第7話 お助けマン

その後、魔物を倒しつつ旅を続ける。


幸い、侯爵家ということで何処の村や町も歓迎してくれた。


お陰で野宿ということにならず、俺自身も助かった。


そして、五日後……お昼過ぎに王都に到着する。


そこには、うちに引けを取らない大きな門があり、高い城壁がある。


「おおっー! ここが王都かぁ! うんうん、なかなかだね。ただ、随分と気の抜けた兵士達が多いこと」


「ユウマ、そういうことは言っちゃだめですよ。確かに、貴方のところは精鋭揃いですけど。ここは最前線ではないのですから」


「そうだね、ごめんなさい」


「ふふ、許しましょう」


俺はそこで馬車から降り、みんなに挨拶をしていく。

ここからなら、走ったらすぐだし。


「本当にありがとうございました! 途中に村があるとはいえ、移動中に水が飲めるのは助かりました!」


「ほんとに! 回復魔法もあったお陰で、余裕を持って着きましたし。本当なら、日が落ちる直前か、明日の朝を予定してたので」


「いえいえ、大したことではないですよ。皆さんも、お疲れ様でした」


最後にセリスに向き合う。

もう、俺の中ではすっかり女の子になった幼馴染だ。


「さて……じゃあ、俺は先に行くね。もし色々聞かれたら面倒だし」


「べ、別に一緒でも……」


「いやいや、変な勘違いされたらセリスが困るよ」


「むぅ、変なところで気遣いさんなんだから……それでは、学校で会いしましょうね。あれですからね? 騒動を起こしてはいけませんよ?」


「はいはい、わかってますよ」


「あっ、並ぶのは右の列だから。そっちが貴族専用で、左が一般の人専用よ」


「あっ、そうなんだ。ありがと〜! 行ってくるね!」


俺は手をひらひらとさせ、一足先に門のところに走っていく。

そのまま、貴族専用の受付に向かう。


「あの、すいません」


「は、はい? あの、 一般の方はあちらに……」


「えっ? あっ、いや、俺は貴族の者でして……こちらでよろしいですか?」


「へっ? は、はい! こちらです!」


なんだ? 何かが噛み合ってない。

貴族の方に来たのに、一般の方……ああ、俺の格好が規則っぽくないからか。

青のパンツに黒のジャッケットという、ラフな格好だ。

他の人を見ると、ネクタイをしてたりかっちりした貴族服を着てる方が多い。

しかも、俺ってば徒歩で来てるし。


「ユウマ-バルムンク様ですね……はい、確認が取れました。それでは、門をお進みください」


「はい、ありがとうございます」


きちんとお礼を言って中に入ると……その光景に驚かされる。

うちとは違う人の多さ、並ぶ建物の数、道幅も広くて都市の中なのに馬車が行き交っている。


「なるほど、これが都会ってやつか……人酔いしそうだね。さて、お昼は済んでいるし……まずは、観光でもするかな」


俺が過ごすことになる寮は、夕方までには入ればいいって話だ。

大した荷物もない俺は、このまま都市の中を歩くことにする。

まずは入り国付近にある、でかい看板地図を眺める。


「ふんふん、入り口から見える城を起点に十字になってると。真ん中にお城があって、南東地区には商店街に商人ギルド、北東には学校や貴族街に兵舎、南西には冒険者ギルドや宿屋に武器防具屋、北東には一般市民が住む区域……大体、こんな感じってことか」


