第49話 またもや非常識?

 ひとまず、俺の鍛錬が非常識?と判明しつつ、森を進んでいく。


 そして、正午になる前に川へと到着する。


 そこは貰った地図に描かれていた休憩場所に相違ない。


「わぁ……綺麗な川です!」


「ふぅ、一息つけるわね」


「二人とも、待って」


「ユウマ?」


「どうしたんですか?」


 俺は駆け出そうとする二人の手を掴む。

 レオンは気づいているので、黙って腕を組んでいる。


「人が最も油断するのは、気を抜いた時なんだ。特に水辺は危ない。近くに魔獣が潜んでいるかもしれないし、水の中に生き物がいるかもしれない」


「……そういえば、授業でも習ったわ。ダメね、気を抜いちゃった」


「わたしもです……」


「二人は慣れてないし仕方ないよ。セリス、今だけ俺が指示してもいい?」


「ええ、お願いするわ」


 失敗したことに落ち込んでいたが、セリスの顔は晴れやかだ。

 この切り替えの早さと、いざという時にパーティーメンバーに頼れるのも指揮官の素質だと思う。


「レオン、水の中と辺りに生き物の気配は?」


。水の中に生き物の気配はあるが、辺りには待ち伏せしてる敵もいない」


「了解、俺と概ね同意ってことか」


 魔法を使ってないとはいえ、俺の五感は鍛えられてる。

 戦闘中ならともかく、平時なら気配察知くらいはできる。

 そう……レオンが言った敵意を感じない者、俺達を観察してる人とか。


「ユウマ、どういう意味?」


「ひとまず、安全ではあるみたい。というか、指定の休憩場所ってそういう意味か。セリス、ちょっと見ててね」


 俺はそのまま歩いていき、川の近くに踏み込む。

 すると足元が盛り上がり罠が発動する!

 それにかかる前に一歩後退し、木の上にぶら下がった網を眺める。

 これなら引っかかっても命に別状はない。


「まあ、こういうことかな。多分、雇った冒険者が仕掛けたね」


「わ、罠があったのね。どうしてわかったの?」


「さっきも言ったけど、一番油断する場所だから。もし自分だったら、ここに罠を仕掛けるかなって。魔物や魔獣相手ならいらないけど、俺達は盗賊や敵の兵士と戦うこともあるし」


「……そういうことね。これが即死性のある罠だったらと思うと恐ろしいわ」


 セリスの言う通りだ。

 これが毒とか仕掛けてあったり、刃物が飛び出る仕掛けだったら死ぬこともある。


「こ、怖いですねっ」


「まあ、という感じなので水辺には気をつけるように」


「ええ、わかったわ。ユウマ、ありがとう」


「いえいえ。それじゃ、引き続きよろしくね」


 俺はセリス達のところに下がり、セリスにバトンタッチする。


「コホン……レオン、ユウマ、もう罠の類や危険なことはないのね?」


「ああ、問題ない」


「うん、平気」


「ありがとう。それじゃ、水辺に行って休憩をしましょう」


 改めて指示を受け、俺達はセリスに従って動き出す。

 レオンが匂いを嗅いで、水が問題ないことを確認して水を汲む。

 俺は予備のナイフで草木を刈り取り、そこにスペースを確保する。

 セリスは土魔法を使って簡易的な椅子やテーブルを作る。

 そしてカレンは石や木などを集めていた。


「セリス、終わったけどどうしようかな」


「あら、仕事が早いわね。そうね、出来たら食材を集めてちょうだい」


「了解……それなら、あれでいいか」


 俺はズボンの裾をめくり、川の中に入っていく。


「ユ、ユウマ?」


「セリス殿、静かにしよう……アレは狩りをしている」


 レオンのおかげで、皆が静かになって見守る。

 ……自然と一体に……ライカさんに教わった静の間合い。

 意を向けるから生き物は反応する、何も意識を向けずに無の境地に。

 俺は気配を消して、自分の間合いに入ってくる生き物を待ち……考えるより先に、手が水の中に飛び込む!


「……シッ!」


「わぁ……す、すごいです」


「す、水中にいる魚を手で捕まえるなんて」


 俺が手を振り抜いた先には、魚がピチピチとのたまわっていた。

 同じように、近づいてくる魚達を手で捕まえていく。


「よし、六匹いれば平気かな」


「ユウマ!凄いわ!」


「ほんとですっ! どうやって取ってるんですか!?」


 俺は、ひとまず川から上がり足を拭く。


「簡単な話だよ。気配を消して魚を待って、自分の間合いに入ってきたら獲るだけ」


「……全然、意味がわからないわよ。カレン、わかった?」


「いえ、全然わかりません! そもそも、捕まえる前に逃げられちゃいますよっ!」


「そうよね。そもそも、魚が近寄ってこないわ」


「あれれ? レオンはわかるよね?」


「わかるが……恐ろしい男だな。我でも、その域には達していない。それどころか、それができる者は獣人族でも一握りの者だ」


「……そうなんだ。俺はこれができるまで、川から出るなっていう修行を師匠から受けたのだけど」


 何でも、これができるのが当然だとか。


 どうやら、ここでも騙されていたらしい。


 ぐぬぬっ……ライカさんめ、帰ったら覚えてろよ。


 まあ、こっちも当然……返り討ちにあうことは決まってるんですけどね!








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