第35話 酔っ払っいの仲裁に入る

その後、冒険者ギルド近くに来る。


スラム街とはいかないが、古い大きな建物がいくつか建ってる。


静かで落ち着いた貴族街と違い、そこは喧騒にまみれていた。


あちこちには屋台があり、人々が道で飲み食いをしている。


それに屈強な男達が目立つ……おそらく、冒険者ってやつかもしれない。


「す、凄いわね。同じ王都なのに」


「まあ、さっきの場所もそうだけど住み分けが出来てるだと思う」


「お父様が、なるべく近寄るなって言った意味がわかったわ。それは下に見るわけではなく、単純に危ないからってことね」


「そうだね。下手すると、さっきの人達のが安全な場合も……ちょっと、待って? 俺、オルドさんに殺されない?」


さり気なく聞き流したけど、それって来ちゃいけないってことだよね?

まずい、俺の頼みで連れてきてしまったぁぁ!

あの人、剣の達人でもあるし怖いんだよなぁ。


「ふふ、そうかもしれないわ。そもそも、その……ユウマと出かけるのだって内緒だし」


「えっ? 内緒なの?」


「あ、当たり前じゃない! 男の人と、デ、デートだなんて……」


「ごめん、セリス。ちょっと様子を見よう」


「ふえっ? 手、手が繋がれて……」


俺はセリスの手を握り、察知した喧騒に向かうと……そこでは男二人が乱闘騒ぎをしていた。


「あぁ!? やんのか!?」


「いいだろう! 表でろや!」


屋台などの出店が出る道のど真ん中で、大人の男が殴り合いをしている。

こういう光景は、地元でもよく見ていたので懐かしい。

ただ……少し危なっかしいかな。


「け、喧嘩かしら?」


「いや、可愛いものだよ。まだ。お互いに素手だしね」


「そ、それが基準なの?」


「うん? まあ、そんな感じ。ただ危ないには違いないし」


「そうよね、あちこちから血が出てるし……あっ! 男の子が驚いて転んだわ!」


セリスの言葉を受け、俺は風をまとって走り出していた。

そして、殴り飛ばされた男を受け止め、子供に当たりそうだったのを止める。

その地面には、食べかけのクレープが潰れていた。


「クレープが……ふぇぇーん!」


「はいはい、大丈夫だよ」


俺は男を押し出し、セリスの方に子供を向かわせた。

セリスが受け取るのを確認し、男達に向き合う。


「な、なんだ?」


「酔っ払って盛り上がるのは良いけど、少しやり過ぎかな? ……ちょっと、目を覚ましてもらおうっと」


「なんだと!?」


「ガキが生意気言って——かはっ!?」


まずは、突き飛ばした男の腹に掌底を叩き込む。

そのまま、地を這うように移動してもう一人の男を昏倒させる。


「——グヘッ!?」


「さて……こんなものかな? おじさん達、騒ぐは良いけど人に迷惑をかけちゃダメだよ」


ひとまず、男達を昏倒させると……拍手が起きた。


「にいちゃん、すげえや!」


「屈強な奴らを一撃で沈めちまいやがった!」


「そいつら、悪い奴らじゃないんだけど、今回は仕方ないね」


「いえいえ、お騒がせしました」


その後、通行人の邪魔にならないように、男達を建物の下に運ぶ。

俺はヒールとアンチポイズンをかけて、痛みと酒を抜いてあげる。

エリス曰く、酒はアルコールという成分を分解するイメージだとか。

ちなみに、普通は毒を抜いたりする魔法らしい。


「いてて……酔いが治った?」


「おじさん達、楽しいのはわかるけどやりすぎは良くないよ?」


「お、俺達に回復魔法を? しかも、酔いを醒ます魔法なんて聞いたことないぜ」


「よく見たら貴族学校の制服……す、すまねぇ!」


「いえいえ、貴族ですけど気にせずに。こちらこそ、手荒な真似をしてすみませんでした」


すると、二人が目を見開いて顔を合わせる。


「……変な貴族」


「冒険者の俺達に謝ったぞ……」


「また言われたし……別に普通なんだけどなぁ」


あまりに言われすぎて、自分が変なのかと思ってしまう。

すると、子供を連れたセリスが向かってくる。


「あと、謝るならこの子にね」


「ああ、坊主も悪かった。弁償させてくれ」


「う、うん!」


「俺、その店知ってるから買ってくるぜ!」


そう言い、一人の男性が駆け出していった。

お酒が入ってただけで、悪い人じゃなさそうで良かった。


「ふふ、良かったわね」


「うんっ! お兄ちゃんもありがとう!」


「いえいえ、どういたしまして」


その時、カラカラと何かが落ちてくる音がした。


「あれ? 何か落ちてきたわ……ユウマ!」


「うん? ……っ!?」


セリスの後に俺が上を向いた時……そこには、今にも崩れ落ちそうな建物の破片があった。


そして、次の瞬間——俺たちのいる場所に向かって大きな塊が崩れ落ちるのだった。








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