第38話 幕間

 お父様ってば、どういうつもりなのかしら?


 ユウマを帰した後、私が応接室に戻ると……そこには、まだお父様がいた。


「お父様、送ってきましたわ」


「うむ、そうか……話があるのでお前も座りなさい」


「は、はい」


 空気感がさっきとは変わり、真面目な表情だ。

 私は対面座り、背筋を伸ばす。


「さて、第二王子カイル様……というより、国王陛下から正式に打診があった。うちの娘を、カイル様の婚約者にどうかと」


「っー!? ……ついにきたのですね」


「うむ、お主から簡単に話は聞いていたし驚きはなかった。悪い方ではないが、視野が狭く凝り固まった価値観を持ってる。故に、それを補えるお主をということだった」


「不敬を恐れずにいうなら……確かに、そういう面はありましたわ」


「それには同意だ。しかし、そうなると問題も生じる。周りからは、法務大臣である私が後ろに着くと思われるだろう。王位争いの火種になりかねん」


 我が国には財務大臣、軍務大臣、法務大臣という役職がある。

 それは、それぞれの職の頂点に立つ。

 つまり、それだけの力を味方につけるということだ。


「はい、ですので明確なお答えはしませんでした」


「うむ、それでいい。さて、どうしたものか」


「お父様は、どのようにお考えですか?」


「私か……難しい問題だ。あの王子は危なっかしいので、鎖としてお主をやるのも悪くはない。あのままだと、暴走する可能性もある」


「はい、私もそれは危惧しておりますわ」


 焦ってるのか人の話を聞く姿勢がないし、意固地になってる気もする。

 もしくは、誰かに言われてるとか。


「あそこの母親は特権階級の思想が強い。切り離すことができればいいが……ちなみに、保留という返事はしておいた。まだ入学したばかりで時期尚早であると」


「やはり、そうですか。なるほど、わかりましたわ」


「して……ただの父として聞こう。お主はどうしたいのだ?」


「えっ? わ、私ですか?」


 そんなことを聞かれるとは思ってなかった。

 お父様は法の番人だけあって、そういうことには感情を挟まないと思ってたから。


「私とて、ただの父親だ。できる限り、娘の幸せを一番に考えているさ。今までのお主には浮いた話はなかったが、ユウマ殿と再会したからな。どうやら、仲が良さそうだ」


「ユ、ユウマとは何もありません! ただ、私は、その……気になってるといいますか。でも、彼には魅力的な女性が沢山いますから」


「うむ、報告は受けている。公爵令嬢に伯爵令嬢、獣人の女の子など……あの無自覚にモテるのも、エルバート譲りか。そういえば、私の幼馴染であるサラも苦労していたよ」


「幼馴染……私と立場は一緒ってことですね。も、もちろん、私は別にユウマを好きとかそういうアレではなくて……」


 だ、だめ……考えると顔が熱くなってくる。

 私、どんな顔をしてるのかな?


「くく、そういうところも同じだな。まあ、まだ猶予はある。お主にも、普通に学園生活でやりたいこともあるだろう。もし、意思が固まったら私に言いなさい」


「お父様……ありがとうございます。実は生徒会の件もそうですけど、色々とやりたいことがあるのです」


「うむ、学生の本分は本来そういうものだ。準備期間であり、成長する場でもある。その結果、答えが出たら……私も覚悟を決めよう」


「はいっ、それでは失礼します」


 自分の考えをまとめるため、私は自分の部屋に戻る。


「私とカイル王子が付き合うと、バランスが崩れるか安定するか。そこは読めないってことよね。そして、私の気持ち……」


 今日は、物凄く楽しかった。


 大変なこともあったけど、私にも出来ることがあるんだって。


 それを教えてくれたユウマには感謝してる。


 はぁ……自分の気持ちだけを優先できたら楽なのに。







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