『ジール・カンタレラの話③』


――そしてとうとう復讐の日が来た。



「いよいよだね」



「いよいよ……ですね」



僕の言葉にカトリーヌ嬢は頷きながらも神妙に呟く一方で、彼女の隣にいるクラウスは楽しそうに鼻歌を歌っている。呑気なものだ。



「ああ!やっとこの時が来た!!ようやく俺の人生が報われる時がきたんだよなぁ~!」



感極まったように叫ぶクラウスに、思わずため息が出そうになる。それを必死に抑えて、僕はクラウスに声をかけた。



「浮かれるのは勝手だけど、油断だけはしないでくれよ?」



「わかっているよ。ジール。安心してくれ。俺だってそこまで馬鹿じゃない。そんなことしたら今までの苦労が水の泡なわけだし」



……本当に大丈夫だろうか?不安しかない。でも、まぁ……



「(あの女と男もバカだしなぁ…)」



あの二人――レオナルド殿下とマリー・アルメイダはお互い仲良く浮気しているらしいし。マリー・アルメイダは僕で演技をしているからまだいいけど……レオナルド殿下の浮気相手に関しては、本気っぽい感じがある。



いや、まぁ……それについてはどうでもいっか。自業自得だし……



「ほう?まだそんなことを言うんだ?じゃあ、証人を呼ぼーう」



クラウス・フォンタナーの声にハッとする。どうやら出番らしい。演技なんてするのは初めてだ。緊張してきた……。

僕は一度深呼吸すると、ゆっくりと顔を上げた。



△▼△▼



――結果として僕の演技は完璧だった。



「……この高揚感。最高だよ……」



誰もいない部屋の中で一人呟く。僕には、ローズ・デイルには何一つ勝ってないと思っていたけれど、違ったみたいだ。だって……こんなにも気分が良いのだから。



「(この復讐、協力して良かったかもしれない)」



そう思いながら、僕はベンチから立ち上がるのと同時に、



「あ、クラウスじゃん」



ベンチから立ち上がり、歩き出そうとした瞬間。クラウス・フォンタナーが見えて、つい声をかけてしまった。声をかけたら……



「うわ……あ、何だ。じ、ジール

か。驚かすなよ」



彼は僕の顔を見ると、驚いたような反応を見せたが、すぐに笑顔になった。しかし、その笑顔はどこかぎこちなく、強張っているように見える。そしてまた違う方向に視線を向けている。……その方向に視線をやると、そこにはカトリーヌ・エルノーがいた。



「カトリーヌ嬢を見てどうしたんだい?もしかして見惚れていたとか?」



「そ、そんなわけないだろ!誰があんな奴を!」



僕の言葉に過剰反応するクラウス。……どうやら図星のようだ。わかりやすい奴である。



「そうか。じゃあ、僕はカトリーヌ嬢に口説いても大丈夫かな?」



「は?え、いや……それは……」



僕の言葉に動揺するクラウス。……本当にわかりやすい。

しかし、そんな反応は無視して僕はカトリーヌ嬢に声をかける。



「カトリーヌ嬢」



正直、口説くつもりなんてこれっぽっちもない。ただ、動揺しているクラウスの反応が面白かっただけだし。



「……何ですか?ジール様」



カトリーヌ嬢は動揺するクラウスをチラッと見ながら、僕の方に視線を向けた。その顔は無表情で何を考えているのか読み取れない。



「カトリーヌ嬢の姿が見えたもので……それに……もカトリーヌ嬢に挨拶したい様子でしたから」



そう言って、僕は柱の方に歩いていく。こそこそしているクラウスの手を引き、一緒に歩いていく。



「うわ!ちょ、ちょっとジール?!」



クラウスは驚いた声を上げるが、僕はそれを無視してカトリーヌ嬢に声をかける。



「僕が出来るのはこれだけ。……ったく。自分では会いに行けないなんて……本当、ヘタレだよな」



「な、なんだと!ジールお前!」



クラウスが怒り出す。……本当にわかりやすい奴である。



「……カトリーヌ嬢。じゃあ僕はこれで」



そう言って、僕はカトリーヌ嬢に手を振るとその場を後にした。クラウスは何か言いたげな顔で僕を見ていたが無視をする。……これ以上、こいつの相手をするのは面倒だしな、とそう思った。

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