第37話:お父さま、勝手に密約しないでくださいませ【戦闘回】。最終回らしいですわ

 帝都上空五百メートル

 ネームド狩り中隊X小隊隊長



「マックス。管制から南に回れだとよ。ターゲットはそっちにいるそうだ。北はどうなっても知らねぇというわけだ」


 バディのケリーが空中管制官からの通信を意訳してくる。


「ああ。俺たちは賞金分の仕事をすればいいんだ。今回は連合王国が大枚はたいて俺たちを雇った。それ以上でもそれ以下でもねぇ。目標は殲滅のミハイルただ一人」


「それにしてもスタリングボンドで、一人頭一万とは。よく出すな。これで一生遊んで暮らせるな」


 俺たち傭兵魔導師は、どの国にでも雇われる。金払いさえよければ、どの国でもいい。


「なあ、剣信。お前はもう賞金を大分稼いだだろ。そろそろ引退か?」


 おしゃべりなケリーとは正反対の無口な皇国出身の天才魔導師に話が向く。


「……。剣が血を欲している間は、止めぬ」


 皇国ではこの男は剣士、いや剣聖とか言われているそうだ。


『聖』とかつく割には血に飢えているんだよな。


「そろそろあのバカでかい阻塞気球のような壁の南端だ。北は味方の直掩魔道兵が集結している。あっちは任せる。無駄口は終わりだ」


 隊長役の『影渡りのジョニー』が気を引き締めよと指示する。あの阻塞にはびっくりしたが、俺たちのやることは変わりがない。


「ケリーとマックスは後方三百で狙撃準備。俺と剣信で奴を引き付ける。確実にしとめろ。手段は任せる」


 ケリーと俺、マックス・ブリスベンは狙撃担当。


 ケリーが七.九二ミリ弾をまき散らすミニガン装備。

 俺は十二.七ミリ対物ライフルの狙撃担当だ。

 埋伏するための光学迷彩は世界一だと思っている。幾多のネームドが、俺の存在も認識しないまま射殺された。


了解ラジャー。いつものようにターゲットを躍らせてくれ」


 俺たちは幾多のネームドをしとめた経験から、今回のミハイルというやつも単独行動をしていると踏んでいた。


 一対多。

 絶対的優位の法則だ。

 これを破ることなど戦場の法則に反する。

 いや、物理法則でもある。


 俺たち四人は全く恐怖を感じなかった。いつものルーティン作業だと思っていた。


 奴が目の前に現れるまでは。




「ターゲット捕捉。フォックス2開始。剣信はフォックス3。俺の陰に入れ」


 影渡り。

 ジョニーの必殺戦法。


 自分の作った数個のデコイを瞬間移動させて、その数を十倍くらいに増やす。


 作ったデコイが敵の受動パッシブ探知を邪魔するとともに、デコイを障壁として使うことで一方的にアクティブ探知ができる。


 敵は目が効かない一方でジョニーにはターゲットが丸見えだ。


 今回はジョニーが管制をして剣信が背後からターゲットを刺殺する作戦。


「ターゲット、突撃銃で弾幕。馬鹿め、どこを狙っている。デコイを狙っても無駄だぞ。消えてもどんどん作ってやる」


 うれしそうだな、ジョニー。


「剣信。いけそうか?」


「……。あと三秒、二、一。獲った。な……んだと。ウグッ」


 完全に光学迷彩で気配すら立っていたはずの剣信の背中にエストックが生えている。


『イヤデスワ。ハジメテ ウシロカラ セマラレタノニ。クシザシニ シテシマイマシタ。モウイチド オセマリニナッテ』


 遠目でも見える。

 その少年兵の顔が狂気にゆがんで、剣信のサムライブレードを素手でつかみ、その切っ先を彼の首につき刺す。


 剣信の体が旋回。血が三百六十度全域にまき散らされる。死骸は帝国の土になるために自由落下を始める。


 しかし。

 奴は返り血を全く浴びていない。


 なんて奴だ!


「ジョニー。撤収しろ。俺たちが始末する」


 既にあいつはジョニーの位置をつかんだようだ。背後に回る機動に入った。


「了解」


 ハンドサインでケリーに「俺が外したら弾幕を張れ」と、いつもの戦法を確認。


 くそっ。

 奴の機動が読めん。

 速すぎる。


 急がないとジョニーがやばい。

 しかし焦っても外すだけ。


 防御障壁を消してリソースを確保。

 弾速を最高に。

 スコープに刻まれた術式に魔力を流す。半自動追尾ホーミングモード作動。

 対光学迷彩フィルター起動。

 なにか違和感があるが発射。


 ズガンッ!


