第34話 昔のセリス

 その後、満足したのかガレスさんが帰ってくる。


「いや、すまんのう」


「いえいえ、バルムンクも嫌がってないので。さあ、適当にお帰り」


 そして光を放ち、その場から消え去る。

 ちなみに、何処にいるのかは俺にもわからない。


「ふむ、まさしく自由を愛すると言われた聖剣バルムンクじゃな。同じく、自由なお主に惹かれたのかもしれん」


「そういうもんですかね。自分ではよくわからないので」


「くははっ! ……いや、久々に愉快じゃ。ユウマよ、何か頼みがあればいうと良い。できる限り、願いを叶えると約束する」


「ほんとですか!? では、俺をドワーフの国に! 一回は行ってみたいんですよね!」


 まずは海が見たい! さらには、お刺身とかいう食べ物もあるらしいし!


「ふむふむ、人族は難しいがお主なら……わかった、ワシの方で何とかしておこう」


「おおっ! ありがとうございます!」


「それくらいお安い御用じゃ」


「それと、これは出来たらでいいんですけど……」


「ふむふむ……確約はできんぞ? ワシとて、誇りを持って仕事をしているのでな」


「はい、それで結構です。もし、そういう機会があって……


「うむ、わかったわい」


 よし、これで俺にできることはやった。

 後は機会が訪れるかどうかだね。

 その後、俺はぼけっとしてるセリスに近づく。


「セリス、そろそろ行こうか?」


「へっ? ……あっ、うん、そうよね」


「ごめんね、俺達ばかり盛り上がっちゃて」


「ううん、平気だわ。こっちも良いもの見れたし」


「それなら良かった。それでは、俺達はこれで失礼します」


「うむ、またいつでもくると良い」


 最後にきちんとお辞儀をして、建物から出て行く。

 帰りは絡まれることなく、そのままひと気のある場所にやってくる。


「ふぅ……何事もなかったわね」


「そうだね、視線は感じだけど。ごめんね、俺が行きたいって行ったから」


「ううん、私だって興味あったから。それにしても、ユウマって凄いわ」


「うん? バルムンクのこと? でも、あれはたまたまだよ。多分、お互いに気があったんじゃないかな」


 俺自身が優れているから選ばれたなどと思ってはいけない。

 多分、その瞬間にバルムンクは俺から離れるだろうね。

 俺はあくまでも、彼の力を貸して貰ってるに過ぎない。


「ううん、それもあるけど……気難しいと言われたドワーフとも、あっという間に仲良くなって。学校でもレオン君やアルトさん、カレンだって立場は違うのに」


「うーん……もしかして忘れてるのかな?」


「えっ? 何を?」


「それを教えてくれたのが、君だってことさ」


 俺は当時の記憶を思い出しつつ、歩きながら話し出す。


 ◇


 当時の俺は、同世代に友達がいなくて孤独だった。


 唯一の伯爵子息だったし、あそこには貴族は寄りたがらないから仕方ないのことだった。


 腕っ節も強く、剣の才能もあったし相手がいなかったこともある。


 何より、当時の俺は……後妻ができたことをよく思ってなかった。


 それを見かねたのか、エリスがミレトス侯爵家に連れてってくれたんだっけ。


「こ、こんにちは」


「貴方がユウマ? 僕の名前はセリス。爵位に差はあるけど、セリスって呼んで良いから」


 この時のセリスは、今と違って男の子みたいな格好と髪型をしていた。

 だから、俺も気づいてなかったけど。


「セリス……うん! わかった!」


「よし! それじゃあ遊ぼう!」


 俺にとってセリスは、初めて気を使わない相手だった。

 ある程度成長した今ならわかる、本当は俺が敬わないといけないと。

 それでも、セリスは俺と対等に接してくれた。

 時に剣で打ち合い、泥だらけになったり。

 庭を汚したり、花瓶を割ったりして、オルド侯爵さんに怒られたっけ。



 ◇


 そんな思い出話をすると、セリスが微笑む。


「ふふ、そんなこともあったわね。ユウマってば、一緒に風呂に入ろうとするし」


「それについてはごめんなさい。いやー、オルドさんに殺されるかと思ったよ」


「お父様ったら、泥だらけの私を見て大変だったもの。しかも花瓶を割るは、お風呂に入ろうとするは……懐かしいわ」


「うん、そうだね。えっと……何か言いたいかというと、俺に最初に教えてくれたのはセリスなんだよ。相手の身分に関わらず、対等に接したり優しくしたり。引っ込み思案だった俺を引っ張ってくれたしね」


 あれのおかげで、当時の俺は変わった。

 継母との関係や、異母兄弟との関係。

 住民に対する姿勢や、家臣達への態度など。


「そうだったのね……嬉しいわ」


「上手く言えないけど、セリスは人を引っ張ったりするのが上手いと思うかな」


「昔の私は、確かにそんな感じだったわ。うん、そうよね……そういう私に戻れば良いのかしら」


 よしよし、もう人押しって感じかな。


 今度は、俺がセリスを引っ張る番だね。


 それが俺の意識を変えてくれた、彼女への恩返しになると思うから。









 

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