『クラウス・フォンタナーの話⑦』
こうして久しぶりにカトリーヌ・エルノーと再会出来た訳だが……!なんというか……気まずい時間が流れただけだったし、それに……
「(久しぶりに、会っただけだよな?)」
何でこんなに緊張しているのか。……ドキドキするとかバカみたいだ。なのに、この胸の高鳴りは、どうしたことだろう? 女遊びをしていたときは、そんなことはなかった。なのに、今は……
「(まだ好きなの……俺……?)」
そんなことはないはずだ。だって、半年間も会っていなかったのだ。その間、ずっと忘れていた……否、忘れようとしてきた。それが今になって……
「(何ドキドキしてるんだよ。バカみたいじゃないか)」
この胸の高鳴りは、ただ単に久しぶりだからだ。そうに違いない。きっとそうだ。……なのに。どうしてこんなにも顔が熱いんだろう。こんなのじゃ……まるで。
「(俺、あいつのことが好きみたいじゃないか)」
……バカらしい。ありえない。俺はもうあの女のことを好きじゃないんだから。そう言い聞かせて、もう一度、深呼吸をした。……したのに。何故か心臓の鼓動は収まらないままで。
「嘘だろ……」
思わず呟いた声は誰にも拾われることもなく。そして、それから暫くの間、俺は動くことが出来なかった。
「……俺、まだカトリーヌ・エルノーのこと好きなの……?」
だとしたら、なんて未練たらしい男なんだ……自分の情けなさに呆れる。でも、やっぱり……頭の中に思い浮かぶのは、彼女の姿だった。
△▼△▼
そして一年後。魔法省の仕事を更に忙しくさせていた。だって考えてしまうから。あの時のことを……彼女のことを考えると、仕事どころではなくなってしまう。だからといって他の女を抱こうとは思わない。どうしても彼女に勝てる気がしないからだ。それくらい彼女の存在は大きかった。
変だよ、と言われたら反論はできない。自分でも変だと自覚している。だけど、それでも会いたいと思う気持ちを抑えられなかった。だから今日も気持ちを抑えるために仕事に没頭していたのだが……
「クラウスくん。ちょっといいかい?」
そんなことを思っているとロイドさんに声をかけられた。ロイドさんが俺に話?……やべっ……俺何かやらかしたか……?嫌な予感しかしないんだけど……。
内心焦りながら、平静を取り繕って振り返ると、
「残念ながらクラウスくん。部署変えだ」
「へ!?」
え、部署替え?なんで?一体どういうこと? 混乱する俺に向かって、ロイドさんは笑顔で言った。
「エールくんは結婚して魔法省を辞めてしまっただろう?それで空きが出来たのでね。そこの部署に異動になったよ」
なるほど。そういうことか。……俺が代わりか。あれ……確か……エールってあそこだったよな?魔法生物管理部……だよな?そこって確か……
「(か、カトリーヌ・エルノーがいるところ……!)」
まじか。まじかよ。……え、てことは仕事場でも彼女に会えるってこと?……嫌だな……と、思ってもこれは仕事。そんな我儘は通用しない。俺は渋々、異動を受け入れるのだった。
そして俺は知らない。その後、彼女……カトリーヌ・エルノーと婚約することになってとんとん拍子で婚約の話が進んでいくのを俺はまだ知らなかった――
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