。
「どうして、すぐに僕を呼んでくれなかったんですか? なんで! 一人で解決しようとするんですか!」
「…………うん?」
「僕は先輩の彼氏さんになったんです。だから、その……一番に頼ってほしいんです。何かあった時は助けてって一言。叫んで欲しかった……」
「お、怒ってるんじゃないの? 巻き込まれたこと」
「怒ってるって言ってるじゃないですか! 巻き込んでくれなかったことを!!」
なんで……なんで君は、そんなに優しいの?
面倒臭いって。巻き込まれたくないって。そう思って当然でしょ?
例え相手が彼女であったとしても関係ない。普通の人なら……
(普通の、人?)
いや、違う。
犬原君は普通じゃないんだ。
普通じゃない私を受け入れてくれた。受け入れて、そのうえで好きだと言ってくれた。
彼が、普通な訳がない。
そしてそんな彼に……私は惚れたんだ。
「っ……!」
「先輩!? や、やっぱりどこか殴られたんですか!?」
「違うよ。これは……うん。今になって、あの時の怖さが出てきたんだと思う」
一滴の涙が、頬を伝う。
やっぱりダメだな、私。犬原君の前だと上手く強がれない。
こんな涙、本当は見せたくないのに。ただ一言ありがとうって。笑顔で言いたいだけなのに。
「ごめんね……こんなに、私……情けなくてッ。ほんとに、ごめん……ッ」
泣き出す私を見て、彼はそっと隣に寄り添ってくれた。
分かってる。今の彼が望んでいる言葉は、こんなものじゃないって。
だからせめて。みっともなくて、情けなくて。そんな私だけど。これだけは絶対伝えなきゃいけない。そう思った。
「ありがとう……犬原君がいてくれて、よかった。ほんとに……よがっだよぉ……」
気づけば私は、大粒の涙を流すのが止められなくなっていて。震える声で何度もお礼を言いながら、彼の胸に顔を埋めることしかできなくて。
ーーーーほんと、情けない彼女だ。
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