第31話 セリスの悩み
次の日は、午前中だけで授業が終わり放課後となる。
光の日と闇の日は人によっては少し遠出をしたり、部活動や鍛錬に力を入れるようだ。
俺は予定通り、セリスと出かけることにする。
「その、カレンはいいの?」
「この間、わたしは二人で孤児院に行きましたから。それに、お父様に呼ばれているので」
「そういえば、そうだったわね。私も明日にはお父様に会わないといけないかな」
……二人とも、俺と二人きりの方がいいのかな?
そういえば、三人で行こうって話もしようと思ったけどやめておこう。
カレンの安全のためにと思ったけど、伯爵家に帰るなら安心だ。
エリスとまでいかないけど、腕はそこまで悪くはなかったし。
「だから、今日はお留守番してますっ……頑張ってくださいね?」
「な、なにをよ?」
「えへへ、決まってるじゃないですか」
「わ、わかってるわよ……」
「なんの話?」
「「なんでもないですっ」」
わぉ……息ぴったり。
少し疎外感を感じるユウマ君です。
……あとで、レオン君の所にでも顔を出しますか。
制服のまま、二人で並んで校門を出る。
「さてと、なにをしようかな」
「あら、殿方なのにエスコートしてくれないの?」
「いやいや、無茶言わないでよ。こちとら、田舎貴族で有名なんだから」
「ふふ、わかってるわよ。孤児院がいる地区には行ったらしいし、前にカレンと二人で商店会の方は行ったわよね。学校がある地区は、近いからいつでもいけるし……残りは冒険者ギルドとか、武器や防具があるところしかないわね」
「おおっ! 冒険者! 武器や防具ってことはドワーフさんとか!?」
俺の憧れである職業だ! 後を継がないなら、冒険者か兵士になるって思ってるし。
ドワーフさんは、会ったことないから話してみたい。
「ほんと……色気も何もないわね。でも、それが私達らしいのかも。確か、ドワーフがやってるお店が一軒だけあるらしいわ。変わり者で、人族の中で商売をしてるとか」
「なるほど、何処にでも変わり者はいるんだね」
「言っておくけど、それは鏡よ? 貴方も、相当変わってるから」
「そう? 俺って、割と普通じゃない?」
「普通の基準がズレてるわ……まあ、いいわ。それが、ユウマの良いところでもあるし。とりあえず、そっちに向かってみましょう」
ひとまず、二人で並んで歩くことにする。
乗合馬車を使っても良いけど、今回は急いでるわけじゃない。
本来の目的は、セリスの息抜きだし。
「そういえばさ、生徒会に入るの?」
「うーん、少し迷ってるのよ。有難いお話だし、興味はあるんだけど」
「確か、部活に入れなくなるんだよね?」
生徒会は、部費を決めたり学校の行事を行ったりもする。
そのため、癒着などしないように部活には入れない。
「そうなの。部活もやってみたい気もするし、私なんかで良いのかなって。聞いたら、物凄いメンバーだったから。むしろ、ユウマが入った方がいいんじゃないかって思うわ」
「なるほどなるほど……自分に自信がない感じ?」
「……そうなのかも。家柄が良いだけで、私自身は何か持ってるわけじゃないから。カレンみたいに特別な才能や、ユウマみたいに自分を持ってないから」
「そうかな? 俺は、そうは思わないけどね」
確かに、セリスには特別な才能はないかもしれない。
でも別に、才能があるから優秀ってわけでもない。
それに我が強すぎるのも考えものだ。
「えっ? ……別に無理に慰めてくれなくて良いのよ?」
「うーん、割と本気なんだけど。言い方は良くないけど、平民や貴族とか差別しないし」
「そうかしら? それは、むしろユウマでしょう。私は、貴方のように獣人と仲良くっていうのは難しいかもしれないわ」
「それでも差別はしないでしょ? 多分、知らないだけなんだと思う。今度、紹介するから話してみる?」
レオンは厳ついからあれだけど、アルトなら平気かな。
レオンだって、話せばわかってくれると思う。
「そうね、それはお願いしたいかも」
「あと、セリスは優しいよ。人の話を否定しないし、親身になって聞ける人だし。だからクラスの人達だって、セリスの周りに集まるんじゃない? それって凄いことだと思うよ……俺、ぼっちだし」
「それは私の家柄が良いからだわ。ユウマの場合は……うん、ごめんなさい」
「謝られた!? ぐすん……えっと、話を戻すと……別に家柄は関係ないよ。最初はあるかもしれないけど、人柄がよくなければすぐに離れると思うし」
男女問わずに自然と人が集まる、それは才能の一種だと思う。
あと、無意識的に『この人の言うことなら』って感じることも。
セリス自身は、あまり気づいてないみたい。
何か、きっかけとかあればいいけど。
◇
はぁ、自分が情けないわ。
結局、ユウマやカレンにも気を使わせてしまったし。
カレンには、そういう時は甘えたら良いんですって言われたけど。
あ、甘えるってどうやって良いかわからないもの……!
そもそも、これってデートよね? ユウマはわかってて誘ったのかしら?
ふと、隣を歩くユウマの顔をちらっと見る。
「ん? どうしたの?」
「う、ううん、なんでもないわ」
私は別に甘えたいわけじゃなくて……女の子としてしたい気持ちもあるけど。
でも、自立したしっかりした人になりたい。
いざって時に、誰かを守れるような人に……ユウマみたいに。
まあ、本人は自覚ないみたいだけど……ほんと、仕方のない人。
「なんでに睨むのかな?」
「睨んでないわ」
「はびゃびゃ……ほっぺを引っ張らないでぇ」
「ふふ、変な顔」
貴方は知らない。
ここに来る際に襲われた時、貴方を凄いと思うと同時に……自分が情けなくなったことを。
戦う術はあったし、鍛錬だってしてきた……でも、私は震えて動けなかった。
侯爵令嬢だから、護衛がいるから私は動いちゃダメって……自分に言い訳してた。
そんな私が生徒会もそうだけど、貴方の側に居たいって思っていいのかな?
大人しくカイル様の婚約者になって、女性らしくお人形さんみたいにしてた方がいいの?
「えぇ、酷くない? しかも、なんか元気出てるし」
「貴方を見てると、昔から元気になるのよ。私も、負けてられないって……そっか」
「なになに? 何か納得したの?」
「ふふ、そうかもね。ユウマ、ありがとう。私、ちょっと頑張ってみるわ」
「それならいいけど……何かしたっけ」
きっと、私はユウマに嫉妬もしていた。
そういえば、昔から稽古で負けるたびに思ってた。
私は貴方に認められたい、そして頼ってもらいたいのかもしれない。
自信を持って、貴方の隣に立てる私でいられるように。
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