第52話 ゴール

三時を過ぎる頃、目的地の近くにやってくる。


まだ日差しはあるし、十分に間に合う距離だ。


「ふぅ、そろそろね」


「つまりは、一番油断してはいけないということだな」


「レオンさんの言う通りですねっ」


「あら、言いたいこと言われちゃった」


「ふんっ、お主にばかり良い格好はさせん」


そんな会話をするくらいに、俺達に余裕はあった。

あの後も結構脱落者を見たから、もしかしたら合格者も少ないのかも。

最初の演習にしては、結構難易度高いと思うし。


「それにしても、いつもこんな大変な思いをしているのね」


「セリスの兵士さん達や、冒険者の方とかはそうかも」


「そのおかげで、わたし達は安全な生活が出来ているんですねっ」


「ふむ、それを知ることも演習の狙いなのだろう。冒険者などは、どうも下に見られがちだ」


レオンの言う通り、冒険者の地位は低い。

便利屋とか、他になるものがないから仕方なくなったとか言われることもある。

彼らがいなければ、俺たちの生活は成り立たないというのに。


「それもあるから、俺は冒険者になりたいんだよね。彼らは、もっと讃えられるべきだ。無論、国を守る兵士たちもね」


「ふっ、良いことをいうではないか……むっ、何かくるぞ。この足音、ゴブリンやコボルトではない!」


「みんな! ここが踏ん張りどころよ! 各自、戦闘態勢!」


「カレン! いけると思ったらいっていい! フォローはするから!」


「わ、わかりましたっ!」


カレンが返事をした瞬間、奴らは現れた。

豚の顔に人の身体をした魔物……オークだ。

強さはゴブリンやコボルトの比ではなく、大人の兵士をも容易く殺す。


「ブヒヒッ」


「フゴッ!」


「くっ……明らかに私とカレンを見ているわ」


「ひぃ……確か、女の人を捕まえて……」


二人の言う通り、オークは少し特殊だ。

基本的に魔物は人を食うために襲う。

しかし、奴らは女の子をいたぶるのが趣味の魔物だ。

故に、女性地には特に忌み嫌われている。


「おい、後ろからゴブリンもきたぞ」


「オークを、女の子に相手にさせるわけにはいかないね。レオン、俺たちでやるよ」


「ふっ、勝負と行くか」


「上等だね。カレン、良い機会だ、ここから撃っても良いかも」


俺とレオンは前に出て、相手を牽制する。

その間に、後ろでカレンが弓を構える……


「いきます——シャイニングアロー!」


俺とレオンの間を、光の矢が通り過ぎ……後ろにいるゴブリンの頭に突き刺さる!

そして、そのまま魔石となった。

矢を光魔法で作ることにより、イメージを具変化させたんだ。

こうすれば魔力の消費も抑えられるし、唯一の弱点である矢が足りないという状況もない。


「フゴッ!?」


「ブヒッ!?」


その光の矢に、二台のオークがひるむ。

その隙は——俺達にとっては致命傷だった。

二人同時に踏み込み俺は居合で一閃、レオンは爪で引き裂いた。

こうして、一瞬で戦闘は終わりを迎える。


「カレン! 出来たじゃん!」


「で、出来ましたっ! これも、ユウマさんのおかげです!」


「いやいや、そんなことないって。それをきちんと出来たのはカレンの力だし。これで、魔力消費はそこまで気にしなくて良いはずだ」


「はい! 魔力の減りが全然違います! 魔力効率って、こんなに大事なんですね……」


「ちなみに、他にも応用が効くよ。例えば人体の構造を知っていれば、効果的に回復魔法が使えるとか」


「あっ……そういうことになりますね。ユウマさんは、そういったことも?」


「まあ、それなりにね」


というより、強制的にやらされた。

血みどろになった兵士達を、それこそ何度も吐きながら。

おかげで、回復魔法は上手くなったけど。


「うむ、今のは良い攻撃だった。速さもあるし、牽制にもなりそうだ。お陰で、オークを苦労せずに倒せた」


「とりあえず、引き分けかな?」


「ふっ、我の方が早かった気がするが?」


「「……ほう」」


すると、セリスにほっぺをつねられる。


「あひゃい」


「ちょっと、さっき注意したでしょ。それに、今は置いてけぼりの私を構いなさいよ。まったく、三人であっという間に倒しちゃうんだから」


「「「あっ」」」


「もう、『あっ』じゃないわよ。私だけ、仲間外れみたいじゃない」


その少しいじけた顔に、三人で顔を見合わせ微笑む。


この短期間だけど、パーティーとして結束が深まったような気がする。


その後、歩き続け……俺達は無事にゴールへとたどり着くのだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る