冒険者登録はまだしてないけど、入学してからでいいかな。

武器や防具は必要ないし、住居地域を見ても仕方ない。


「となると、商店街一択かな」


俺は地図を確認し、南東地区にある商店街に向かうのだった。






……酔った。

なんだ、あの人の数は。

お祭りでもやってるのかと思ったら、そういうわけでもないし。

疲れてしまったので、ひと気のない路地に避難する。


「流石に人とぶつかるようなほどじゃないけど、うちとはあまりに違いすぎる。うちは場合によっては、しばらく歩いても人とすれ違わない可能性もあるし」


しかし、ここはそんなことはない。

常に道に人が溢れている……流石は王都。

そりゃ、うちが田舎とか言われるわけだ。

うちは平屋が多いし、山と森ばっかりだし。

こっちは二階建てやお洒落なお店ばかりだし、王都の周りの景色は整備された街道だったし。


「俺ってば、完全にお上りさんって感じ……ん?」


その時、俺の耳に何かが聞こえてきた気がした。

戦場にいる癖で、風の結界を広げる。

これによって俺は、ある程度の距離があっても音を拾うことができる。


「い、行き止まり……!」


「へへっ、もう逃げらんねえぜ」


「観念して大人しくしな。なに、良い子にしてればすぐに済むさ」


「なにも殺そうってわけじゃない。ちょっとの間、大人しくしてくれれば良いさ」


次の瞬間、俺は風を足にまとい音もなく駆け出す。

どう考えても、よくない状況だった。


「死んだ母さんには、困ってる人がいたら助けてあげなさいって言われてたし。とりあえず、急ぐとしますか」


家の屋根を足場にし、声の聞こえる方に向かう。

そしてすぐに現場に到着し、屋根の上から状況を確認する。

相手は男が三人、同い年くらいの女の子が壁際に追い込まれていた。


「うん、どう見ても男達が悪人っぽいね」


「こ、来ないでください! どうして誰も気づかないの!」


「くく、俺が風の結界によって一帯の音を封じている。気づけるとしたら、俺以上の風魔法の使いでじゃないとな……まあ、そんな奴はそうそういな」


「別に大した結界じゃなかったけど? あんなの、師匠に見られたら怒られるくらいだし」


「なっ!? いつのまに俺の後ろ——っ!?」


風を使って足音がしないように静かに降り立ち、一番後ろにいた魔法使いの首に手刀を入れて昏倒させる。

戦いにおいて、まずは魔法使いの排除が基本だからだ。

優秀な魔法使い一人いるだけで、戦場は一変すると教わってきた。


「ダメだよ、魔法使いが後ろを取られちゃ。というか、隙が大きすぎだし」


「な、なにも——ぐはっ!?」


「速い! 目で追え——ぐっ!?」


「君達は反応が遅すぎる。俺が何者か聞く暇があったら、連携して攻撃を仕掛けてこないと……まあ、聞こえてないよね」


速攻で迫り、同じく首に手刀を叩き込んだ。

しばらくの間、眼を覚ますことはないだろう。


「ふぇ? な、なにが……貴方は」


「びっくりさせてごめんね。一応、助けたつもりではあるんだけど」


ふと振り返ると、そこには清楚な感じの女の子がいた。

青髪で顔は小さく目鼻立ちが整っている。

体も華奢で、思わず守ってあげたくなるような感じだ。


「……し、失礼しました! 助けてくださりありがとうございます!」


「ちょっ、声が大き……あちゃー、くるよね」


「へっ? なにがですか?」


俺の結界が、向こうから人が来るのを察知した。

問題は、敵か味方か区別がつかないことである。

何より、できれば面倒事を起こしたくはない。


「今から、ここに大勢の人が来る。俺は面倒なので逃げるけど、君はどうする? こいつらはしばらく起きないから、ここにいても平気だけど。その場合は、俺のことは黙ってくれると助かるかな」


「そうなのですね……いえ、私も出来れば問題は避けたいです。ですが、ここからどうやって逃げるのですか? 情けないことに、袋小路に入ってしまって……」


「とりあえず、説明は後にして——失礼しますよ」


「きゃっ!? お、お姫様抱っこ?」


「許可なくごめんね、後で謝るからさ。とにかく、この場を離脱する……っと」


「ひゃぁ!?」


女の子のスカートをしっかり抑えて、下から風を送り思い切り飛び跳ねる。


そのまま五メートル近く飛び、屋根の上に上がる。


そして屋根を伝って、その場を離れていくのだった。






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