『カトリーヌ・エルノーの話⑤』

――あれから数ヶ月が経った。エール様は結婚し、魔法省を辞めて結婚していった。



あのときの幸せそうな顔を今でも思い出すことができる。私はそれを心の底で祝福し、そして羨ましく思った。だけども、私はきっと幸せな結婚なんて出来ないのだろうなと諦めていた。だって私には愛してくれる人がいないし……



〝婚約破棄〟騒動で私は腫れ物扱いだし、こんな私を貰ってくれる物好きなんて金目当て以外いないだろう……とそう思っていたのだが……



「おんぎゃあ、おんぎゃあーー」



まさか自分が赤ちゃんを産むとは思わなかった。それも義務感で産んだ子供ではなく、ちゃんと愛のある子供を産むとは思ってなかったし。



「……よしよし」



ミルクを与えながら私はため息を吐く。私は今子育てに奮闘中だ。最初は大変だったけど、今はもう慣れたし。



「……本当、クラウス様に感謝ね……」



私はぽつりと呟いた。そう、私が結婚した相手は、クラウス・ファンタナー様である。私の夫であり、この子の父親でもある。クラウス様はとてもいい人で、とても優しくしてくれた。



学生時代から私のこと好きになっていたらしいけども……



「(未だに、分からないわ。絶対に王立魔法学園にいた頃はクラウス様は私のことを女にすら見ていなかったはずなのに)」



一体いつの間に?……と今でもそう思っているし、何ならどうしてこうなったのか分からない。ただ、今幸せだし……別に気にしないでもいいかと思うことにした。



それに……そんなこと気にしている暇なんてないし、私にも色々とやらないといけないことがあるのだ。

まずはこの子――アルと名付けられた我が子をどうするかということ。



アルはまだ生まれて間もない赤ちゃんだ。これから成長するにつれて魔力も強くなっていくだろう。どうかこの子は……まともな人生を送って欲しいものだ。



婚約破棄なんてされず賢く、そして逞しく育って欲しいものだと思う。そして普通に結婚し、幸せになってほしい。そのためには私は頑張らないといけないし。



「(他人に流されたばかりの人生だったけども……この子には、自分で道を選んでもらいたい……!)」



それが私の願い。だから私はアルのことを必死に育てていくつもりだ。クラウス様が結婚した理由なんて今じゃどうでもいいし、この子が元気に生まれてくれただけで十分だと思えるくらい嬉しいことだから。



「……だから、お願い。貴方は……」



私みたいにならないでね……と、強くそう思った。

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