『馬鹿な俺の考え』

――選べた人間と、言われたままに行動してきた人間。



どっちが優れ、そして必要とされるか――と聞かれたら。人は恐らく、前者を優秀だと答えるだろう。



そして俺――レオナルド・オルコットは、前者の人間だとそう思っていた。とゆうか。そう思っていたし、疑ったことだってなかった。



だから、人を見下してもいいと思っていた。王族で時期国王候補というだけで擦り寄ってくる奴らも。自分一人では何も出来ない婚約者もそして自分の後ろをついていくだけの弟も。何もかも見下していた。



弟に関しては、昔は可愛げがあったのだが……しかし、中学生にもなると、そういう可愛げも薄くなり、心の中で見下す存在に成り下がってしまった。



そして、見下していたからこそ、優しくできる。心の中でどれだけボロクソに言ってはいても、優しくするのは忘れなかった。



心に余裕があると、人は優しく出来るというのはあながち間違いではない。俺の心にも、そんな余裕が生まれてきたし。まぁ、心の中じゃ見下してたけど……



婚約者も、俺の周りにいる奴らも、そして弟も。皆、俺の背中を見てついていっている。

――それが快感だった。



△▼△▼



――調子に乗っていた時期もある。俺に敵うやつなんていないと。

今考えるとバカみたいである。しかし、その時は本気でそう思ってしまっていたのだ。



しかし、マリーという女に出会ってから俺の人生は大きく変わり始めた。

――マリー・アルメイダ。マリーは優しく、そして強かった。



マリーのことはこの俺ですら見下せない。それどころか、尊敬までしている。だって、その美貌に、行動力。俺はマリーに勝てるとこなんて1つも見つからなかった。



それに、俺に気があると思っていた。

俺の周りをチョロチョロと動くマリーを見ていたらそう思うのも無理はなかった。それに実際、俺が何かアクションを掛けたらあっちもその気だったし。



正に、俺とマリーは、相思相愛。そう、思っていた。実際、婚約者に婚約破棄をされた時も、マリーの為にと、そう思っていたし、マリーも嬉しがってくれた。



そう思っていた。

しかし、マリーの性格は一変。束縛し、俺の行動を制限するようになった。

最初は嬉しかった。しかし、次第に俺は窮屈さを感じ始めた。そして、マリーの束縛が鬱陶しくなっていた。



そしてそんな中で出会ったのはエリー。エリーは美しく、気高い女性だった。そして初めて出会ったときのマリーと同じく、俺を束縛することもなかった。

俺はマリーの束縛から解放されたかったし、エリーと一緒になりたかった。



が、最初は束縛しなかったのはマリーも同じ。故に、彼女も付き合ったら束縛をするのでは、と俺はそう思っていた。しかし、付き合ってもエリーは俺の束縛をしないし、俺の行動を制限することもなかった。



だから、俺はマリーを婚約破棄しよう……と思ったところで、



「よぉ。レオナルド様よ」



クラウス・ファンタナーに呼び出されたのだった。



△▼△▼



――結果として。マリーも浮気をし、俺もエリーに浮気をしていた。仲良く、浮気をしていたこと。そして慰謝料をカトリーヌとクラウスに払うことになった。



別に払うことはいい。それに、俺は時期国王候補である。金なんて有り余ってるし、払えない額ではない。だけども――。



「……も、もう一回言ってください……!」



場所は応接室。父親に呼び出されて、俺は今話を聞いていた。



「……だから、お前はもう国王候補ではない。お前は浮気をし、カトリーヌ・エルノーとマリー・アルメイダの婚約破棄をした。一回目はエルノー家も受け入れたからどうとでもなったがアルメイダ家はそうはいかない。アルメイダ家は婚約破棄を受け入れた。そして、お前は国王候補ではなくなった。ただそれだけだ」



父親に呼び出されたかと思ったら、聞かされたのは。しかも国王候補から外されたということだった。

俺は、どんなに浮気をしたって、父親は俺に興味がないから、俺のことを許してくれると思った。それは間違いだったのか……?いや、でも……



「別にお前が、何をしたってどうでもいい。好きにすりゃいいと思うぞ。……ただ、それは俺が迷惑をかけてなきゃだけの話だが」



心を読んだかのように俺を睨みつけながらそう言った父親。その言葉に俺は言葉を失った。頭が真っ白になって何も答えられなかった。



何を言えばいいのか全くわからない。どうすれば――



「もう。お前は、次期国王候補ではなくなった。お前は腑抜けになったんだよ」



淡々とそう言って、その場から去っていく父親。俺はその場から動けず、俯いた。



△▼△▼



――その日から、俺は腑抜けになってしまった。父親にそう言われたあの日から、俺は勉強もしなくなった。最も、俺は天才だから。見て、すぐに覚える頭脳を持ち合わせていたから、ヤケクソになった状態でも、勉強はできた。だけど、もう俺は国王候補ではなくなったから、意味はなかった。



そして見下していた弟――ジョンが国王候補になった。…信じられるか?あのジョンが国王候補になったんだ。見下し、バカにしていた弟が、だ。



負けた、と思った。見下した、そんな相手が次期国王候補――?俺は、もう国王候補ではない。……もう、国王になることはない。

俺は、見下していた弟に負けたんだ。



あんだけ腑抜けていた弟が、国王候補になった。俺より出来ないと言われ、俺より劣っていると思っていた弟。……周りも、手のひらを返すように、弟を褒め称えた。



調子のいい奴らだと思うし、俺は国王候補じゃないから、もうどうでもいいけど。それに、エリーが隣にいるからそれでいいと、俺は思った。



それだけで別にいいじゃないか。俺は、エリーといられればそれでいい。カトリーヌやマリーが今どうなろうと、俺には関係ない。

だけども、やっぱり俺は国王候補ではなくなったからなのか――もう何もやる気が起きなかった。



一応、エリーとは結婚はした。それだけが幸福で、それ以外は何もいらなかった。しかし、幸福だけでは金は貯まらない。だから俺は魔法省に入った。



国王候補ではなくなったとはいえ、俺は優秀。魔法省でも、その実力は認められ、すぐに魔法省のトップである、総隊長へと上り詰めた。



正直、仕事なんて簡単だった。だって仕事の内容は暗記したり計算したりしたらいいだけだし、俺は天才だから。

……でも、魔法省に入っても俺の心は満たされることはなかった。



無論、やりがいは感じている。しかし、俺の心を満たしてくれるものではない。

満たされている、と感じるのは、エリーと一緒にいる時だけ。



エリーは優しく、受け止めてくれる。こんな俺にも優しく微笑んでくれる。……こんなどうしようもなく、屑で、腑抜けな俺でも。



エリーは愛してくれる。エリーは俺を必要としてくれるし、職場での頼れることは悪くはないが、やはり、エリーといる時が俺にとっては一番だった。

依存、していると自分でも思う。

でも、それでも俺はエリーと一緒にいたい。だから今日も、俺は仕事を終えて家に帰るのだ。



「帰ったら……エリーがいる……)」



そう思えたら、仕事も頑張ろうと思える。

家に帰って、エリーと他愛のない話をして、愛し合って。そしてまた明日を迎える。



――それが今の俺の幸せなんだから。

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