第5話 模擬戦
先に話し合いを終えた俺は、屋敷の外にて彼女を待つ。
すると、玄関を開けてセリスとローラさんがやってくる。
貴族のお嬢様らしく華やかな白いワンピースを着ていた。
春の暖かい日差しの中、その姿はよく似合っている。
「お、お待たせしましたわ」
「ううん、そんなことないよ。それより、よく似合ってるね」
「あ、ありがとうございます……もう、そういう台詞は何処で覚えたの?」
「いや、師匠が厳しくてね。まあ、その話も含めて馬車で話すよ」
「そうね、そうしましょう」
先に彼女を馬車に乗せ、ローラさんに向き合う。
「ユウマ君、あの子のことよろしくお願いね。あんなこと言っておいてなんだけど、もし困っていたら助けてあげてちょうだい」
「ええ、もちろんですよ。まあ、そうならないことを祈ってます」
「ふふ、そうね。何もないならそれが一番よ」
「ユウマー! 何をしてるのー!?」
「ごめんごめん! すぐに行くよ!」
俺はローラさんにお辞儀をして、馬車へと乗り込む。
そして、王都に向けて馬車が動き出す。
「ふぅ、ようやく出れたわ。本当に、待たせてごめんなさい」
「いやいや、気にしないで。女の子だし、仕方ないよ」
「……ほんと、そういう台詞も何処で覚えたのよ? 私と殴り合ったりしてたのに」
「別に大したことじゃないよ。というか、それは小さい頃の話でしょ。外にいる護衛の人達に聞かれたら怖いんですけど?」
ただでさえ、家を出る時に睨まれたし。
俺、何かしたかな?
まあ、自分達のお嬢様に変な虫がつかないように警戒してるのかも。
「ふふ、そうね。きっと、問い詰められちゃうわ。じゃなくて、さっきの師匠の話!」
「ああ、それね。ちょうど、ここに来なくなったあたりかな? 二人の師匠がついて、その二人に朝から晩まで扱かれちゃって。剣の授業と魔法の授業を……思い出したくないくらい」
「……綺麗な人?」
「なんで、そこに疑問なのさ? まあ、見た目は綺麗だよ。ただ、中身は恐ろしく男前な人達かな」
「そうなんだ……ふーん」
何故か、セリスが頬を膨らませる。
うーん、これは……そういうことかな?
「大丈夫、セリスも綺麗だよ」
「っ〜!? な、何を言ってるのよ!?」
「あれ? 違ったのかぁ……女の子って難しいや」
「……そうよ、女の子は複雑なんだから」
そんな会話を楽しみつつ、馬車が進んでいく。
そして、お昼を過ぎた頃に大きな木の下で休憩をとる。
そこで軽食を済ませ、それぞれの自由時間となった。
すると、護衛の兵士達の一部が俺に近寄ってくる。
「ユウマ殿、あんまり調子に乗らないで頂きたい」
「はい? どうかしました?」
「お嬢様の護衛は、俺達で十分なんだよ」
「言っておくが、ひょろい坊ちゃんの出番はないぜ」
「そうそう、いくら父親が猛将で知られたエルバート様でもな」
……ふむふむ、彼らの気持ちは正当だ。
雇い主が決めたこととはいえ、俺が護衛と言われたら面子が立たないだろう。
ただ……こちらも武門の者として、舐められるのは良くない。
何より、これではセリスが可哀想だ。
「そうですか。ですが、この先には魔物や魔獣が出ます。万が一ということもありますから」
「我々が負けると思っていると?」
「いえいえ、そんなことは言ってません。ただ、お互いの実力は知っておくべきかと。そうすれば、いざという時に連携が取れますし」
「なるほど……では、お手合わせを願います」
「ええ、いいですよ」
すると、騒ぎに気づいたセリスがやってくる。
「なにをやってるの? 貴方達、ユウマに何かしたの?」
「い、いえ」
「セリス、平気だよ。食後の運動がてらに手合わせをしようってことになっただけ。木剣もあるみたいだから安全だよ」
「そうなの? じゃあ、私も見てるわ。ちなみに相手は誰?」
兵士達が顔を合わせ、一人の男性が前に出てくる。
最初に俺に声をかけてきた人で、おそらく年齢は二十五歳前後。
身長も体格の良く、腕は悪くなさそうに見える。
「お嬢様、私がお相手します」
「イース、貴方が? 平気かしら?」
「ご安心ください、怪我などさせないので」
「わかったわ。では、見守るとするわね」
そうして、セリスの立会いのもとアルトさんと対峙する。
「イースさん、よろしくお願いします」
「……よろしくお願いします」
「それでは——はじめ!」
「では、行きますぞ!」
開始早々、剣を上段に構えつつイースさんが接近してくる。
そのまま、俺に剣を振り下ろしてくるので……。
「よっと」
「なっ!? 避けた!?」
「えっ? そりゃ、避けますって」
軽く右に避けたら、相手が驚いていた。
こんなの食らったら、師匠達に殺されちゃうよ。
「くっ! まだまだ! 今のは手加減をしていたのだ!」
「ええ、わかってますよ」
「ウォォォォォォ!」
上から振り下ろし、そこからの切り上げるように逆袈裟、それらを余裕を持って躱していく。
……これで本気なのかな? これなら眼で追えるし。
師匠とやると、眼には見えない速さで剣が来るからなぁ。
「何故当たらない!? だが、避けてばかりでは」
「そうですね。それでは失礼——」
相手の上段斬りを半身をずらして躱し、首筋に木剣を突きつける。
「……はっ?」
「どうします? まだやりますか?」
「……いや、私の負けだ」
「勝負ありです! ユウマ! 凄いじゃない!」
「いえいえ、俺なんてまだまだですよ」
「もう、謙遜して」
いや、本当にまだまだなんだけどなぁ。
これなら、うちにいる一般の兵士達のが強いし。
「お、おい、イースに勝っちまったぞ」
「うちの若手でも一番の使い手が……」
「うちの部隊長だというのに」
えっ? うそでしょ?
……まあ、最前線の兵士じゃないから仕方ないのか。
すると、イースさんが立ち上がり、頭を下げてくる。
「ユウマ殿、生意気なことを言って申し訳ありませんでした。そもそも伯爵子息に対しての態度ではございませんでした」
「いえいえ、お気になさらないでください。それだけ、セリス様が大事ということでしょうから」
「器まで……完全に我々の負けですね。それでは、王都までよろしくお願いいたします。皆の者もいいな?」
「「「はっ!!!」」」
うんうん、セリスは愛されてるね。
ひとまず、これで安心して旅ができるや。
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