『カトリーヌ・エルノーの話③』

王宮に書類を届けるということは、この仕事をする限り王宮に入るということになる。そう考えるとなんだかワクワクしてしまう。



別に王宮に興味があるわけではないけれど、普段入ることが出来ない場所に足を踏み入れることが出来るのだ。そう思うと冒険家になったような気分になる。

まぁ、実際は書類を王宮に届けるだけなんだけど……それでも、王宮に入ったという事実が私の中で大きく膨らんでいった。



「……あら。カトリーヌちゃん?王宮に用があるの?」



声をかけられ振り返ると、そこには……



「エール様……丁度良かったです。エール様宛に資料を預かっています」



エール様に書類を手渡すと、エール様はパラパラと資料を捲りながらエール様は書類を読んでいく。エール様は資料を見るたびに険しい表情になっていく。

……なんだか、怖い。いつものエール様じゃないみたいだ……一体、何が書いてあるんだろう……?



「……ふぅん、そう。そういうことするのね……フール……!上等だわ……!」



「……何て書いてるんですか?」



単純に気になったので、私はエール様に聞いてみた。すると、エール様はニッと口角を上げて言った。

……何故かわからないがその笑顔がすごく怖いと思った。

そして私に向かってこう言ったのだ。



「……いいえ。あいつが挑発まがいなことをしてきたから、つい頭にきちゃっただけよ。何なら見る?貴女もきっと驚くわよ」



そう言って差し出された書類を見て私は絶句した。だってその書類には



〝エール・バイエル侯爵令嬢を我が国の王太子殿下の婚約者とする。尚、拒否権はないものとする。国王陛下並びに宰相閣下より許可済みである〟という文字。その下には王家の紋章が入っていた。



「……厄介だわ。本当に……こいつは……」



ため息を吐くものの、どこか嬉しそうな顔をしながらエール様は呟いた。……どうしてだろう。何故だか胸騒ぎが止まらない。



「……まぁ、私も好き勝手やらせてもらっているけどね。こんなもの送り付けてきたら余計に面白くなってきたわ……!」



そう言うと、エール様は私の肩に手を置きながらニコニコと笑っていた。…あぁ、やっぱり怖い。エール様の目の奥が笑ってない。むしろギラついてる気がする……。



「……ねえ、カトリーヌちゃん。手伝ってくれないかしら?」



「……何をですか?」



協力してほしいと言われても、私ができることなんてたかが知れていると思うんだけどなぁ……



「協力、と言ってもそんな酷なことは言わないわ。ただ、貴女の持っている情報を少し提供して欲しいの」



「情報……何の情報でしょう?」



「それはこれから話すわ。まずは場所を移しましょうか」



それから私はエール様に連れられ王宮の一室へと移動することになった

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