第36話 吹っ切れる

 老朽化した建物の破片が崩れたのか!?


 俺の頭の中で、一瞬で思考が行われる。


 一人で避けるのは簡単、セリスと子供も抱えて避けるのは困難。


 成功した場合でも、ここには大勢の人が集まってしまっている。


 あんなのがそのまま落ちたら、怪我人が出てしまう。


 その時、セリスが俺を見てることに気づく。


 そして、その目を見て彼女が逃げないことを悟った。


「ユウマ! 守りは私に任せて!」


「わかった! バルムンク、力を貸してくれ!」


 足に風をまとった俺は、空中を跳ねて岩に迫っていく。

 そして、既に俺の腰にはバルムンクが収まっていた。

俺の声に応えて飛んできてくれた……ならば、あとは俺が!


「絶技——双竜連刃!」


 抜刀した状態から、神速の連続斬りを放つ!

 それは岩をバラバラにし、破片が地上に向けて降り注ぐ。

 だけど、心配は要らない……セリスがいるから。


「お、お姉ちゃん!」


「平気よ! 我らの身を守り給え——アースガード!」


 俺の視線の下に土のドームが現れ、それらが降り注ぐ破片を弾いていく。

 一度クッションを挟んだので、勢いをなくした破片があちこちに転がっていった。

 あれなら、当たったとしても大した怪我はしないだろう。

 俺はそれを上から確認しつつ、地面に着地する。


「よっと……」


「す、すげぇ……! あの一瞬で判断したのか!」


「しかも、あの大きな破片を一振りでバラバラにしたわ!」


「いえいえ、賞賛されるべきは彼女ですよ」


「へっ? わ、私は別に何も……」


「お姉ちゃん! 助けてくれてありがとう!」


 すると、周りの人々もセリスに向けて言葉を投げかける。


「お嬢さん! ありがとう!」


「すごい魔法でした!」


「おかげで大きな怪我人はいません!」


「……そうですか……良かった、私でも力になれたのね」


 すると、セリスの目に力が戻る。


「さっきの冒険者の方!」


「お、おう?」


「すみませんが、まずは衛兵を呼んでください!」


「わ、わかった!」


 男が走り去った後、セリスは周りにいる大人達に視線を向ける。


「すみません! もし宜しければ瓦礫を端に寄せるのを手伝ってもらえませんか!?」


「よっしゃ! みんなやるぞ!」


「おうよっ!」


「ありがとうございます! もし怪我をした人は、こちらの彼の元に! ユウマ、良い?」


「うん、もちろん」


 そうして、セリスの指示の元に人々が動き出す。

 俺は擦り傷などをした人を癒しつつ、セリスの行動を横目で観察する。

 率先して動き指示を出す様は……頼り甲斐のある上官のようだった。




 ◇



 その後、騒ぎを聞きつけた衛兵達がやってきて、軽く事情を説明する。

 俺達は一頻りお礼を言われた後、その場を離れた。

 ご馳走やら何やら誘われたけど、少しセリスが疲れてる様子だったから。

 王都中央にある噴水広場のベンチに座り、ひとまずホッと一安心する。


「ふぅ、危なかったや」


「ええ、本当に。ユウマがいなかったらどうなってたか」


「いやいや、あれはセリスのおかげでしょ。俺一人だったら、もっと怪我人が出てたよ」


「本当? 邪魔してなかった?」


「いやいや、助かったって。あの時、焦って……エリスと視線があったよね? そしたら安心して、俺は俺のやるべきをやれば良いって。後は、セリスがどうにかしてくれるって信じれた」


 戦場でも、ああいう場面は多々ある。

 一瞬の判断を求められたり、何かを切り捨てなければいけなかったり。

 意外と、そういう判断が出来る人は少ないとか。


「あの時は……ただ、必死だったわ。あの子を守るためには、人々に怪我を負わせないためにどうしたら良いのか。一人では無理だったけど、ユウマがいたから」


「……セリス、生徒会の話を受けてみたら?」


「えっ? な、何を急に……」


「やっぱり向いてるよ。俺、自慢じゃないけど人に従うの苦手なんだ。もちろん、相手がセリスだっていうのもあったけど、あの時の俺を頼りにさせる力があったから。それは天性の才能で、後からつくことは難しいんだってさ」


 おそらくだけど、彼女には天性の指揮官の素質がある。

 事故処理の指示の出し方、的確な判断、優先順位など。

 そういう人は、上に立つ資格があると思う。

 何より……この人にならという不思議な力がある。


「わ、私に? ……そうなのかしら」


「うん、俺はそう思うかな。あの時のセリスは、頼り甲斐があってカッコよかったよ」


「ユウマ……私に出来るかな?」


「俺が保証するよ。人々のことを考えて行動ができるし、一人では無理ってことも知ってるから。そういう人に、俺は上に立ってほしいかな」


「うん……前向きに考えてみるわ。ユウマ、ありがとう」


 そう言い、すっきりした笑顔を見せる。


 その目からは、迷いが消えていたような気した。

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