第10話 無自覚に褒める

 ……やらかした。


 結局、そのまま寝てしまった。


 地元を出てから十日間、知らない場所で野宿だったり誰かしらと一緒だった。


 どうやら、自分が思ってた以上に疲れが溜まっていたらしい。


「こんなんじゃ、師匠達に怒られるな。というか腹減った……まだ六時だから朝ご飯の時間じゃないし、とりあえず風呂入って着替えるか」


 部屋に用意された紙には、色々な決まりが書いてあった。

 ご飯は、毎日朝の六半時から八時まで朝食、夜は十九時から二十一時まで。

 別に利用しないでも良いし、昼は学校か外で食べること。

 シャワーは個室に付いているので、そちらを使うこと。

 練武場や外にある庭は自由に使ってよし。

 女子寮に行くには許可が必要で、勝手に行くと罰がある。


「……まだあるけど、ひとまずこんなものか」


 俺は部屋の入口脇にある洗面所から、シャワー室に入り体を洗う。

 シャンプーや石鹸も使い、隅々まで洗っていく。


「あぁー、気持ちいい。村とかにはシャンプーや石鹸が少なかったし」


 貴族学校専用の寮だけあって、ドライヤーとかレンジもある。

 俺は少しだけの手荷物で平気だったくらいだし。


「これもそれも、ドワーフ族のおかげだよなぁ。ほんと、ありがたやありがたや」


 魔素溜まりから生まれる魔物、その魔物を倒すと魔素が結晶化された魔石が現れる。

 その魔石には魔法を込められるので、生活用品や武器や防具に使われる。

 街の街灯から暖房機器、それらを作ったのがドワーフ族達だ。


「エルフとは仲が悪いって聞いたけど、どうなんだろ? そもそもエルフっていっても、エリスしか会ったことないし」


 人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族がいるんだよね。

 昔はよく交流してたみたいだけど、今はそうでもないみたい。


「確かそれぞれに国があるって話だ……いつか行ってみたいね」


 その後、風呂から出てドライヤーで髪を乾かし、備え付きのタオルで体を拭いてから、置いてあった青色の制服に着替える。

 時間が六時半を過ぎていたので、そのまま食堂に向かうことにする。

 鍵を閉めて、一階に向かうと階段脇に昨日の美女……ミレーユさんがいた。


「おはよう、ユウマ君」


「ミレーユさん、おはようございます」


「ふふ、中々に新鮮だ」


「はい? ……何か間違えましたか?」


 ふと周りを見ると、守衛の方や生徒達が目を見開いている。

 言葉遣いとか普通だと思うんだけど……。


「いや、気にしなくていい。さあ、案内するから一緒に食堂に行くとしよう」


「ありがとうございます。もしかして、待っていてくれたのですか?」


「ああ、君は大事な生徒だし」


「大事な……?」


「とにかく、まずは行くとしよう」


 疑問は残るが、ひとまず並んで歩く。

 すると、あちこちから視線を感じる……というより、固まってる?

 あれ? 今日は制服を着てるし、変なところないと思うんだけど。


「なんか、めちゃくちゃ見られてますね?」


「そうか? きっと、貴方が珍しいのかもしれないな」


「いえいえ、俺は普通ですよ。多分、ミレーユさんが綺麗だから見惚れているのかも」


「……そ、そうか? 君もそう思うのか?」


「そりゃ、そうですよ。こんなに綺麗な人は滅多にいませんから」


 容姿端麗で知られるエルフを知ってるけど、それに引けを取らないし。

 スタイル良し顔良し面倒見良し、まさしく綺麗なお姉さんといった感じだ。


「〜!? な、な……」


「うんうん、本当に。あれ? どうかしました?」


「い、いや……早く行くぞ」


「あっ、ちょっと……」


 急にミレーユさんが早足になった……何かしたかな?

 こんなに綺麗な人なら、言われて慣れてるはずだろうし。



 そして、入り口から右方向にある通路を通って食堂に到着する。

 昨日言っていた通り、男子寮と女子寮の中間地点にあるようだ。

 中は広いし席も多く、生徒達がまばらに座っていた。


「メニューは日替わりで決まっていて、学費に含まれているから全て無料になってる。あそこにある列に並んで、トレイを受け取って好きな席につくといい」


「あっ、なるほど。ミレーユさん、ありがとうございます」


「では、私達も並ぶとしよう」


 すると、相変わらずの視線と……声がちらほら聞こえてくる。


「ミレーユ様が男と歩いてる?」


「えっ? 誰だ、あの男……」


「見たところ、新入生みたいだが……」


 うんうん、やっぱり綺麗だから人気者なんだね。

 こりゃ、敵を作らないように気をつけようっと。



 列に並ぶと、すぐに順番がやってくる。

 トレイを受け取って、ミレーユさんの後をついていき、対面の席に座る。

 そのままマナーに則り、静かに食事を済ませる。

 ちなみに、具沢山スープとパンにソーセージとサラダだったけど味は大満足だった。


「食べ終わったらトレイを自分で戻す。とまあ、こんな感じで朝ご飯を食べる。わかったかな?」


「はい、教えてくれてありがとうございます。ミレーユさんは優しいですね」


「……調子が狂うな」


「はい? 何処が具合でも?」


「そういう意味じゃなくて……ふふ、本当に変な子だ」


「褒めてます?」


「ああ、もちろんだ。それじゃあ、入学式頑張ってくれ」


 そして綺麗な歩き方で優雅に去っていく。


 ミレーユさん、綺麗で良い人だったなぁ。







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