第14話:チョコレートの極秘工場を建設ですわ

 あれから三日。

 ダリア様とご一緒に様々なスイーツを転写してみて、また発見をしてしまいました。


 魔力さえ続けば、食料を大量生産できると。水などの液体はもとより、カンパンや缶詰、豪華宮廷料理まで転写できました。


 こ、これは革命なのでは?

 人力で工場の生産レーンが回せます。


 この革命的新発見について、下手に扱うとトンデモないことになるという事は、この空戦以外に特技のないわたくしにもわかります。


 こういう時はもちろんお父さまに相談。


「うむ。スターシャは素敵なレディになると思ってはいたけれど、ここまで才能の塊とは思ってもみなかったよ。さすがレイカの忘れ形見」


 レイカとはお母さまの名前です。


 遠い国からきて途方に暮れていたところを、お父さまに助けられてそのまま愛し合う関係に。


 素敵なロマンです。


「軽小説みたいな恋」とお母さまは申しておりましたが、そのあとに続いた言葉は全くわかりませんでした。


「ラノベのテンプレVRMMO転生キタ-。ロマンスグレーとゴールッ! っていうそのときの感激は忘れられないぜっ!」




「それで、スターシャはこの技術をどう使いたいのかな?」


 お父さまの問いに、わたくしは思わずスイーツのためという本音を漏らしそうになった口をさりげなくふさぎながら淑女らしく提案いたしました。


「これを使うには大量の魔力がいりますが、魔導師のような魔力のコントロール技術はそれほど必要としませんわ。ただ魔道術式を使う今までの方式とは違います」


 わたくしはその方法を簡単に説明いたしました。


「なるほど。これは便利だ。だがこれを使いこなすのは一般人には難しそうだな」


「はい。単純なマトリクスならば転写は簡単ですわ。でも凝った食べ物や機械などは熟練と熱意と根性が必要です」


 お父さまはあごひげをなでながら、しばらく考えておりました。


 怖いお顔。

 真剣になると、このようなお顔になるのね。

 初めて見ましたわ。


「これは慎重に動かねばならんな。帝国ばかりか、全世界を揺るがしかねん」


 びっくり発言に驚くわたくし。スイーツの転写だけです、重要なのは。


 ほかはどうでもよろしいですわ。


「よし。これも何かの縁だ。ゼレノア家を使おう。スターシャ、もうダリア嬢とお友達になったかい?」


「はい、お父さま」


「では父さんはゼレノア卿に話を通してこよう。半々でいいかな?」


 なにが半々なのでしょうか。


「スターシャの取り分だよ。収益の半分はスターシャの財産にしよう」


 まあ、半分こ。

 お菓子の取り分は、やっぱり公平に同じ分が下町ルールです。


「はい、お父さま」


 と明るい声で返事をいたしました。


 ◇◇◇◇


 ダリア様のお父さま、ゼレノア男爵イワノビッチさまは恰幅のよいお方でした。


 ゼレノイ商会の豪華な応接室でお父さまと私、男爵とダリアさまの四人で密会です。


 え? 密談というの?

 陰謀?

 談合?

 団子?


 言い方はどうでもいいわ。


「それではケルテン伯爵さま。その製造方法をわたくし共にだけに使用権をお譲りしていただけると?」


「そうです。私にはそれを効率的に使用できる才と時間がないのです。ぜひ帝国のために有益にお使いください」


 お父さまったら、この前は


「これでスターシャの嫁入り道具、何でも買ってあげられるぞ」


 とかおっしゃっておられましたのに。でも表向きは帝国のためなのですね。


「はい。できれば全世界のために活用してまいりたいと思います。しかし……」


「秘密保持ですな。お任せください。これでも私は情報局長官。ひとかけらの情報も漏れないようにいたします。存分に効率を追求して金儲け……げふん。世界のためにお使いください」


 さすがは男爵様、有能な商人。相手の失言は聞かないふりをするのがお上手。


「それでスターシャ嬢。どの程度の転写が可能なのでしょうか。複雑なものはどこまで可能なのですか?」


 そうですわね。

 スイーツならば多分どんなに複雑な配合をしていても確実に転写できると思います。


 あとは……これかしら。


 ズドドドドンッ


 四人の目の前にあるテーブルに、五.五六ミリから始まって、七.七ミリ、七.九二ミリ、十二.七ミリ。二十ミリ、三十七ミリ。五十七ミリ、そして八十八ミリの銃砲弾を製造して並べました。


 皆様、なぜ白目をむいて上を向いてしまわれたの?