 距離二百。

 十二.七ミリ弾が初速千五百で打ち出される。

 コンマ二秒もしないでターゲットを打ち抜く。


 弾はターゲットの展開する二重障壁を確かに貫いた。


 だが……


 奴は左手で弾を握りつぶした。

 そして二重迷彩で隠れている俺の方を見て、ニマリと笑った。


『オマチニナッテテ、ステキナカタ。スグニ マイリマスワ』


 ヘビだ。

 俺はカエル。

 逃げられない。

 カラダがすくむ。


 塞げないままの目で、奴の拳銃弾でジョニーの頭が爆ぜるのを見せられた。


「この、この、この、このーーーーっ! よくもジョニーと剣信を!!」


 どりゅるるるるる!!


 ケリーがミニガンで弾幕を張る。

 しかし奴はその弾幕をすべてかわし、近づいてくる。


 あと数秒で俺たちの元に。


 最後のあがきだ。

 サブアームのM1912を握り、45ACP弾を放つ。


 その弾はまた握りつぶされる。

 ああ、やっぱりな。


 俺たちは『圧倒的な個』に握りつぶされる『ミジンコの集団』だったんだ。


 目の前に迫った、顔を見て気が付いた。


 さっきの違和感。

 こいつは光学迷彩のスキルが卓越していたんだ。俺の数倍。いやもっとだ。

 それが今、無効化されている。わざとか?


 ターゲットは少年ではなかった。

 少女だ。

 大好きなスイーツを食べるような気持ちで敵を喰らう悪魔。


 主よ。

 悪魔を討つ天使をお使わせください。

 この少女に災いあれ。


 ざしゅっ!


 防御障壁を張っていない俺の下半身が消滅したのは、一瞬だったらしい。



 ◇◇◇◇



 <ケルテン伯爵視点>


「終わったようだな。地上も、空中も」


 皇帝陛下が私に笑顔を見せる。

 今は、屋上の防弾ガラス張りペントハウスで二人きりだ。絶対安全な場所に陛下をお連れした。


「は。これもすべては陛下の決断のたまもの。その大胆さがこの戦果を挙げた要因かと」


 私は一挙に四つの敵を葬る作戦を陛下に言上した。


 一つ目。

 陛下が警備の私の屋敷においでになるときに、革命分子に襲わせる。

 その際に、近衛に紛れ込んでいる裏切り者のあぶりだしと粛清。


 二つ目。

 海軍卿を中心とした第二皇子派の勢力を削ぐ。

 粛清をしなくてもいい。

 誰が加担しているかが、わかればよかった。

 そのために皇太子に臨席してもらった。この機に何かを仕掛けてくると想定して対策を練っていたのだが。


 三つ目。

 連合王国に通じている者の摘発。

 この機に乗じて爆撃が行われるであろうことが予想されていた。この情報漏れがどこで起こっているかを押さえる。


 四つ目

 各地から精鋭魔道兵を帝都に集結。

 この混乱に乗じて行われるであろう帝都空襲を大規模兵力で迎え撃ち航空撃滅戦をおこなう。


 そしてこれは陛下には秘密だが、スターシャに空戦を目いっぱい楽しんでもらう!


 今回はすべてがうまくいった。


「ケルテン伯。いやアンドレイ。お前はいつもやることがえげつないな。革命党も実はお前が操っているのであろう」


「それはございません。あの背後には合州連盟に寄生している富豪どもがおります。そこからの資金提供が連合王国と合州連盟、皇国を動かしております」


 国債を大量に買って資金源にするとともに、戦後に回収するか。汚い奴らだ。世界の国も民もあいつらにすれば単なる数字、それも自分の帳簿に並んだ数字だ。


 そんな奴らに屈すれば帝国の臣民もあいつらの奴隷となる。

 あいつらに言わせれば帝国臣民こそ奴隷ということになるが、それはまだ貴族がいるからだ。

 こいつらを根絶やしにしなくてはならん。そうすれば、臣民のための政治ができる。


「アンドレイ。そなたの娘、スターシャ。今回もよい働きをしたな。地上でも空でも。なにかまた褒美をやらねばならん」


 皇帝は戦闘が終わりこちらへ帰還してくるスターシャに双眼鏡を向ける。


 私も双眼鏡でスターシャを見るが、可愛らしい女の子の顔に戻ってしまっている。まずいな。なんとか知らせないと。


 入り口に控えているカールに通信を指示を出しておく。


「恐れ多いことではありますが、例の件、そろそろお願いしたく。ちょうどナヒモヌフ侯爵家がとりつぶしされる理由を作れましたので。確実に奴が黒幕だということの証拠はつかみました」


