第27話 君のために繕う言葉
27話 君のために繕う言葉
(誰……?)
横からすっと現れて私に声をかけたーーーーいや、絡んできた二人組は、私が言うのもなんだけど見た目で分かりやすすぎるヤンキーさんだった。
一人は金髪の短髪で、耳に何個もピアスを開けて見せびらかすようにしている。もう一人は長髪で、茶色の髪を後ろで括っていた。たしか最近男子の中で流行っているというマンバンって名前の髪型だったか。
「長いベンチを一人で占領なんてさ。ちょ〜っと常識が足りてねえんじゃあねえの? 月島明里さんよ」
「っ!? なんで、私の名前……」
「なんでも何も。有名人じゃんね。特に俺らの高校じゃ、さ。てか同じ学校学年なのに顔すら覚えられてないのか。悲しいねぇ」
同じ学校同じ学年? 申し訳ないけど、本当に見たことがない。
ただでさえ私は休み時間に他の教室へ行くこともなければ、部活に入ってるわけでもないから他のクラスに知り合いは一人もいないというのに。女子なら体育とかで一緒になる機会もあるだろうけど、男子なら尚更知っているはずがない。第一、こういう人たちは苦手だからそいう機会があっても自分から近づく事は決して無いだろう。
「ねえ、退いてくんない? 俺らそこで飯食いてえんだわ」
「ど、退いてって言われても。先に座ってたのはーーーー」
「だぁからぁ! 一人でそのだだっ広いベンチ占領すんのはマナー違反なんじゃねえのって言ってんだよ! いいから退けや!!」
「っ、ぁ……」
私は、意外にもヤンキーに絡まれた経験はほとんどない。
高校入学当初はそれなりにあったものだが、目つきの悪さが幸いしたのだろう。目を合わせると大抵の人は逃げ出してくれた。まあそれが結果的に月島明里という名の本当の私とは違った偶像を生み出していったのだから、幸いとは呼べないかも知れないけれど。
こういうのは久しぶりだ。怖い。逃げ出してしまいたい。でも……
(このままじゃ、犬原君を……)
私がこの人たちに何かをされるのは別にいい。揶揄われるのも絡まれるのも、私という人間が招いた結果と自己完結できるから。
しかしそれはあくまで、私一人に対してだった場合だ。
もう少ししたら犬原君が戻ってきてしまう。そうなったら、この人たちは彼に何をするか分からない。
ダメだ、彼が戻ってくるまでに何とかしないと。これは私が蒔いた種だ。月島明里という、私が生み出させてしまった偶像のせいで彼に迷惑をかけるなんてこと、絶対にあってはならない。
「……さい」
「ああん? なんだってぇ? 聞こえねえなあ」
今の私にできること。しなければならないこと。
それは、恐怖に取り憑かれてこの場から逃げ出すことでも、ましてや屈することでもない。
「うるさい。アンタらがここで飯を食いたいとかそんなの、私にとってはどうでもいいから。鬱陶しいしとっとと消えてよ」
なりきれ。私が大嫌いな月島明里に。
誰も喧嘩を挑むことすらできないヤンキー、月島明里に。
「っ!? んだと、テメェ今何つった!!」
「聞こえなかったの? 鬱陶しいから消えてって言ったの。ああゴメン、もしかして耳が無駄に穴だらけだから聞き取れなかった? 分かった。じゃあもう一回、次は幼稚園児でも聞き取れる声の大きさと絞った語彙で言うね?」
虚構で塗り固めたハリボテは、私という弱くて惨めな存在を守る盾だった。
本当はもうこんなこと、言いたくない。せっかく本当の私を認めてくれる人を見つけたのに。例え彼がいない場所であっても、これからはもう嘘で自分を偽るのはやめようって。そう、思ってたのに。
でも、仕方ないよね。
(この嘘で犬原君を守れるなら。私は喜んで言葉を繕うよ)
それに、私は知っている。
月島明里がどう見られているのか。どんな言葉使いを想像されているのか。私の虚構に対するみんなからのイメージは、もう嫌というほど簡単に理解させられてしまっているのだ。
「そういうの……ダサいよ?」
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