『カトリーヌ・エルノーの話②』
あれから数日が経ち魔法省は変化を遂げていた。
結局、エール様は魔法省を辞めることはなく、それどころか魔法省の人事権を握るトップになったのだ。
つまり、エール様が一言言えばどんな部署でも逆らえない。例え、それが上層部であっても、彼女には逆らえることはない。もちろん、それは私もそうである。エール様のことは上司として尊敬しているし、なにより憧れの存在だ。
そして私にできることと言えばエール様や上司に言われたことを忠実にこなすことだけだ。人のいいなりになる人生に結局変わらないかもしれないけれど、それでも学生時代よりはマシだと思えた。
レオナルド殿下と婚約破棄されて、ジール様とクラウス様のいいなりしか出来なかったあの頃。今ならわかる。あの時、私は自分の意思を何も持てなかったんだって、そう気付かされた。
言いなり人形になっていたあの時の自分はもういないし、今は自分というものを持っている。だから、私は自分で考えて行動することができる。それが何よりも嬉しいことだ。
「……昔と今どっちが充実してるかなんて考えるまでもないわね」
独り言を言いながら私は書類整理をする手を休めずに仕事を続ける。すると、突然ノック音が聞こえた。こんな時間に誰だろうと疑問を抱きながらも私は返事をした。
「やぁ。カトリーヌ・エルノー嬢」
ニコニコとした笑顔で部屋に入ってきたのは――
「フール様、お疲れ様です」
上司であるフール様に頭を下げながら挨拶した。
相変わらずフール様は素敵な方だ。上司としては勿論のことだが、人としてとても魅力のある人だと思う。そんなフール様だからこそ、女性からも男性からも好かれる存在なのだと思う。
「どうだ!カトリーヌ嬢。少しは慣れたか?」
「はい。皆さんのお陰もあってだいぶ仕事に慣れてきました」
「それは良かった。まぁ、君は優秀な人材だからねぇ……このまま順調に行けばいずれ私の右腕になってくれるだろう!」
「そっ、そんな恐れ多い……」
冗談か本気なのかわからないなぁ……この人は。フール様の右腕になれる日が来るのかわからないけど、少しでも早くそうなれるように頑張ろうと思った。
「ところで、新しい仕事の話があるんだけど……」
「新しい仕事ですか?なんでしょうか?」
「うん。実はね、君にやってもらいたい仕事があってさ。その仕事をするにはある場所に行って欲しいんだよ」
「……仕事ですか……一体どこへ?」
私がそう聞くとフール様はニコッと微笑みながら言った。
「ふふ……ちょっと変わったところだよ」
……何か企んでる顔をしている。フール様がそんな表情をするのだなんて珍しい。何だかいたずらっ子みたいな感じがする。
「……えっと、その場所とは?」
「ああ、それはねー。王宮だよ。エールは調子に乗りすぎた……少し痛い目を見せてやらないと」
そう言ったフール様は何かを見つめている。というよりエール様が調子に乗りすぎている?もしかして、エール様に何かするつもりなんだろうか……?
「カトリーヌ嬢、君にはね。王宮へ書類を届けて欲しいんだ」
「届けて欲しい……ですか?」
王宮に書類を届けるなんてそんな簡単なことを私に頼んでくるなんて、何だか拍子抜けしてしまう。そんなことならわざわざ呼び出さずに自分でやればいいのに……と思ってしまうけどフール様には何か考えがあるのかもしれない。だから素直にフール様の言う仕事をすることにした。
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