第2話 挨拶回り

そうと決まったら大変だ。


明日の朝には出なくちゃいけないとかアホなのかな?


とにかく、各所に挨拶に回る。


まずは街に繰り出し、行きつけのお店や知り合いを訪ねていく。


「おっちゃん! 俺、明日から王都に行っていないからー!」


「なにぃ!? なにしに行くんだ!?」


「わからん!」


「なんじゃそりゃ!?」


「父上の命令だから!」


「そいつはしゃあないな! 気をつけていけよ!」


大体、この父上からの命令で皆が納得して詳しく聞いてこない。

これも普段から俺に無茶振りする父上の、日頃の行いのせいってやつだ。


「ふぅ、こんなものかな。大体、あの辺の人達に言っておけばみんなに伝わるでしょ」


「おっ、ユウマじゃん。こんなところでなにしてんだ?」


「げげっ、ライカ師匠……」


そこには俺の武術の師匠であるライカさんがいた。

虎獣人の女性で髪は黄金で、顔に紋様とお尻にある尻尾が特徴だ。

身長は百七十五くらいある俺と同等の、背の高いスタイル抜群の美人なお姉さん……その凶暴な中身を除けば。


「ほほう? 師匠に向かって良い度胸だ」


「だァァァ! すみませんって! いや、父上に王都にある学校に行けって言われまして……」


「あん? ……昼飯を奢ってやるから詳しく聞かせてもらおうか」


俺に逆らえるわけもなく、ひきづられるようにして連行される。

適当な店に入り、串焼きや麺などを食べていく。

どうせだったら、たらふく食べてやる!


「もぐもぐ……うん、美味い」


「相変わらずいい食いっぷりだな。とてもじゃないが、貴族様の息子とは思えないね」


「いやいや、師匠が言ったんじゃないですか。どんな時でも、食えるようにはしておけって。戦場でもダンジョンでも、まずは食えない者から死んでいくとかなんとか」


「まあ、間違っちゃいないが。動けなくなった者から死んでいくって意味だ。まあ、食えないと動けないは合ってるな」


この人は俺が動けなくなるまでしごいてから、また食わせて休ませてしごくという、鬼のようなことをさせてきた。

そのおかげか、どんなに疲れていても動いたり食うことはできる体にはなった。

その後ある程度満足したので、事情を説明する。


「ふーん、そういうことか。まあ、国王の命令なら仕方ない。それに、世間を知るっていうのも一理あるな。お前は魔物退治とか少ないし、ダンジョン攻略はしたことないし」


「師匠も確か、冒険者になって大陸を旅してたんですよね? それこそ、魔物退治やダンジョン攻略とか」


「ああ、そうだね。あちこちの国に渡って嫌なこともいいことも経験したさ。結果的に、今はここに落ち着いているけど」


「なるほど……まあ、確かに俺は世間知らずではありますね」


基本的に、辺境と言われるこの地から出たことがない。

行ったとしても精々、隣にある領地くらいだ。

王都にも行ったことないし、他国にも行ったことがない。

父上にそんな暇があれば鍛錬をしろって言われてきたし。


「はんっ、仕方がないだろうよ。お前は……アレだしなぁ」


「何です、あれって」


「いや、いいさ。いずれわかるだろうよ。んじゃ、最後に稽古しとくか」


「うげぇ……拒否権は?」


「あると思うのかい?」


「ですよねー」


休憩も大してないまま、館に連行される。

すると、門の前に義理の母と妹と弟がいた。

父上の後妻であるヘレンさんと、四歳になる妹のマリアに六歳になる弟のルークだ。

俺とは顔も似てないし、髪の色も銀髪の俺に対して二人は母親譲りの金髪だ。

もちろん、俺にとっては三人共大事な家族だ。


「お兄様!」


「兄上!」


「おっと、二人とも……なるほど、話を聞いたってわけか」


飛び込んできたと思ったら、その目には涙が伺える。

俺の話を聞いて、門の前で待っていたのだろう。

うんうん、可愛いやつらよ。


「お兄様、遠く行っちゃやなの」


「兄上、僕……寂しいけど、兄上の代わりに頑張ります!」


「マリア、ごめんね。ルーク、よく言った。二人とも、俺もできれば行きたくないけど国王陛下の命令らしいから」


「うぅー……」


「ほら、マリア。兄上が困ってるじゃないか」


いやはや、困ったものだ。

俺はマリアには甘いからなぁ。

すると、見かねたのかヘレンさんが動く。


「マリア、わがままを言ってはいけません。ユウマ殿は、もっと大きく成長する為に行くのですから。帰ってきたときに、マリアも成長してる姿を見せましょう?」


「……お兄様、 褒めてくれりゅ?」


「ああ、もちろんさ。 立派なレディーになってたらご褒美をあげよう。そうだなぁ、何でも好きなことを頼むといい」


「ほんと? ……あい! いい子でいるもん!」


「よし、いい子だ」


「ただ……今日は一緒に寝てもいい?」


「ぐはっ!」


その無垢な瞳に心臓がやられる!

うちの妹、可愛すぎやしないか!?

あまりの衝撃に、思わず膝をついてしまう。


「お兄様?」


「あ、当たり前さ! ばっちこい!」


「わぁーい!」


マリアが抱きついてくるのを受け止めて、くるくると回る。

すると、玄関の扉を開けてエリスが出てくる。


「なにを騒いでいるのですか?」


「おっ、いいところに来た。こいつが明日には出るっていうから鍛錬をしようと思ってな」


「ほうほう、それは良いことですね。では、ついでに魔法の稽古もしましょうか」


「いやいや、二人同時とか冗談じゃないし……冗談だよね?」


「「ふふふ」」


「ひぃ!? やめてぇぇ!」


逃げようとする俺の肩を二人が掴む。


そして、そのまま庭へと連れて行かれるのだった。


……二人のせいで良い場面が台無しだよ!


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