第32話 裏の道を知る

よくわからないが、少し元気が出たみたいだ。


そのまま、人に道を聞きつつ進んでいくと……少し、雰囲気が変わってくる。


ひと気がなくなり、どんどんと寂れた風景になっていく。


人間嫌いのドワーフらしく、今は使われていない旧市街地で暮らしているらしい。


「ちょっと怖いわね……話に聞いたら、私達みたいのはいかない方がいいって」


「まあ、裏路地っぽいし。女の子が一人でくるような場所じゃないかな」


「聞いたら、人族には武器や防具を売らないって言ってたわ」


「確か、気に入った人にしか作らない職人気質な種族って話だね」


なにせ、王族の依頼も普通に断るとか。

国にいる貴重なドワーフなので、あんまり強くも言えないらしい。

何より、彼らは仲間意識が強い……もし強要するものなら、戦争になるとか。

すると、カラカラと何かが崩れる音がする。


「きゃ!?」


「……大丈夫?」


「な、何の音?」


「た、ただ石が落ちただけだよ」


いかん、俺の方が動揺しています。

何故なら……思いきり腕を組まれているから。

本人は気づいてないのか、俺の腕にぎゅっとしがみついていた。


「そ、そうなのね……っ〜!? ごめんなさい!」


「い、いや、平気だよ。あぁー、このまま掴まってる?」


「……いいの?」


「うん、むしろ掴まってて。ちょっと、良くない空気感するから」


あちこちから邪な視線を感じる。

多分、良くない類の人たちの……こういう場所には居つきやすいよね。

セリスみたいな可愛い女の子は、格好の餌食に見えるだろう。


「そ、そうなの?」


「うん、今も見られてるし。ただ、こういう場所の方がある意味で安心だけど。おそらく統率が取れてるし、危機管理能力は低くないはず」


「どうするの? ここから逃げる?」


「いや、その必要はないよ……右斜めの建物から覗いてるボスの人! ここを通りたいので許可を!」


すると、三階建の建物の窓から男が降ってくる。

そして、ふわりと着地をした……相当の風魔法の使い手だ。

引き締まった身体と、強者のみが纏えるオーラを放っていた。

同時に、建物の中からぞろぞろと人が出てくる。

その中には、小さな子供達までいた。


「小僧……どうして、俺がボスだとわかった?」


「貴方が一番強いからです。それに俺が声をかけた時、他の人達も一斉に視線を向けたので」


「ちっ、あの一瞬で判断するとは怖えガキだ。こんなところに来るなと追い返そうと思ったが……問題なさそうだな」


「はい、彼女一人を守るくらいはできます——貴方達を相手にしても」


意識的に相手を威圧する。

ライカさんの教えで、こういう輩には戦わずして勝てと言われた。

相手の力量がわかれば、無駄な戦いはしないからと。


「ははっ! おもしれぇガキ! 偉そうなことを言ってるが、俺達を見下してる訳でもねえ……珍しいタイプの貴族か」


「それはどうもです。それで、通してくれます?」


「ああ、連れのお嬢さんも俺達を見下す視線はないしな。何より、こっちもただじゃ済まなそうだ。おい! こいつはお前ら敵う相手じゃねえ! というわけで手を出すな!」


その一言で、男達が引いていく。

観察をしてたから思った通り、

まあ、もし違っても……やるだけだし。


「ありがとうございます。無駄な戦いはしたくないので」


「はっ、それには同感だ。みたところ、貴族のガキだが……名前は?」


「ユウマ-バルムンクと言います」


「ユウマか……覚えたぜ。次からは、ここを自由に通っていい」


「それは助かります。それでは、俺達はこれで」


セリスの腰を抱いて、さっさと歩き出す。

あの人が統率を取っているとはいえ、危険な場所には違いない。

そして、裏路地を抜けた先に……一軒の建物が目に入る。


「おっ、あれがドワーフの店かな」


「あ、あの、腰に……手が」


「ご、ごめん! もう平気だからいいよね!」


咄嗟に手を離して距離を取る。


「う、ううん……ありがと。その、ああいうの慣れてるの?」


「まあ、うちの領地にもいたしね。暴動が起きないように、ボスがいたりするんだ」


「そうなのね……多分、スラム街ってやつよね? まさか、王都にまであるなんて」


「いや、普通にセリスの領地にもあるよ?」


「……えっ?」


セリスの目が見開き、驚いた表情になる。

まるで、そんなはずがないと言うように。

しまった、セリスはそういうことを教わってこなかったらしい。


「あちゃー、ごめん忘れて」


「ど、どういうこと!? 知ってるなら教えて!」


「うーんと……これは別にセリスのところに限った話じゃないよ。何処の領地でもある話だから」


「で、でも、お父様もお母様も善政を敷いているわ」


「確かに二人は立派な貴族だと思う。それでも、取りこぼしっていうのは起きるんだ。これは、ある意味で仕方のないことだって教わった」


長生きしてるエリスからも、大陸中を旅してきたライカさんからも聞いていた。

人が集まり生きている限り、それはなくなることはないと。


「そうなのね……私、何も知らなかったわ」


「別に彼らだって、好き好んで居るわけじゃないし」


「それぞれに事情があるってことよね……どうすれば良くなるの?」


「そりゃ、上に立つ人が善政を敷くことが大前提として……それを補佐する人が、目を向けてあげたら良いのかなって思う。上に居ると、下は見えないし。もしくは、立場や力を使って個人でやっていくとか」


「確かに、私は知らなかったわ……そういう道もあるのね」


セリスはしきりに頷き、何かに納得したようだった。


その目には力があり、何かを感じたみたい。











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