田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに次々と女性が寄ってくる~
おとら
第1話 始まりの朝
ふぁ……眠い。
何やら身体を揺さぶられているが、俺はあえて無視を決め込む。
「こういう陽気のいい日は二度寝に限る」
「ユウマ坊ちゃん、起きてください」
「むっ? エリスか、おはよう。しかし、お布団の魅力には逆らえないのだ」
「相変わらずですね。ならば、こちらにも考えがあります——はっ!」
「うぎゃー!? 何すんのさ!?」
お布団を剥ぎ取られ、床に転げ落ちてしまった。
こうなっては、二度寝は難しい。
「これで、もう寝れませんね」
「全くだよ。 一応、俺は領主の息子なんだけどなぁ」
「何か問題が?」
「い、いえー、なんでもないです」
筆頭メイドにして、俺の教育係でもあるエリスには逆らえない。
なにせ、俺の魔法の師匠でもあるし。
見た目は年齢二十歳くらい緑髪の美女って感じだが、俺が小さい時から姿は変わっていない。
いわゆる、長寿で有名なエルフって種族だ……決して年齢には触れてはいけない。
「それなら結構です。では、ささっと着替えてください。エルバート様が待ってますから。今朝方、帰ってきたばかりですがユウマ坊ちゃんにお話があるみたいです」
「父上が? ……なんの用だろうか? 確か、王都に行ってなかったっけ?」
「さあ、わかりません。ただ、急いでいたみたいですから」
「そっか、とりあえず行ってみますか」
俺はささっと顔と歯を洗い、着替えをして食堂に向かう。
そして中に入ると、屋敷で働いてる従業員が声をかけてくる。
「ユウマ坊ちゃん、おはようございます!」
「今日は早起きですな!」
「みんな、おはよう。いやぁーエリスに起こされちゃってさ」
「あらまぁ、相変わらずですわ」
「ははっ! いつも通りですな! ささっ、旦那様がお待ちですぜ」
「うん、そうするよ。みんなも、今日もお仕事頑張ってね」
挨拶を返しつつ、中央付近にあるいつもの席に向かう。
そこでは父上が先に食事を取っていた。
四十半ばを過ぎているが、相変わらず厳ついし体格も良い。
ヒョロイ俺とは似ても似つかない……本当に息子なのかと真剣に調べたくらいだ。
ひとまず俺も席に着き、眠気覚ましに紅茶を飲む。
「おはようございます、父上。そして、お帰りなさい」
「うむ、おはよう。ワシのいない間、何もなかったか?」
「うん、特には何も。相変わらずって感じ。魔獣や魔物退治や、北の国ガルアークと小競り合いをしたりとか」
「ふむ、報告は受けている。お主もきちんと働いたということも」
「いや、そうしないと師匠二人に怒られるし」
なにせ、十三歳の俺を戦場のど真ん中に放り投げるような人だ。
きちんと働かなかったら、一体どんな目に合うかわからない……ガクガク。
「そこは自主的にやらんか」
「いや、無茶言わないでよ。俺って、まだ十五歳ですよ?」
「無論、それはわかっておる。だが、国の守り手である我々は……おっと、いかん。それに関する話があったのだ」
「えっと、急いで帰ってきた理由?」
「そうだ、アドラス……国王陛下に呼ばれて王都に行ったのだが……単刀直入にいうと、おぬしを貴族の学校に入れないかと提案を受けた」
「……はい? いや、だってそれって……」
確かに俺は年齢的には学校に行ってる歳だ。
ただ生まれも立場も特殊なので、学校に行かずに家庭教師などをつけて過ごしてきた。
何より、それを決めたのは目の前にいる父上である。
俺だって、行けるなら学校に行きたかったし。
「うむ、ワシがそう決めたことだ。あんなところに行っても実戦のなんの役にもたたん。故に撤回するのはアレなのだが、陛下に頭まで下げられては仕方あるまい」
「えっ!? そ、そこまでのことを? ……理由はなんなんです?」
「詳しい説明はできん。ただ、お主を学園に入れるのが目的だ」
いやいや、困るって。
誰にも頭を下げちゃいけない陛下が下げるって相当じゃん。
絶対面倒なことになるじゃん。
「は、はぁ? 全く説明はなしですか?」
「お主はそこに行って、好きに過ごせば良い。私も後ろめたくはあったので良い機会だ。それに、世間を知るのも後継としての役目だ」
「……という建前ですか?」
「……ええい! とにかく行ってこい! わしだって面倒だっ!」
「あぁー! 本音が出ましたねっ!」
「う、うるさいわい!」
俺達があーだこーだやっていると、ガタン!と音がする。
振り返ると、そこには無表情のエリスがいた。
「お二人共、今は食事中ですよ?」
「ご、ごめんなさい!」
「う、うむ、すまなかった」
「ほら、父上のせいで叱られたじゃん」
「何をいうか、お主のせいじゃろ」
「——聞こえなかったのですか?」
「「いえ」」
その声に最後通告を感じ取った俺と父上は、大人しく朝食を食べ進めるのだった。
俺も父上も、曽祖母の代から仕えている彼女にだけは逆らえない。
エルフである彼女は長寿なので、我々など子ども扱いだ。
「ふぅ、ご馳走様でした。とにかく、俺は王都にある学校に行けばいいんだね?」
「うむ、そういうことだ。明日にでも此処を発つがいい」
「はいはい、明日ね……明日かよ! 急すぎでしょ!?」
「だから、わしも急いで帰ってきたんじゃろうか! わしだって王都でのんびりしたかったわい!」
「お二人とも——三度目はありませんよ?」
その言葉に、俺たちは震えながら静かに黙るのだった。
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