第9話 寮に到着

 ウォォォォォォ! いそげぇぇぇ!


 俺は馬鹿か! せめて場所くらいは確認しとけって!


 風魔法を駆使し、都市の中を飛び回る。


 そして、どうにかそれらしき建物にたどり着く。


 門が閉まりかけていて、その前に兵士らしき人がいる。


「こ、ここかな?」


「わっ!? び、びっくりしました」


「あっ、空からすみません。あの、ここって貴族学校の寮で合ってますか?」


「え、ええ、そうですが……あなたは?」


「失礼いたしました。俺の名前はユウマ-バルムンクと申します。明日より貴族学校に通う者で、こちらの寮にお世話になります。閉めるところで申し訳ないのですが、まだ平気でしょうか?」


 失敗したなぁ、ちゃんとした服で来るべきだった。

 ラフな格好をしてるからいちいち名乗らなきゃならないし、こうして聖剣バルムンクを見せないといけない。

 これ、結構恥ずかしいんだけど。

 本当なら手紙と、家紋が入った格好だけで平気だったはずだし。


「案内状の入った手紙に、バルムンク家の家紋……これは失礼いたしました! はい! まだ平気でございます!ささ、こちらにお入りくださいませ」


「ありがとうございます。お仕事終わるところだったのにすみません」


「いえいえ! ……はぁー、いるところにはいるもんだ」


「はい?」


「い、いえ!コホン……そこにある建物に入って、受付に行ってください。そこでもう一度案内状が入った手紙と刀、お名前を言って頂ければ」


「わかりました、それでは失礼します」


 どうにか間に合った俺は、指示通りにすぐ左側にある建物に入る。

 中は広く、左右には椅子やテーブルがあり、生徒らしき人達が談笑していた。

 流石は貴族学校といった感じだ……というか、うちの屋敷の玄関より広いね。


「お茶とかお菓子とか食べてるし、フリースペースって感じなのかも」


「あの、新入生の方ですか?」


 その声の方を見ると、入り口すぐ横に受付カウンターがあるのを発見した。


「はい、こちらが受付でよろしいですか?」


「はい、そうですね。それでは、お手紙と家紋をお願いいたします」


「では手紙と刀で証明書とさせてもらいます」


「手紙を拝見させて頂きますね……ユウマ-バルムンク様、確認いたしました。家紋の入った刀……バルムンク……!?」


「あっ、刀じゃダメですか? これ、一応一族以外は扱えないのですが」


「い、いえ、むしろこれ以上ない証明になります。これなら問答は必要ないですね、理事長からも聞いてますし……」


 理事長? 俺は国王陛下が父上に頼んだってことしか知らないしなぁ。

 そもそも、学園で何をしたらいいかもわかってないし。


「それで、次はどうしたらいいでしょうか?」


「まずは、こちらの台に手を置いてください」


 そこには板があって、横にはよくわからない装置がある。

 うちの地元では、見たことないものだ。


「これはなんです?」


「こちらは魔力を読み取って、本人にしか使えないカードを作る装置です。冒険者カードなどにも使われてる、ダンジョン内で見つかった古代文明の遺産を元にドワーフ族が作成したものです」


「あっ、そういうものなんですね。それじゃあ……」


 手を置くと何やら暖かいモノを感じ……すぐ横にある装置からカードが出てくる。

 おおっ、これが物を作ることに特化してるドワーフの技術か。

 うちの領地にはいないから、会ったことないんだよなぁ。


「これが生徒の証明になりますので、出来るだけ失くさないように。再発行にはお金がかかりますから」


「わかりました、気をつけますね。ところで、自分の部屋ってどこですかね?」


「それでは、私が案内を……」


「いや、私が案内しよう」


「こ、これは、ミレーユ様!」


 振り返ると、そこには美女がいた。

 身長は俺より少し低いくらいだけど、手足が長くてスタイルがいい。

 服の上からでもわかる胸の大きさ、顔は目鼻立ちがしっかりして気の強い感じだ。

 何より、腰まである紅髪は綺麗の一言だ。


「ミレーユ様?」


「こ、こちらの方は」


「あとで自分で説明するから構わない。ユウマ君と言ったな?とりあえず、私についてきてくれ」


「わ、わかりました」


 仕方ないのでミレーユさんについていき、ロビーを歩いていく。

 すると、一部の生徒達が俺をジロジロと見てくる。

 ミレーユさんも目立ってるけど……やっぱり、俺の格好が変なんだ。

 明日からは基本的に制服で過ごそうっと。


「軽く説明する。ここから右に行くと共同の食堂があるから、そちらで朝と夜は食べられる。左に行くと練武場があるから、そこで鍛錬ができるよ」


「わかりました。それにしても、男女が一緒なのですね」


「いえ、寮自体はこちらが男子、向こう側が女子寮になる。右にある通路で繋がっていて、消灯時間までは行き来できるようになってる。ただし、お互いに一階部分まで。それ以降は扉が閉まるし、守衛の方が随時いる。何かあれば……わかるかな?」


「まあ、ろくなことにはなりませんね」


 もし問題を起こせば退学は確実で、貴族の場合だと廃嫡もあり得そうだ。

 そんな危険を冒すような馬鹿は、そうそういないだろうし。


「ふふ、説明をしなくて楽でいい。ただ、出会いの場でもあるので、そこのところは上手くやっていくといい」


「俺には寄ってこないから平気ですよ。こちとら、ただの田舎貴族なので」


「……それはどうだろう? さあ、ここの階段を上がるよ」


「あれ? さっきの説明だと……」


「私は寮長だから特別だ。それに、今回は案内も兼ねてる」


「ああ、そうなのですね」


 ロビーの奥にある階段を上っていき、左右あるうちの右側に向かう。

言った通り、あちこちに守衛の方が立っていた。

 そして、一番奥にある扉の前でミレーユさんが立ち止まる。


「ここが、貴方の部屋になる」


「わざわざ、ありがとうございます。ミレーユさん、寮長ってことは歳上の方ですよね?」


「……本当に、何も知らないのだな。それに、この言葉遣いにも」


「はい? どういう意味ですか?」


「とりあえず、そのカードを窪みにかざして鍵を開けてみてくれ。すでに、貴方専用の部屋になってるはずだ」


「へぇー、便利ですね……おっ、カチャって言った。では、ありがとうございました」


「ええ、また明日以降に。その時に、詳しく説明することになるかと」


 そして、そのまま優雅に翻して去っていく。


 部屋に入った俺は、ようやく落ち着けると思い、ベッドの上にダイブする。


そして、そのまま……眠りに落ちていくのだった。









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