第37話 ご対面

その後、日が暮れてきたので屋敷に帰るセリスを送っていくと……。


門の前に、オルドさんが仁王立ちで立っていた。


細身で眼鏡をかけて、背筋が伸びた白髪の紳士……間違いない。


「うげぇ……セリス! 俺はこれにてっ!」


「ユウマ!?」


俺が振り返り逃げようとすると、目の前に門の前にいたはずのオルドさんがいた。

瞬間移動かよ!? 文官なのにエリス並みに早いよォォォ!


「どこに行くのかね?」


「はは……いえ、寮の門限があるので帰ろうかと」


「それなら問題はない、私が連絡をしておいた。少し遅れても問題ないので、うちに寄ると良い」


「……はい?」


「お、お父様!?」


「衛兵から連絡がきて、事情はわかってる。それに……うちの娘を連れ回したことについて聞かんとな?」


……ははっ、どうやら逃げるわけにはいかないみたいです。





大人しく従い、屋敷の中に案内される。


そして応接室にてソファーに座るよう促され、対面にはオルドさんとエリスが座る。


「さて、まずはお手柄だったようだな」


「はい、ユウマがいてくれたおかげです」


「いやいや、セリスさんが機転を利かせたからです」


「ふむ、双方共に力を合わせたということか。無辜の民を守る、貴族としての役割を果たしたことを父として嬉しく思う。きっと、お主の父であるエルバートの奴もな」


俺の父上とオルドさんは、無二の親友とか。

オルドさんは内政を、父上は国の防壁として。

それぞれ立場は違うけど、国のために働いてる人達だ。


「そうですね、あそこで動かなければ殴られてましたよ」


「クク、彼奴なら間違いない。さて……それとは別件で、私にいうことがあるのでは? 嫁入り前の娘をデートに誘うなど」


「お、お父様!?」


「デート……あっ」


しまったァァァ! 全然考えてなかった!

普通に、セリスの気晴らしになるかと思って連れ出したけど……。

年頃の男女が二人で出かける……それは見ようによってはデートだ。


「全く、それに気づいておらんとは。その辺は、エルバートによく似ている。彼奴も、サラと付き合うまで大変だった」


「サラ……母上ですか」


「ああ、私とサラは幼馴染だった」


「お父様、初耳ですわ」


「うむ……話す機会もなかったからな」


俺自身、母上のことはよく知らない。

可愛がってもらった記憶はあるけど、十年前には亡くなってる。

後妻がいる今、あんまり話題に出すのもアレだし。


「とにかく、お主達には自分達の立場を自覚しなさい。英雄バルムンク家嫡男と、代々法務を司るミレトス家の長女なのだから」


「「申し訳ありませんでした」」」


「まあ、うるさい事を言う連中もいる……私個人としては、お主達の関係を好ましく思っているが。私とサラも、結婚後も仲は良かった」


「そうだったんですね。あんまり、周りや父上からは聞き辛くて……」


「仕方あるまい。皆、彼女のことを愛していた。故に失ったことに耐えられるまで時間がかかったのだ。エルバートの奴も腑抜けて、国境が突破されそうになったくらいだ」


「ええ、そのことは覚えてます」


母上が亡くなってから、父上は見るからに元気をなくしていた。

そこをガルアークが攻めてきたんだ。

いっときは、俺達の領内まで食い込まれそうで危なかったとか。

幸い、民が犠牲になるようなことはなかったけど。


「まあ、お陰で立ち直ったとも言えるが。自分が守るべき存在がいること、自分の家の本来の役目を果たすことを思い出したのだろう」


「そうだったんですね。でも、再婚してくれて良かったですよ」


「うむ、本当にな。荒くれ者の奴にはストッパーになる存在が必要だ。お主にとっては、面白くない話かもしれないが」


「いえいえ、昔は確かに思うところはありましたけど……弟も妹も可愛いですから」


「ふっ、あの小僧が成長したものだ。うちの娘を池に落としたり、壺を割ったりしてたというのに」


……やっぱり根に持ってたァァァ!


「はは……その節は申し訳ありません」


「まあ、良い。うちの子にとっても、良い時間となったようだし。さて……こんなところか。ユウマよ、別にうちの娘を誘うなとは言わん。エルバートの息子であるお主のことは信頼してるつもりだ。ただし、そういう目で見られることを自覚しなさい」


「は、はいっ、気をつけます」


「無論、お主が責任を」


「お、お父様!? ユウマ! 早く帰るわよ!」


「ちょっ!? セリス!? えっと……失礼します!」


セリスに引っ張られ、部屋を出て行く。


そして、そのまま玄関まで来る。


「も、もう、お父様ったら何を……」


「なにか言いかけてたけど……」


「気にしないでいいの!」


「わ、わかったよ。まあ、でも話せて良かった。母上の話も聞けたしね」


どうやら、殺されるようなことはなかったし。

どちらにしろ、一度は挨拶をしなきゃとは思ってた。


「私も初耳だったわ。幼馴染か……ユウマ、貴方は私と幼馴染で良かった?」


「そりゃ、もちろんだよ」


「そう……私もよ。じゃあ、また来週」


「うん、学校でね」


暗い夜道の中、俺は気分良く歩いていく。


セリスの顔が、大分晴れていたから。








 

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