第54話 一夜明け

 その後、フールさんに護衛されつつ、きた時とは違う道に案内される。


 足の動きと敵を避けるように進む様は、一流の斥候に間違いない。


 当然隙も見当たらないので、これがA級冒険者だとわかって嬉しくなる。


 どうやら、冒険者の高みを目指すのも面白そうだ。


 そして、数十分で森を抜けた。


 そこには、いくつか馬車が停まっていた。


「さて、ここまでくれば平気ですね。さあ、そこの馬車に乗りなさい。ぐるっと回って、野営地まで送ってくれますから」


「ほっ……ここから歩いて帰るのは流石に厳しいから助かったわ」


「ほ、ほんとですっ……足がかくかくしますぅ」


「うむ、思ったり疲労はあるな」


「そう? まだまだ元気だけど」


 すると、三人からジトっと睨まれる。


「一緒にしないで」


「そうですっ」


「全くだ」


「ぐすん……俺以外、息ぴったりだ」


「いやいや、面白い子たちです。また、会えるのを楽しみにしてます」


 最後に四人でお礼を言って、俺たちは指定の馬車に乗り込む。

 馬車のサイズが少し小さく、体の大きいレオンが対面に一人で座り荷物も置いた。

 そして、俺の左右にセリスとカレンが座り……馬車が動き出す。


「ふぅ……これで一息つけるわ」


「ご飯も食べられますしねっ」


「確か達成しなかったり脱落した者は、飯がほとんど抜きとかいう話だったな。我らは、ユウマのせいで危なかったが」


「だから、俺のせいじゃないって。うんうん、みんなで協力したからだねっ」


「良い話にするんじゃないわよ」


「そうですよっ」


 二人からほっぺをつねられる。


「ひゃい、すびません……カレンまで酷いや」


「えへへ、ごめんなさい」


「まあ、別に良いけど。でも、今日は心強かったよ」


「えっ? ……わたし、何もしてない気がするんですけど」


「回復役がいるってだけで、物凄く安心感がある。俺も魔力消費をそっちに割かなくて良いしね」


 使わないだけで、いざって時にあるだけで安心材料になる。

 一歩前に出れたり、恐怖心が減ったりする。


「うむ、それはあるな」


「そっか、何も使わなくてもいるだけで良いんですね」


「そうそう。だから、回復役はパーティーに一人は欲しいよね……あれ?」


 何か重みを感じたので振り向くと……セリスが俺の肩に寄りかかっていた。

 そして、すやすやと寝息を立てている。


「すぅ……」


「あらら、静かだと思ったら寝ちゃったのか」


「えへへ、頑張ってましたから」


「ふむ、良きリーダーだった」


「そうだね、彼女がリーダーで良かったよ」


 俺達三人は、顔を見合わせて頷く。


 そして、セリスを起こさぬように静かに過ごす。


 ちなみに、夕飯は豪勢でお腹いっぱいに食べることができたのでした。


 ……ひもじい思いをして睨みつけてくる生徒達を尻目に。


 ◇



 そして、翌日になり……俺は目を覚ましてテントから出る。


 久々に沢山寝たので、大きく伸びをして朝日を浴びる。


「くぅー気持ちいいや。さて、何して過ごそうかな」


 今日はお昼過ぎまで自由時間となる。

 頑張ったご褒美として、好きに過ごして良いのだが……周りを見回すと、他の生徒達は死屍累々といった感じだ。


「うぅー……体が痛い」


「お、お腹が空いた……」


「一歩も動けない……早く帰りたい」


 それらは昨日の慣れない演習で疲れ果てた者と、脱落して夕飯が足りなかった者達の屍だ。

 せっかくの半休だが、彼らは楽しめそうにない。

 そんな光景を眺めていると、レオンもテントから出てくる。


「ふんっ、軟弱な奴らよ。あれしきのことで根を上げるとは」


「仕方ないよ、みんな経験がないし」


「ピンピンしてるお主が言っても説得力がないが」


「まあ、俺は少し特殊らしいし」


「くく、少しどころではない。それでいて驕ることのない……変な奴だ」


「驕るほど強くもないし偉くもないから。上には上がいるし」


 こんなんで調子に乗ったら、ライカさんやエリスに偉い目にあう。

 そもそも、父上にもどやされちゃうね。


「……我も、ここに来てそれを学んだ。早くに知れたことは幸運だったな」


「俺も獣人とパーティーを組む有用性がわかってよかったよ。ところで、レオンはどうするの? よかったら、どっか行く?」


「ふっ、そこまで無粋ではない。お主は、二人の相手をするが良い。我は昨日の反省を踏まえて鍛錬をしてこよう」


 そうして、レオンが足早に去っていく。

 なんのことかと思っていると、向こうからセリスとカレンが向かってきた。


「おはよう、二人共」


「ユウマ、おはよう」


「おはようございます」


「それで、どうしたの?」


 すると二人が、もじもじしながらコショコショ話をする。

 耳をすませば聞こえないこともないが、そんな無粋な真似はしない。

 女の子とはそういうものだって、散々言われてきたし。


「ほら、セリスさん」


「わ、わかってるわよ……ユ、ユウマは、何か予定あったりする?」


「いや、特にないよ。この通り、ぼっちだし……悲しみ」


「ふふ、そうみたいね。じゃあ、私達と遊ばない?」


「なんか、近くに川があってそこは安全に遊べるみたいです」


「へぇ、そうなんだ? それじゃ、そうしようかな」


「決まりね。さあ、行くわよ」


 先に歩き出すセリスの後を追い、俺も森の中へと行く。


……どうにか、ぼっち回避はできたようで一安心である。








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