💕伯爵令嬢の空戦日記 ~帝都を守る最強のネームド航空魔道兵はスイーツを死守する~

🅰️天のまにまに

殲滅のミハイル誕生

第1話:帝都初空襲【戦闘回】

 聖歴1941年2月

 ルーシア帝国帝都ルーシ西方上空三千メートル

 連合王国義勇兵団、長距離爆撃中隊隊長ロバート・ドウルットル中佐



 ついに始まった。これがきっかけで世界大戦に発展するかもしれない帝都初空襲。


 世界を統べる比類なき我が連合王国と、それに無謀にも挑戦するルーシア帝国との戦争。残忍な田舎者ルーシアを徹底的に葬る戦いが。


 まだ本格的な開戦には至っていない。


 ルーシア帝国が東部戦線で、合州連盟との泥沼の膠着状態におちいり消耗しているすきを突いて西部戦線を作った。


 低地諸国と西プロシアン王国をたきつけて、そこに義勇兵団を送り込んだのだ。その最初の一撃を帝都奇襲攻撃とは。司令部の連中、大胆な賭けに出たものだ。


 帝都の防空能力がそんなに弱いはずがない。


 だが……



「おかしいですね中佐殿。ここまで一回も迎撃が上がってこない」


 下部見張員のドジャース軍曹の緊張が伝わってくる声がレシーバーから聞こえる。


「そうだな。いくら東部戦線に兵力を引き抜かれていようと、まさか一度も迎撃が上がってこないとは」


「対空砲火がないのも怖い」


 防弾ガラス張りの足元から見える帝国中枢部上空には、爆撃機の天敵、航空魔道兵の姿が見えない。


 くそっ、雪雲で視界が悪い。


「魔道兵が接近する前に発見しろ。腹に食いつかれたらそれでおしまいだ」


 それ以上は上昇できない高度三千に広がる飛行不可能帯ラストベルト。その直下を飛んでいる。


 これさえなければもっと大きくて速い航空機で敵を叩くことができるのだが……


 この世界一の性能を誇るアフロ・ランチェスター双発重爆撃機の大きさが限界だ。


「でも上空からの攻撃がないと楽っすね。下から襲ってくる魔導兵を叩き落せばいいだけ」


「気を抜くな。機銃座要員は装弾を確認」



 とはいえ、俺の編隊は六機編隊。


 三機がシェブロンと呼ばれる三角状になって飛び、その後ろに俺の乗る隊長機を中心に二つ目のシェブロンを作る。


 いわゆるボックス編隊。


 七.七ミリ機銃三十六丁で弾幕を張る。 


 いくら魔導兵の防御障壁が厚くても十発も連続であてれば撃墜できる。それに障壁をずっと張り続けられる魔導兵などいるはずがない。


 我が連合王国軍のエースが寄ってたかっても二人に一人は撃墜されて、傷もつけられない。


 まさに空の要塞だ。


 ルーシアの田舎魔道兵などに墜とされるはずがない!



「中佐殿。前方で一瞬、魔道反応」


 前方?

 高度三千は魔導師の上昇限界ギリギリ。しかも前方からの攻撃など当たるはずがない。

 機材の故障か?


 ズドッ。

 きーーーん!

 ががががんっ!!


「前方、爆撃照準機パスファインダー被弾。脱落!」


 魔道弾の光跡。

 それも大口径。


 七.七ミリ小銃程度ではない。


 十二.七ミリよりも大きい。


「二番機も食われた。主翼が爆散!」


 見えた!

 子供?


 正面の空間を歩いている。

 しかも逆さまに!


 一瞬ですれ違う。

 その時、そいつの顔が見えた。


 笑っているのか?

 狂ったように凶悪な犬歯をむき出しにして。


「五番機、魔導兵に食いつかれた。機銃の死角だ。敵の拳銃でコックピットが破損。パイロット戦死。脱落!」


 すれ違いざま一瞬で飛び乗っただと?

 肉体に掛かるGは、人間に耐えられるはずがない!


