第3話 出発

……イテテ、身体中がきしむ。


痛む身体に鞭を打ち、どうにか起き上がる。


「ったく、これも昨日の鍛錬のせいだ。あの二人と同時に稽古とか死んじゃうし」


「生きてるから良いのでは?」


「わぁ!? あ、相変わらず気配もなく入ってこないでよ」


すでに部屋の中には、エリスがいてリュックに荷物を詰めていた。


「これくらい気づかないとはまだまだですね。それでは、暗殺者に狙われた時に対応できませんよ?」


「いやいや、そもそも襲われないから」


「これからは襲われる可能性もあるでしょう。あっちでは、そういったこともありますし」


「……へっ? そうなの? 王都ってそんなに危ないの?」


暗殺が日常的に行われてるとか怖いんですけど。

……どうしよう、行くの嫌になってきたな。


「いえ、普通にしてれば平気ですよ」


「あっ、そうなんだ? じゃあ、俺は平気だね」


「……そうですね」


「んじゃ、ご飯を食べていくとしますか」


気持ちを切り替え、俺は食堂に向かう。

そして、昨日と同じように父上と一緒に食事をとる。

ちなみに妹や弟、継母は違う場所で食べている。

仲が悪いわけではなく、二人が萎縮して食事が進まないからだ。


「さて、食事が済んだら出発してもらう……お前には護衛はいらんか」


「いや、一応跡取り息子なんだけど? まあ……正直、この辺りに出てくる魔物や魔獣なら問題ないかな」


「そんなやわな鍛え方はしとらんからな。むしろ、お前は護衛に回ってくれ」


「はい? どういうこと?」


「下にあるミルディン領があるじゃろ?」


ミルディン領……確か、ミルディン侯爵家が治める領地だったはず。

うちとは良好で、俺も小さい頃はよく遊びに連れてってもらった。

流石に、ここ数年はいってないけど。


「うん、あるね」


「そこの子供も、同じく王都に通うことになったらしい」


「へぇ、そうなんだ? 確かに同じ年くらいの男の子と遊んだ記憶があるかな」


十歳くらいまでは遊んでたかな?

今思うと、あれが幼馴染ってやつかも。


「……う、うむ、そうであろう。その子の護衛も兼ねていくと良い」


「ん? 騎士の護衛とかは?」


「それもいるが、その子も同い年のお主がいた方が安心できると」


「ああ、そういうこと。ええ、わかりました。俺自身も心細いですし、そうすることにします」


「よし、決まりじゃな。では、後のことは任せる。お主の好きなようにやると良い……英雄バルムンク家の血を引く者として、己の行いに責任と誇りを持って」


「……はっ、かしこまりました。その名に恥じないように、王都にて研鑽を積んで参ります」


流石に、その言葉には真面目に返す。

バルムンク家は国境を越えてくる敵国を退けた英雄にして、ドラゴン殺しの英雄でもある。

それを先祖代々から積み上げてきた。

俺も、その名に恥じないようにしないとね。



準備を済ませたら、門の前で見送られる。


あんまり大げさなのは嫌なので、妹と弟、師匠の二人だけにしてもらった。


その他の人達には、すでに別れは済んでいる。


「お兄様……い、いってらっしゃいませ」


「ああ、行ってくる。泣かなくてえらいな?」


「わたしが泣くと、お兄様が出ていけないって……」


「そうかそうか、良い子だ。長期休暇になったら帰ってくるから待ってなさい」


「うんっ! まってりゅ!」


最後にマリアの頭を撫で、頼りになる弟に向き合う。


「ルーク、みんなのことは頼んだよ?」


「はい兄上! 僕がいるので大丈夫です!」


「頼りになる弟を持って助かるよ。師匠達も、みんなのことを頼みます」


「ええ、お任せください。王都の連中にはお気をつけて」


「はん、しっかりやってこい。私の名前に恥をかかせたら承知しねぇ」


「はは……わかりました。それでは行って来ます!」


いつまでも話していたくなっちゃうので、区切りをつけて駆け出す。

後ろからマリアとルークの声を背にして、街道を走っていく。


「なんだかんだで領地を出るのは久々だね。師匠達との修行とか、他国との小競り合いもあったし。ミルディン領に行くのも五年ぶりくらいかな?」


それまではよく遊びに行っていたけど、何故かいきなり行けなくなってしまった。

俺が何かしたのかなと思ったけど……父上には、なんか曖昧な顔をされたのを覚えている。


「まあ、実際に会った時に聞けば良いか」


足に風をまとい、馬を超える速さで進んでいく。


……さてさて、どんなことが待ってるか楽しみだ。

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