第47話 見守る
……来る。
そう思った瞬間、茂みの向こうからゴブリンが飛び出してきた。
「ゴブリンが二体!」
「我の方もゴブリン二体!」
「私の方もゴブリン二体! 二人はいけるわね!?」
「「もちろん!!」」
「それじゃ、目の前の敵を倒してちょうだい! カレン、貴女はいつでも魔法を使える準備と、他に敵が来ないか警戒を!」
「は、はいっ!」
セリスの指示を受け、俺は目の前の敵に集中する。
鞘に手を当てたまま、地を這うように駆け出す。
「ケケー!」
「グキャャ!」
身体強化やバルムンク、そして魔法はなし……更に最小限の動きで仕留めるか。
「グキャァ!」
「遅いよ」
棍棒が振り下ろされるより早く踏み込み、抜刀により首を切り落とす。
ゴブリンは後ろに倒れ、棍棒はカランカランと音を立てて地面に落ちる。
すると抜刀後の隙を狙ったのか、もう一体のゴブリンが棍棒を振り下ろす態勢に入っていた。
「ケケッ!」
「よっと」
俺は左手を、振り下ろされる棍棒の速さに合わせる。
そして体をずらしつつ、そのまま受け流すように地面に誘導した。
相手は地面に棍棒を叩きつけ、戸惑った様子だ。
「ケケ!?」
「どうして当たった感触がないって顔だね——」
無防備に晒された首を斬り落とす。
ライカさんに教わった体術だけど、実戦で練習できたのは大きいや。
「さて、他はどうかな?」
「オォォォ!」
「グキャ!?」
たった今、レオンがゴブリンの頭を拳で粉砕した。
流石にゴブリン程度には手こずらないみたい。
「くそっ、我の方が遅かったか」
「ふふん、俺には速さがあるからね」
「我の課題だな……さて、どうする?」
「もちろん、見守る方向で。セリスが、それを求めてないから」
俺とレオンの視線の先では、セリスがゴブリン二体と格闘している。
交互に攻め込まれ、少し手こずっているようだ。
セリスの腕なら倒すことは難しくない……ただ、実践と稽古は違う。
身体が硬くなって、思うように動かないのだろう。
「はぁ……はぁ……」
「セリスさん! 手伝います!」
「ごめんなさい、カレン。ここは私にやらせて」
「……で、でも」
「カレン! セリスに任せよう! セリス、君なら勝てるはずだ」
カレンが俺の方を見てくるので、俺はコクリと頷いた。
すると、カレンも覚悟を決めたらしい。
俺もいつでも行ける用意をして、戦いを見守ることにする。
◇
……ユウマ、ありがとう。
私を信じて任せてくれて。
私は貴族だし、戦いを生業とするかはわからない。
それでも、このままじゃ何もかも中途半端だ。
この先はどうなるかわからないけど、自分の道を決める自信が欲しい。
「ケケ!」
「クカー!」
「っ……!」
怖い。
身長は私より小さいし、振り下ろされる棍棒だって速くはない。
なのに、身体が思うように動かない。
兵士や冒険者達は、いつもこんなことをやっているのね。
お金や名誉もあるけど、我々のことを守るためにも。
「……私も守りたい」
「ケケッ!」
小さい頃の私はお転婆で、いつか騎士になりたいって思ってた。
でも女の子だと自覚し、侯爵令嬢の立場を知った時……そんなことは無理だと思った。
いつか好きでもない相手に嫁ぎ、国のために奉仕するのだと。
だから、ユウマと会うことも止めた……こうなるってわかってたから。
「でも、別に騎士になって守ってもいいわよね?」
「ギャギャ!」
次々くる相手の棍棒を避ける。
すると、次第に体が軽くなってきた。
「いいよ! セリス!」
「……ほんと、人の気も知らないで」
出会った彼は相変わらず鈍感で、ちっとも気づきやしない。
でも、身分や性別で差別しないし優しい。
そういうところが、昔から好きだった。
……私も、昔みたいに素直になろうかしら。
あの頃みたいに、女とか関係なくがむしゃらに。
「ギャギャ!」
「こんの——いい加減にしなさい!」
「ギャギャ!?」
身体強化を施し、相手の棍棒を弾き返す。
すると、相手はたたらを踏んで後退した。
同時に距離を取って、魔法を撃つ態勢に入る。
狙いはこちらに迫ってくるもう一体のゴブリンだ。
「土の礫よ、敵を撃て——ストーンバレット!」
「グキャ!?」
敵が両手で防御した隙をついて前に出る!
「いまっ!」
「ガ……」
思い切り剣を振り下ろし真っ二つにすると、ゴブリンが魔石となる。
「で、できた」
「セリス! 後ろ!」
「っ……!」
咄嗟に前に出ると、後ろから風切り音がする。
振り返ると、ゴブリンが棍棒を空振りしていた。
危なかったけど、今は隙だらけ……なら!
「ヤァァァァ!」
「グキャャー!?」
無防備になったゴブリンの首を斬り落とし……こちらも魔石になる。
「……倒せた?」
「セリス! 凄いや!」
「……あ、当たり前じゃない! 私にもできるわよ!」
「うんうん、昔みたいなお転婆なセリスだ……ちょっと、今のは冗談……あれ?」
私は怯えるユウマに近づき、その身体を抱きしめる。
この感謝の気持ちが伝わるように。
そしたら……少しだけ、私の道が見えた気がした。
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