『ローズ・デイルの話①』

――昔から、私は優秀だった。見た目も、勉強や運動だって得意だったし、何よりも、〝人並み以上〟に出来た。私は、そんな自分が自慢だった。だから、周りは私を褒め称えた。



ローズ・デイルは天才だと、皆が口を揃えて言った。そして私自身そう思っていたからこそ、その言葉はとても心地よく聞こえた。



そしてそれはいつしか、私の誇りになっていく。だけど、それは自意識過剰の始まりでもあったのかもしれない。

私は、いつの間にか他人を見下すようになっていたのだ。……なんて傲慢な子供なんだろう。

今になって思うと、恥ずかしくて死にそうだ。だけど、当時の私はそれを当たり前だと思っていた。それが、自分の価値なのだと思い込んでいたんだ。



そんなあるとき。私は一人の男と出会った。名前はジール・カンタレラ。彼は、魔法学院で優秀な成績を収めている生徒だった。

私は彼に会った瞬間、衝撃を受けた。何故なら、彼は今まで出会ったことのないタイプだったからだ。



自分と同じように成績が良い人間なんて腐るほどいたけれど、彼ほど頭の良い人間は見たことがなかった。だって、私は常に二位と50点差を離れて一位に君臨してたのよ?なのに、この男との点数の差は二点差。それが衝撃でたまらなかった。

それに、彼は他の人と違う雰囲気を持っている。



余裕があって家柄も私より良かった。私が負けたことは一回もなかったけども、彼のような人間は始めてだった。

私は彼に対抗心を燃やし、絶対に負けるものかという気持ちになった。



現に私が今全勝しているし、このまま行けば彼が卒業するまでには勝てると思った。でも、ジール・カンタレラは余裕のある笑みを浮かべたままだ。まるで、今の私など眼中にないと言わんばかりに。



だから勝ったのに負けた気分になった。それにジール・カンタレラの方が友達が沢山いるし人気者だ。私は、常に一位だけど常に一人ぼっち。だから、いつも孤独を感じていた。



だというのに、ジール・カンタレラは余裕そうな表情をして仲間と笑い合っている。私にはないものだ。羨ましい。悔しいとそう思ったから。……それからというものの、私は彼を負かすために必死に努力した。いつか勝つために。いつか認めさせるために。



「(順位なんて関係ないわ……!)」



そう、順位なんてどうでもいいことなんだ。私は、あの男に勝ちたいだけ。ローズ・デイルとしてじゃない。ジール・カンタレラに一言でもいい。〝負けた〟と言わせたい。そう、つまり――。



「(ジール・カンタレラを本当の意味で倒したい)」



ただそれだけのために、私は一人勉強に育むのだった。



△▼△▼


そしてあれから私は、剣の鍛錬を始めたり魔法の練習をしたりして実力を上げていく。実力を上げていくにつれて、私はジール・カンタレラよりも強くなっていくのを身に感じていた。



でも、ジール・カンタレラは相変わらず仲間に囲まれて楽しげにしている。その笑顔を見る度に胸の奥底が痛くなる。



それが何なのか分からないけれど、何かが込み上げてくるような気がする。

それは嫉妬か?それとも怒りか……それすら分からない。ただ、ジール・カンタレラを見ているとイライラするのは確かだ。



孤独じゃない彼は、私が敵対なんてしているだなんて想像もしていないだろう。

私だって最初は、こんなことになるとは思っていなかったんだもの……!



技術面に関しては私の方が上なのかもしれない。でも、人望や人気度に関しては向こうの方が遥かに上だということは理解していたし、事実そうだったし。そんな彼が羨ましくて仕方がなかった。だから私は彼に嫉妬した。



人望があって人気者で……私の欲しいものを全部持っている彼が憎かった。かと言ってそんなことを言ったらジール・カンタレラを困らせてしまうし、それに何より……そんなこと言ったら子供みたいで恥ずかしいし。



「はぁ……」



今日もまた溜息が出る。……常に一位で孤独なのと常に二位で人望があって人気者なら誰だって後者を選ぶだろう。誰だってそうする。私もそうするし。



私には一位しか取り柄がない。それを取り除いたら私はきっと、誰も相手にしてくれないだろう。……一位だから騎士団に推薦されたのだ。魔法能力も高く、技術面でもトップクラスというのが抜擢理由らしいし。……つまり私は、孤独が嫌なのに一人ぼっちのままだということだ。



本当に、どうしようもない。そう思いながら、今日も私は一人きりの特訓をしていた。



△▼△▼



風の噂で聞いた話によると最近ジール・カンタレラに女が出来たらしい。……そのことで周りは悲鳴を上げていた。まぁ、彼を狙っている女子は多いわけだし。



ただ、本人たちは否定していて、ただの友人だとしか言っていないそうだ。だが、側から見たらただの友達ではないように見えるらしい。……まぁ、私も前見たけど、あれは完全に恋人同士にしか見えないわね……。



それでも本人たちが否定している以上、周りもあまり詮索しない方がいいという結論に至ったらしく、噂は消えていった。それに、噂の相手も婚約者がいるらしいし。まぁ、それに関しては、寝取ったらしいけど、本人達は何も言わないし。



まぁ、そんなもの私にとっては、どうでもいい。関係もないし。……と、そう思っていた。だけど、この前、見てしまってはいけないものを見てしまった。



「……愛していますわ。ジール様」



そう言って抱きつく女………マリー・アルメイダとそれを抱き止めながら、



「…………ああ。僕もだよ。マリー嬢」



そう言いながら、愛おしげに微笑むジール・カンタレラ。……それを見た瞬間、モヤモヤが抑えられなくなった。……悔しい、とそう思った。何故そう思ったのだろう。



それは……分からない。何故、そう思ったのか……でも……



「(……何この黒い感情)」



初めて感じたその感情は、まるでドス黒い何かのようだった。……どうしてだろう。分からない。モヤモヤが止まらない。



「(………わからないよ……)」



と、私は心の中で呟いた――。

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