第15話 校門にて
入学式から一夜明けて、朝がやってくる。
昨日は、あれから二人に連れ回されて大変だった。
おかげで、どこに何があるとかわかって助かったけど。
「さて、今日から学校かぁ……何気に楽しみだ」
生まれてから、俺は学校というものに通ったことがない。
当然、同世代の人達と関わるのも初めてだ。
流石に領主の息子だから、地元の同じ年の子達は気を使うしね。
「よし、まずは友達作りをしないと」
今のところ、知り合いは女の子しかいないし。
そんなことを考えつつ、食堂に向かう。
今のところ知り合いもいないので、ささっと済ませて学校へと向かった。
そして一度門から出て、寮のすぐ隣に併設されている校舎に入る。
受付の案内に従いまっすぐ行き、一番大きな建物の前にいく。
そこにはクラス分けが書いてあり、自分の名前を探す。
「おっ、あったね……Aクラスだけ、人数が少ないんだ」
A,B,Cと三クラスがあり、Aが二十人、その他が三十人という形になっていた。
そしてその中に、見知った名前が二つもある。
「おっ、セリスにカレンも一緒なのか。それなら、少しは安心できるね」
すると、後ろから喧騒が聞こえてきた。
「おいおい、獣人がいるぜ」
「ここはエリートが揃う学校なのだが?」
「ご、ごめんなさいぃ……」
綺麗な白髪をした、頭に耳とお尻に尻尾の生えた少年が蹲っていた。
その周りには男子生徒が二人いて、前後から取り囲んでいるようだ。
俺は咄嗟に前に出て、その少年に話しかける。
「大丈夫? どうかした?」
「ふぇ? ぼ、僕に話しかけてるんですか?」
「うん、そうだよ。何処か具合悪い? 保健室に行くかい?」
「え、えっと、そういうのじゃなくて……」
その時、男子生徒達が俺をも取り囲む。
「おい、邪魔をするなよ」
「そいつは獣人だぞ?」
「それが何? ここは種族も身分も関係ないって聞いてたけど?」
「ははっ! そんなのは建前に決まってるだろ!」
「おいおい、そんなこと言う奴がまだいたのか。ここは選ばれし者だけが通える学園だぞ? それを魔力のないニンゲンもどきを入れるなんて……どうしてるぜ」
周りの反応を見るに……ここではそういう扱いなのか?
確かに獣人は以前は差別扱いを受け、奴隷だった過去もあるとか。
でも今では廃止されているし、うちの領地では人族と同じように暮らしていた。
「獣人も、俺たちと変わりないと思うけど? そもそも、そうやって虐める方がどうかしてるかな」
「なっ!? き、貴様……」
「俺達を誰だと思ってんだ?」
そして、俺の胸ぐらを掴んでくる。
……その瞬間、俺の中で意識が切り替わった。
これは正当防衛ってことでいいと。
「そうだそうだ! 俺達は侯爵家にも顔がきくんだ!」
「だから、ここでは身分は関係ないって……少し頭を冷やすといい——アクアレイン」
一瞬で相手と間合いを取り……二人の頭上に局地的豪雨を降らせる!
「あばばばば!?」
「つ、つめてぇ!?」
「別にダメージはないから問題ないよね。さあ、行こう」
「ふぇ? あ、あの……」
俺はその子の手を引いたまま、校舎の中に入る。
そして階段を上って行き、一年の教室がある三階に到着する。
そこで手を離し、ようやくその子と向き合う。
すると、小柄で可愛らしい顔をしていた。
「ふぅ、ここまでくれば平気かな」
「あ、あの、平気なんですか? あんなことして……」
「ん? うん、別に構わないよ。あれは、あっちが完全に悪いわけだし」
「で、でも、僕は獣人だし……」
「そんなの関係ないよ。少なくとも、俺は気にしないから」
というより、もしも獣人差別を見過ごすようなら……師匠であるライカさんに合わす顔がない。
あの人はほぼ無償で、俺の師匠になってくれた。
そして、何か俺にできることはありますか?と聞いたことある。
そしたら、もし不当な理由で獣人が虐げられていたら助けて欲しいと。
「本当に? ……変な人」
「いやいや、普通だし」
「そ、そんなことないですっ」
「助けたのにそりゃないよ」
「えへへ、そうでした」
そう言い、ようやく笑ってくれた。
そして、今更なことに気づく。
これは、友達を作るチャンスなのではないかと。
「そういえば自己紹介が遅れたけど、俺はユウマ-バルムンク。一応、伯爵子息ではあるけど作法とか気にしなくて良いよ」
「は、伯爵子息様……え、えっと……僕の名前は、アルトっていいます」
「アルトか……良かったら、俺と友達になってくれない? 実は、ここにきたばかりで知り合いも少ないんだ」
俺はアルトに向って握手を求める。
貴重な男の子の友達だ、逃すわけにはいかない。
じゃないと、女の子の友達しかいなくなってしまう。
すると、観念したのか……アルトが恐る恐る握り返す。
「ぼ、僕で良かったら……えへへ、ここに来て初めての友達」
「おっ、そうなんだ。とりあえず、俺のことはユウマって呼んでね」
「ふぇ!? よ、呼び捨て!?」
「うん? 友達なら普通でしょ? 身分に関しては、少なくとも俺は気にしないから」
「……ユウマ君でも良い?」
「まあ、良しとしよう」
「それじゃあ……よろしくです」
よしよし、これで男友達ができたぞ。
これで、ぼっちにならずに済みそうだ。
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