『マリー・アルメイダの話①』

 ――いつもみんなに〝かわいい〟と言われて、チヤホヤされた。



「……マリー、愛してるよ」



周りにはたくさんの男がいて、私は誰よりも可愛かったし、私を愛してくれる人もたくさんいた。



「マリーは可愛いなぁ。将来美人になるぞぉ」



周りの人たちは皆そう言ってくれた。チヤホヤして、私を甘やかしてくれた。両親からも、祖父母からも、親戚のおじさんたちからも、学校の先生たちからも……そう言われた。そのときに私がわかったことは、かわいいというのは正義ということだ。



私が何をしても許されて、誰も文句を言わない。私の機嫌を取るために、みんなが必死になって媚びへつらう。その光景が面白おかしかった。



そんなある日。私に婚約者ができた。名前はクラウス・フォンタナー。子爵家の息子らしい。クラウスは貴族らしくなく、平民にも優しく接してくれるという評判だった。

 


そして私にベタ惚れだ。私が何かを言うとすぐに従い、私のためなら何でもすると言ってくれる。そんな彼を見て、私は心の底から笑った。男なんて所詮こんなもん。顔さえ良ければ簡単に落ちるんだ。



愛している、という愛の言葉を囁けば、それだけでこの男は喜んだ。愛に飢えている男は扱いやすく、楽しかった。だから私はクラウスのことを気に入っていた。



私が笑顔を向ければ、クラウスも笑う。その光景はとても滑稽で愉快だった。笑い堪えるのに必死だった。面白いとは思いつつも、そのうち、私はこの人と婚約する。



婚約者だし当たり前だけど、いずれ結婚することになるだろう。それを考えると少しだけ憂鬱になりながらも、王立魔法学園と入学した。でも、学園に入学しても何も変わらなかった。相変わらず私はチヤホヤされていたし、私の周りには常に人が居た。誰もが私を褒め称えてくれた。まるで神のように崇められていた。



そして――そんなある日。私は彼に出会った。彼の名前はレオナルド・オルコット殿下。将来は国王になる人らしく、めちゃくちゃモテモテだった。そして彼を見た瞬間、私は胸がときめいてしまったのだ。

今まで感じたことの無い感情に戸惑うも、すぐに理解できた。これが恋なんだって。



「(これが真実の愛だというの?神様!)」



しかも、彼は国王になる男。玉の輿間違いなしだ。それに容姿端麗でカッコいい。まさに理想の男性だった。



「(絶対に振り向かせて見せるわ……!レオナルド・オルコット!)」



と、私は決意を固めた。



△▼△▼


――この男はめちゃくちゃ簡単だった。ちょっと優しい言葉を掛けてあげるだけで、頬を赤らめて嬉しそうな表情を浮かべる。チョロいと思った。



……次期国王なんだからいつもとは勝手が違うと思っていたけど、結局他の男と同じだった。



「……つまらない……」



相手は次期国王陛下なわけだし、少しぐらい手応えがあるかと期待した自分がバカみたいだった。それほどまでに自分が魅力的だというのならしょうがないけどねー。レオナルド様の婚約者って地味でパッとしないし、女に飢えてたことは確実なわけだし……まあ、そのおかげで簡単に落とせたんだけど。



「カトリーヌ・エルノー……ねぇ」



次期王妃なだけであって家柄もそこそこいいし、成績も悪くない。でも、それ以外がダメすぎる。容姿は普通だし、性格はキツい……というわけではなく、人形みたいな感じだ。



所謂、操り人形っていうやつ?自分で物事を決めることができないタイプの人間だろう。そんなんじゃ、王妃としてやっていけないと思うんだけど。



「……まあ、私には関係ないことだよね……」



あんな女の分析をしたところでどうしようもない。だって……どうせ婚約破棄されるんだから。あの女は私の手で破滅する運命にあるんだから。



「……ふふっ、楽しみ」



早く、見てみたい。自分の手の上で転がされている女の無様な姿を見たいし、絶望している顔を見てみたい。ああ、考えただけでもゾクゾクしてくる。



だから、早く破滅して私の心に彩りをちょうだいよ、カトリーヌ・エルノー……と、私は呟いた。



△▼△▼



あれから、レオナルド様とカトリーヌ・エルノーが婚約破棄した。そして私は玉の輿に乗れたというわけだ。……と、思っていたが。



「(クラウスとカトリーヌ・エルノーが話してる……?)」



クラウスは私と婚約破棄したとき泣き言を言っていたので、何かをしてくるとは思ってはいたが……



「(まさか、こんなにも早く動くなんて)」



カトリーヌ・エルノーと協力するのはまぁ、別に構わないのだけれど。どうせ失敗に終わるだろうし。



「(私が気にすることは一つもないわ。でも……)」



私は扇子を握りしめながら、二人に近づきながら――。



「あらぁ。楽しそうですわね。私も混ぜてくださらない?」



二人の会話に割って入り、ニッコリと微笑みかけた――。

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