第59話 複合魔法

 やれやれ、何とか間に合ったか。


 フールさんとは違う左回りから、魔物達を駆逐してきたけど。


 まさか、いきなり


 あの魔法を使える者は、現代には残っていないとエリスが言っていたはずだけど。


「まあ、今はどうでもいいか」


「ユ、ユウマ、何処か怪我でも?」


「大丈夫、少し数が多くて手こずっただけだから」


 流石に魔力はほとんど使ってしまったし、刀で戦ってきたから無傷ではすまなかった。

 でも……ここで引き下がるわけにはいかない。

 俺は大事な人を守れるように、これまで鍛えてきたのだから、


「……私も戦うわ。血だらけの貴方が戦うのに、私が逃げるわけにはいかないもの。言っておくけど、逃げろなんて言ったら許さないから」


「えっ? ……いや、そうだね。君は、そういう女の子だった。あの壁は、保ってあとどれくらい?」


「気合を入れ直したから……あと30秒ってところよ」


「了解。そしたら解除された瞬間に、弱くてもいいから土魔法を地面に展開して」


「……よくわからないけどわかったわ」


 すると、後ろにいるカイル様が立ち上がる。


「お、俺にも何か手伝わせてくれ!」


「もちろんですよ、俺だってクタクタですもん」


「あれ? さっきは任せろって言ったじゃない?」


「俺は任せられるなら任せますよ。それじゃ、特大の火属性魔法を用意していてください」


「ま、任せるがいい!」


 次の瞬間、壁にヒビが入って——魔物が飛び出してくる!


「セリス!」


「わかってるわ! ただの土でいいなら今の魔力でも!」


 セリスが地面に魔力を流すと同時に、俺もそれに水の波長を合わせる。


「俺が教わってきた複合魔法——アクアマッド水の沼!」


「ギャギャ!?」


「グカァ!?」


 広範囲に広がった泥沼に、魔物達がはまって動きが止まる。

 ただ、それも長時間は保たない。

 ならば、今のうちに一網打尽にする!


「カイル様!」


「準備はできている!」


「では合わせるので先に放ってください!」


「うむっ! 炎の大砲よ、敵をうち燃やせ——フレイムキャノン!」


「風よ、炎に纏え——トルネイド!」


 先に発射された炎の大砲に、風が追いついて纏う。

 それは動けない魔物達に着弾し——炎の渦となる!


「ギャァァァ!?」


「ブヒィィィ!?」


 炎の竜巻から逃げられずに、魔物が燃え尽きていく。

 後に残ったのは……魔石のかけらだけだった。


「ふぅ……疲れたァァァ!」


「ユウマ! 凄いじゃない! カイル様も!」


「ふっ、俺がやったことなど大したことじゃない。 複合魔法は、相手の魔力に合わせないと発動しない高度な技術が必要だと教わった。それを土壇場でやるとは……敵わんな」


「いえいえ、これは三人の勝利ってやつですよ。だから、自信を持ってください」


「……そうか、感謝する。セリス殿も、一緒に戦えて良かった」


「こちらこそ頼もしかったですわ」


「それと……もう、婚約の話はしないから安心してくれ」


「えっ? それってどういう……」


「おっと、兵士達がきたみたいだ。さて、俺は下がるとしよう」


 その後、駆けつけてきた兵士にカイル様を預ける。

 俺とセリスは、その場で少し休憩することにした。

 幸い、魔力不足くらいで大した傷はないし。


「ユウマ、本当は……


「……何のことやら」


「ふふ、嘘が下手なんだから。その頬をかく癖は治らないわね? 貴方、いつも嘘をつく時はそうしてたわ」


「げけっ……これだから幼馴染ってやつは厄介だ」


 確かに傷を負っていたとはいえ、あの程度なら刀で殲滅できた。

 ただ、それだと二人の成長にならないとかと思った。

 二人共、前から焦ってる感じがしたから。


「ユウマ、ありがとね」


「別に大したことしてないよ。セリスなら、やれるって思ってたし」


「それも含めてってことよ……これはお礼」


 一瞬、顔に何か柔らかなモノが触れた。


「えっ!? な、なにしたの?」


「い、言えるわけないじゃない!」


 振り返ると、顔を真っ赤にしたセリスがいた。


「いや、何か顔に触れたんだけど……」


「この鈍感!」


「痛いって!?」


「もう知らないわよ! ほんと………ふふ、仕方ないんだから」


 俺は結局、いつものようにほっぺを引っ張られる。


 よくわからないけど、セリスが笑ってるからいっか。


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