 目が合った。

 生意気そうなガキだ。

 二十ミリクラスの対物ライフルを向けてくる。


 その口元は


「タノシカッタワ」


 と読めた。


 魔道弾の発射閃光が俺の最後に見たものだった。





「隊長機がやられた! こちら四番機。爆弾を投棄。緩降下で各自離脱!」


 残った二機は爆弾を投棄して戦場から離脱した。



 ◇◇◇◇



「あらあら。ごみのポイ捨ては紳士のなさることではございませんですわ。

 今はごみの処理を優先しますけど、今度会ったらお持ち帰り用の爆弾を差し上げますわね」


 わたくし、ケルテン伯爵家次女スターシャは思わず文句を漏らしてしまいました。


 でももう貴族になったのですから、言葉には気を付けませんと。


 わたくしは先ほど一瞬だけ消滅してしまった魔道波探知妨害フィールドを張りなおします。


 得意な光学迷彩まで半分消えてしまうなんて。わたくしとしたことが、久々の空戦で失敗してしまいました。


 光学迷彩も張りなおして少年の姿を再形成し空中停止ホバリング。外見が少年じゃなくなるとちょっと面倒ですから。


 そして対物ライフルで落下していく爆弾を狙撃、爆破処理をする。


 次の編隊は用心しているかしら。


 もう「前からこんにちは。お死になって♪」はできないみたいね。


 後ろから「だぁ~れだ。エストックで振り向きざまのほっぺ刺しよ♪」とやると相対速度が遅くなるので、近づきすぎると顔見られちゃうから嫌なのよね。


 お陰で東部戦線ではみんなの人気者になってしまったわ。


 でもなぜかしら。

 人気者のはずなのに、みなさま逃げて行ってしまいます。


 仲良しさんになりたい方は一緒に踊ってくださいませ。


 空戦のダンスは、お父さまに聞いた貴族社交界の舞踏会での死にそうになるつまらないダンスなんかと違ってワクワクするのに。


「お嬢様。ダンスを一曲いかが?」


 とか、言われてみたいです。

 空の上で。


 だから私は用心のため光学迷彩を二重に張り、敵魔道兵に警戒。防御障壁も二重がけ。デコイおとりを十個作成してランダム飛行プログラムを構築。


 そして敵の隊内無線を傍受。


『ザザザ……。接敵後、一分もしないうちに隊長のコンバットボックスがほぼ壊滅。なんだこいつは……ネームドリストと照合しろ』


『先ほどの魔道反応は……。殲滅の熾天使ウリエル。トロツキーグラードの死神!』


『なんだと? 東部戦線の連中の寝言は本当だったのか。たった一人で合州連盟の魔導大隊を壊滅させた悪魔』


 東部戦線でのわたくしのやってきたこと、そんな風に伝えられているのですね。


 心外ですわ。


 たまに敵魔道兵を追い回してスコップでつついたり、攻めてくる敵師団長様のヘルメットの上でタップダンスを踊ったりしたのは若気のいたり。


 今はもうそんな子供のような真似はいたしません。それに現場は掃除しておきましたから見ていた人はいなくなったはず。


 スターシャは立派な淑女を目指すのですもの。



『このまま突入するのは無謀だ。帰投する。爆弾を投棄』


『……帝都防空にとんでもない化け物を張り付けやがった、ルーシアの野蛮な田舎者ども。

 小隊長、こいつ、今度は帝都の死神とか言われるんでしょうね。俺はそれにエールのジョッキを一杯』


 失礼です。

 今度会ったら、愛用の魔道スコップ、グリムリーパーでたたき斬って差し上げます。


 あっと、忘れていました。

 魔道弾が残っています。


 さっきのお茶会に出てきたスイーツを食べられなかった恨みの弾丸。

 受けていただきますわ!


 敵距離およそ千。

 残弾は弾倉一つで六発。

 ちょうどいいですわね。


「おちなさい!」


 ズドッ!

 

「爆ぜなさい!」


 ズドッ!!


「帝都上空を彩る花火になるのよ~~! あ~~っはははは!!!」


 ズドドドド~~ン!!

 



 こうして彼らは全滅した……


 ◇◇◇◇


 天国にいる親愛なるお母さま。


 天国でもルーシアのようにたくさん雪が降るのでしょうか?


 スターシャは今日、とっても素敵な出会いに恵まれました。


 連合王国にもお友達ができたようです。また訪問してくださったときは今度よりも淑女らしい念入りな接待を心がけます。


 あと、最近空戦不足でお腹のあたりが残念なことになっていましたわ。


 ですから少し運動をと思っていましたら、お空でお相手をしていただける紳士の皆様がいてちょうどよかったです。感謝しなくては。


 やっぱり空戦不足は体に毒です。


 もうちょっと頑張ってダイエットしてみます。今度はもっと敵を撃墜してきますね。


 お母さまの娘にふさわしい淑女になるため頑張っているスターシャより。


 聖歴1941年2月3日




 わたくしは今日の出来事を思い出し、かわいい丸文字で記した日記をそっと閉じました。


 




 ◇◇◇◇


 本日はあと4投します。

 年末年始の暇つぶしになれたら幸いです。


 もし

「期待できる作品っぽい」

 と思われたら迷わずフォロー。

 空戦ではその一瞬のためらいが命取りになりますわよ!


 そして撃ち落とすには★を、打ち込め、打ち込め、打~ち~込~む~の~よ~~~~。きゃ~~ぁははは!!

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