『ジョン・オルコットの話①』
俺――ジョン・オルコットはずっと出来のいい兄と比べられていた。兄は優秀だ。勉強はできるし、運動も得意だ。
対して、俺は兄とは違い勉強も運動もそこそこ。決して出来ないわけではないが、取り立てて優れているわけでもない。
だから俺は、兄にバカにされた。兄の取り巻きにもバカにされた。でも、それに対してはそんなにダメージは受けなかった。何故かって?両親はそんなに兄ばかりを可愛がらなかったからだ。否、可愛がっていないというのは語弊があるかもしれない。
興味がなかった、と言った方が正しいのかもしれない。それは兄にも俺にも。だって、両親にとって俺たちはただ生きていくための道具でしかなかったから。
だから俺は思ったんだ。俺に価値なんてないって。きっと両親にとっては兄も俺も同じ。ただ生きていくための道具に過ぎなくて、だから俺のことなんて見てもくれなくて。
だったら俺だって好きに生きよう。俺を見もしない両親なんて、もう俺には必要ないんだから。
兄は優秀で、成績も良く、そして仕事もできる。それ故に、モテモテだった。女には困らないほどモテていた。
故に、プレイボーイでもあった。来るもの拒まず、去るもの追わず。そんな男だった。
だが、そんなスタンスでは、いずれ女に刺されて死ぬだろうなと、俺は思った。婚約者がいる身でありながら、他の女と関係を持つなんて、不誠実極まりない。
ただ、あの婚約者も兄に興味はなさそうな雰囲気だったし、兄も兄で婚約者に興味はなく、割といい関係を紡げている?と、そう思っていたが……。
「……え?婚約破棄したの?」
「はい。ジョン様」
俺の専属執事であるマークである報告を聞きながら、俺はため息を吐きながら、
「正直意外。兄が婚約破棄するとか……」
そう、俺的にはそれが驚きだった。だって兄と婚約者も、お互い興味がなさそうに見えていたし、割といい関係を築けたとそう思っていたのだが――。
「あの馬鹿……失礼。レオナルド様は、真実の愛を見つけた、と」
「……真実の愛?」
馬鹿、という言葉に苦笑しつつも、マークはそう続けた。それにしても、真実の愛……
「まさか、今時そんな臭いセリフを聞くとは。で、その真実の愛を育む相手っていうのは?」
「マリー・アルメイダ……という子爵家の娘です。全く、時期国王候補が子爵家の娘と一緒になるとか何を考えているのでしょうか……エルノー家も伯爵家ではありましたし、正直、旦那様の判断は正気か?と疑いたくもなりますが……これならまだカトリーヌ・エルノー嬢と一緒になったほうが……」
愚痴るマークに対し、俺はただただ苦笑しか出来なかった。マークは割と、兄にも婚約者にも辛辣だ。いや、二人だけじゃない。俺にも、父親にも辛辣だ。
唯一、優しく話すときは亡くなった俺の母親だけだ。母親を話すときのマークはまるで別人だな、とそう思うぐらいには。
「それにマリー・アルメイダのこともあまりいい噂を聞きません。これが妃になど……正直、私は反対です」
「マークが言っていることは最もだけど……兄がそれで止まると思う?」
「思えません。……恋というのは自由なのは分かってはいますが……どうも胡散臭いですよねぇ。カトリーヌ様は、レオナルド様に興味がないのは見て明らかでしたから。それに比べてマリー・アルメイダ様のほうは……惚れているような素振りを見せてはいますが……正直フリにしか見えませんでした」
淡々とそういったマーク。その言葉に俺は苦笑するしかない。……俺は兄の新しい婚約者には会ってはいないが、噂だけなら聞いたことがある。
自身も婚約者がいるくせに沢山の男を惑わした小悪魔的な女、というのは一部の生徒から聞いた話だ。故に、俺もマークと同じく、あまりいいイメージは持ってはいない。
ただ、会ってはいないのであまりイメージで言うのはどうかと思い、俺は何も言わなかったけども。
そんなことを思っていると、コンコンという扉を叩く音が聞こえる。それに返事すると、部屋へと入ってきたのは……
「……ジョン様。ご報告があります」
そう言いながら書類を持ってきたのは父親の専属執事であるセドリックだった。
……俺はこのセドリックという男が正直苦手だった。だって、この男……あまりにも機械的だったから
父親の命令を淡々とこなすその姿は、人間味がなくて怖かった。
まるで人形みたいな男……それがセドリックに対しての第一印象だ。そしてそれは今も変わってはいない。有能だとは思っているけど。
そんなことを思いながら俺は書類を受け取って……
「………え?」
セドリックから渡された書類に目を通した俺は、驚きの声を上げていた――。
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