 そんなにうれしかったのかしら。


 この芸術的なフォルム。

 金色のメタリックな輝き。

 空を彩るイルミネーション。

 

 わたくしはマトリクスをしっかりと目に焼き付けております。熱意と根性がデータを完全なものにしております。


「自分で触った物や間近で見たものは転写・複写できますわ。目の前にあればもっと簡単です。三百八十ミリは触ったことがございませんので無理ですの」


 変な顔をなさらないで。


 令嬢ならば散歩をすれば狙われますでしょ? そのハートを射止めたくて紳士の皆さまが撃った八十八ミリ砲弾が飛んでくるなど日常茶飯事なのでは?


「ま、まあ。それは置いておくとして。これは軍需産業にも手を出せそうな気も致します。スターシャ様のご指導があれば」


「それは後々考えましょう。今は目立たず試験的に、戦地糧食の何かを……」


 それを聞いた途端、わたくしは思わず叫んでしまいました。


「それは何としても、チョコレートをお願いいたしますわ! チョコレートは魔導兵になくてはならない戦略物資ですの」


 そうですわよね。

 魔力の増槽タンク。魔力回復薬。甘ければ甘いほど効果がありますわ、きっとそうよね。

 長距離任務には絶対必需品です!



 ◇◇◇◇


 その数日後。


 ゼレノア男爵邸、厨房


「さてなのです。普通のチョコレートでは面白くないのです。なにか良い方法がないでしょうかなのです」


『強化可能性のある素材。朝飯人参、行者ニンニン、ゴマエ、オリーバ。伝説のソーマ。タヒボンジュース……』


 ナタリー。 

 今日はお役所書類用紙を持ってきましたのね。よく整理してあります。でもその顔が材料を食べたときの味を想像して百面相をするのは令嬢としてはいかがなものかしら。


 でもお二方、真剣にスイーツの可能性を極めようと頑張っております。


「ダリア様。あれはどうかしら。体が爆発的に温まるようにチョコレートに入れるもの。TNT火薬とか」


「それはいい考えなのです。今度厨房にそろえておくのですわ」


 ナタリーが大きなプラカードを見せてきます。


『その材料、不可!』


「え? どうして? いい考えですのに」


『発火性と加工性に優れたRDXを推奨』


 ニンマリしながら、ドヤ顔でプラカードを振っています。


 それはいい考えですわね。

 今度チョコレートに練り込みC-4爆薬と名付けてスイーツを作ってみましょう。敵の厨房にプレゼントとしておいておけば喜ばれますわ。




 ◇◇◇◇


 聖歴1941年4月15日の空戦日記


 敬愛する知的なお母さま


 スターシャ、ついに果たしましたわ。

 戦地糧食レーションにチョコレートをつけていただけそうです。


 これで戦地でもスイーツをいただけます。


 なんという幸せ。

 ダリア様とそのお父さまに感謝いたします。


 砲弾を作るとかなにか言っておりましたが、普通の方ではそんなに簡単には作れないと思います。


 たとえ作れたとしても、当分はスイーツしか作れないように指導の手を緩めます。魔道兵だということは伏せていただく代わりに、職人さまに指導する役目をいただきました。


 今夜はチョコレートで帝国軍を埋め尽くすことを夢見て、ぐっすりと眠ろうかと思います。


 甘い夢を見たい年頃のスターシャより




 追伸

 ダリア様とはミハイルの素性を明かすまでの親しいお友達になれました。


 初めてのマブダチですわ。

 ナタリー以上に仲良くなりましてよ。スターシャは幸せです。


 その成り行きでミハイルとの婚約話どこかへ行ってしまいました。きっとお父さまが裏で話をつけてくれたのでしょう。


 侯爵閣下から怒ったような元気で力強い文字で了解のお手紙をいただいたそうです。


 いつもの通り、頼りになるお父さまです。



 ◇◇◇◇


『秘密警察より重要司令。全世界指名手配犯』


「どういたしましたの? ナタリー。そんなにたくさんのプラカードを出して」


『カクヨム法第一条に則り、現在この作品を読んだものを確保』


「え~、何をいたしましたの、その方々」


『ひそひそ笑いながらも★とフォローを押さない犯罪者』


「それは重大な犯罪ね。今度最大火力での攻撃をいたしましょう。それまでに★とフォローを収める押す善良な市民読者になっていることでしょう❤」

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