第53話 合格
日が暮れる頃、俺達はゴールである祠を発見した。
後は、そこにある印を取るだけで良い。
「やったわ! あれよ!」
「ふぅ、疲れましたぁぁ」
「待って!」
進もうとする二人の手を掴み、その場に留まらせる。
俺が試験管、もしくは敵だったらここに仕掛けるはずだ。
最も疲れて、最も油断する瞬間に。
「ど、どうしたのよ?」
「ユウマさん?」
「レオン、悪いけど祠の前にある草木を刈り取ってくれる?」
「……うむ、任せろ」
何かに納得したレオンが、草木を刈り取ると……そこには穴が開いていた。
あのまま進んでいたら、間違いなく二人は落ちていたはずだ。
「あっ……落とし穴」
「わ、わたし達、危なかったです」
「ユウマ、どうしてわかったの?」
「いや、わかってないよ。ただ、俺だったらここに仕掛けるかなって。水辺での休憩と同じように、一番引っかかりやすいと思うし」
ライカさんに森に放り込まれた時もそうだった。
ライカさんの課題を達成した帰り道に、こういう罠がよく仕掛けてあった。
人は目標を達成したとき、最も油断する時だからと。
「そういうことね……全く、いやらしい事してくれるわ」
「でもでも、こんな罠を仕掛ける魔物がいるんですか?」
「ふむ、魔物でも高位の存在になると知性もあるとか」
「そうそう、それに敵は人類の場合もあるから」
「そうなんですね……」
俺達は、ひとまず遠回りをして祠に向かい……置いてある札を取る。
すると、近くの木から人が降りてきて俺達を拍手で出迎えた。
飄々とした顔や雰囲気、軽装に細い体をしている……動きに隙がなく、中々の手練れだ。
「いや、お見事です。まさか、全部を突破されるとは思ってなかったですね。校長先生から話は聞いてはいいましたけど、とてもじゃないが学生さんとは思えない。今すぐにでも、冒険者としてやっていけるかと」
「あ、貴方は?」
「これは失礼しました、私の名前はフールと言います。この演習での、貴方達の試験管兼護衛だと思ってください。まあ、君達に護衛はいらなかったみたいですが」
「試験が開始してから、俺達をずっと見てた人ですね」
水辺でも、この人の気配は感じていた。
おそらく、罠を仕掛けたのもこの人だろう。
「おや? ……まさか、気づかれていたとは。これでも、隠密には自信があったのですが」
「ユ、ユウマ? いつから? 私、全然気づいてなかったわ」
「わ、わたしもです」
「ぐぬぬ……我も気づいたのは途中からだ」
「まあ、仕方ないよ。俺はもっと気配を消す人を知ってるし」
エリスとか、そこにいるのに気配がない時があるし。
さっきの魚じゃないけど、意を向けられれば俺が見逃すことはない。
……エリスほどの使い手じゃなければね。
「これは参りましたね。私も、まだまだ修行不足ということですか。しかし、A級冒険者である私よりも気配を消すのが上手い……失礼ですが、その方のお名前を伺っても?」
「エリスっていう、うちに住んでるエルフのメイドさんです」
「エルフでエリス? ……いや、あの方の名前はエリスではない……気のせいですか」
「あの、何か気になる点でも?」
「いえ、私の勘違いかもしれません。さて、本来の仕事に戻ります……コホン、あなた方は無事に演習をクリアしたことを私が認めます。連携も取れていて、お互いの能力を補う形で良かったかと……お疲れ様でした、文句なしの合格です」
その言葉に俺達は顔を見合わせ……思い切り手を叩き合う!
「やったわね!」
「やったね!」
「やりました!」
「やったぜ!」
「君達なら、いつでも冒険者になれそうですね。その時が来たら、私が推薦を出しておきましょう。まさか、けしかけたオークも倒すとは思いもしませんでしたけど。そもそも、色々と予定外でしたね」
その言葉に俺達は固まる。
今、けしかけたって言った?
しかも、予定外って言った?
「もしかして……他の生徒にはやってないと?」
「オークは新人冒険者でも手こずるような相手ですよ。そんな魔物を、生徒に相手させるわけがないですね。ゴブリンやコボルトにしても、出来るだけ単体で戦わせましたし」
「……どうりで変だと思ったわ。初めての演習で、こんな難易度はおかしいもの」
「た、たしかに……わたし、もっと楽な想像はしてました。こう、初めてだから初心者向きな感じで」
「ふむ、それは我も感じていた」
……そうだったのか。
俺は特に、大変とか難易度高いとか思ってなかったんだけど。
なにせ、最初の頃からもっと危険な場所に放り込まれたし。
「罠を仕掛けたりもしたのですが、全て見破られてしまいましたし。校長先生に、ユウマ殿のいる班には厳しくするように言われていたので……いやはや、お見事としか言いようがないです」
「ユウマのせいだったのね!」
「ユウマさんが悪かったんですね!」
「お前のせいか!」
「えぇ!? お、俺は何もしてないって!」
「問答無用よ! さあ、何を悪さしたの!?」
「してにゃいってば〜!」
何故か、俺はほっぺをつねられる。
あの校長先生、俺に何か恨みでもあるんですかね!?
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