『クラウス・フォンタナーの話③』

――あれから俺はカトリーヌ・エルノーに、復讐の話を持ちかけたが、彼女は面倒くさそうに首をふった。



彼女は〝復讐〟という理由では動かないのだ。

ただ、自分の利益のためにだけ動く女だ。きっと、ああいう女は自分にとって得になることしかしない。



別にそれは悪いことではない。俺だって自分の利益のためだけに動いているし。



「(……もうあの女のことは……諦めるか……)」



復讐するなら一人より二人のほうがいいと思ったんだがな……しかし、やりたくない、という人間を無理矢理巻き込むのも違うし……俺のポリシーに反するし。



そう思っていると、



「レオナルド殿下。私、カトリーヌ様と一緒の学院にいるのが怖いんです。階段から突き落とされましたし……」



不意にマリーの声が聞こえてきた。声の方を見ると、マリーが不安そうな顔でレオナルド殿下を見ていた。……昔は惚れていた女だというのに……今は、ただ憎いだけの女だ。



「ふむ……そうなのか?なら、あいつを退学させるか?」



と、とんでもないこと言い出したぞこいつ……!いくらなんでもそこまでやるのはダメだろう!! だが、マリーはその言葉を聞いて顔を輝かせた。

そして、 ギュッ マリーは両手を胸の前で組みながら、レオナルド殿下を見つめ。



「よ、良いのですか……!?」



演技が上手い。そりゃ、俺も騙されるわけだよ……!しかし……



「(いいこと聞いた……)」



これなら、彼女も手伝う気になるかもしれない……と、思いながらも……



「(てゆうか、突き落とした?カトリーヌ・エルノーがマリーを突き飛ばしたのか?)」



違和感がある。……だって突き飛ばしたって……傷一つ付いてねーし。マリーには目立った外傷はない上、マリーは本当にされたらもっと大袈裟に騒ぎそうなものだし。



「(……本人に……探りを入れるしかないか……)」



しかし、俺がそれを聞いたところであいつは素直に答えるか分からないし……これは……そうだな。



「(女装するしかないよな!)」



……そう。あいつは捻くれてるし、女にしか話せない話題もあるだろうし。……決して……女装したいとかそういう理由じゃないんだからねっ!と、誰に言い訳しているのか分からないまま、俺はウキウキでドレスを物色していった。



△▼△▼



ドレスは……白を基調にした清楚なものにしてみた。瞳の色は誤魔化せようがないが、髪はウィッグをつければなんとかなるだろう。化粧もしっかりすればバレまいし。よし。完璧だ。これでいこう。そして後は……



「あっ……す、すみません」



後はぶつかるフリをしつつ、カトリーヌ・エルノーに接触した。案の定、カトリーヌ・エルノーは俺……クラウス・フォンタナーだとは気がついていないようだ。まぁ、俺の女装は完璧だから仕方ないけどな。



そして俺がさりげなく、マリーのことを聞くと、やはりマリーのことを階段から突き落としてはないらしい。やはりか……



「やはりか」



いつも通りの声に戻りながらそう言うと、彼女はとても驚いた表情で俺を見上げていた。

やはり俺の女装は完璧だ。一方、カトリーヌ・エルノーの声が変わっても、まだ気付かれないのでウィッグをとると……

カトリーヌ・エルノーはようやく俺に気が付いたらしい。



「く、クラウス様?」



と、カトリーヌ・エルノーは驚きの声をあげていた。

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