 皇帝が呆れた顔をしてこちらを見る。


「やはりそれが狙いか。困ったものだ。優秀すぎる家臣は使い方を間違えたくないな、首のあたりが寒くなる。

 わかった。ケルテン伯爵家は今回のことを持って侯爵家に昇爵。九月の社交界シーズン開始とともに布告しよう。それまでに確たる証拠を用意、貴族院工作を任せた」


 やったぞ、スターシャ。

 そしてレイカ。


 ついに悪役令嬢への道が開けた。

 次の目標は。


「そういえば貴族学校。本当に作るのですか? あまり感心しませんが」


 皇帝は皇子たちが貴族連中との付き合い方を実地で学ばせるために学校を作ると言い出した。

 平民も入学させるとか。


 貴族学校そのものはよい。

 悪役令嬢の条件の一つだというから、歓迎しよう。


 だがこれまで以上に貴族派閥ができやすいではないか。


「うむ。貴族の連中の統制に役立つので実施する。その差配もアンドレイ、そなたに任せる。あと」


 なにか嫌な予感と、幸運の予感がまじりあったものがこみあげてくる。


「先ほどアレクセイがスターシャに助けられたことを報告に来たが、その時『面白い娘に助けられた』と言っていた。大分興味がわいたようだ。そこで貴族学校が始まったらザイツェフ少佐も入学させよう。皇太子の警護という名目ならば面白いことになるぞ」


 忘れていた。

 この皇帝は『おちゃめさん』だった。


 スターシャ。

 悪役令嬢への道は険しそうだよ。


 軍務に服しつつ、皇太子の護衛をして、正体を見破られずに学園生活をして、自分の派閥の勢力拡大。そして学園生活を楽しむ。


 あの可憐で純粋なスターシャにできるだろうか?


 だ、大丈夫だ。

 父は何が何でも守ってやるぞ。


 学園も自由裁量を任された。

 スターシャの過ごしやすい学園に魔改造チューンナップしてやる。


 安心して魔道悪役令嬢を目指しておくれ!


 ◇◇◇◇


 お母さま、聞いてくださいませ!


 お父さまがついにやりましてよ。

 ケルテン伯爵家を侯爵家に昇爵させることに成功しましたわ。


「スターシャ! ついにレイカの望みの一つを叶えたよ。あとは悪役令嬢と、聖女と勇者、逆ハー。VRMMOという物はよくわからないが、きっと叶えて見せるよ。待っていておくれ」


 今でもとってもお母さまを愛しているお父さまのお言葉。

 その優秀な才能のすべてを使ってお母さまの望みを叶えていかれます。


 当分、連合王国の爆撃はなさそうですので、盛大にわたくしのデビュタントをすると張り切っておいでですわ。


 九月までにダリアちゃんもナタリーもデビュタントを済ませてしまうとか。


 今から貴族学園を魔改造すると張り切っているお父さまの姿を天国から見守っていてくださいませ。


 わたくしも入学準備として、魔道弾を大量生産しておきますわ。

 きっとお母さまのおっしゃっていた、『魔法テスト』や『クラス分け』。『金髪の王太子、青い髪のクール青年。緑髪のこじらせ系少年。赤い髪のやんちゃ少年』が入学してきますわ。


 居なければきっとお父さまがどこかから調達してくると思います。


 楽しみにして待っています。


 いっぱい空戦をして達成感のあるスターシャ。

 今度は未知の敵と戦いますわ。


 聖歴1941年6月20日




 丸ゴシック体もやりすぎると読みづらいですわね。

 今度はどんな文字で日記を書きましょうか。


 悩みが尽きない純情少女の青春真っ盛りな今日この頃です。



 一応、完


 ◇◇◇◇



「みなさま、わたくしの活躍、感動いたしました? したわよね。しなさい!ですわ。さもなくば射殺しれ天の★にして差し上げます。それともシベリー送りがよろしくて? シベリー原野は★がきれいですわ。本国に帰りたかったらその★にフォローをつけてお渡しくださいませ。そうするときっと貴族学園でスターシャの華麗なる活躍も観られましてよ」


 

 ◇◇◇◇


 この作品は今後どうなるか全く未定です。


 今回の作品は、作者的には不完全燃焼でした。

 もっとハードに書きたかった。魔導師空戦モノを設定をきちんとして書きたいのです。

 現在、綿密な時代背景、世界観、それに即した実在のキャラクターをモチーフにした作品を構想しております。


 具体例は

『独ソ戦のバルバロッサ作戦のVRMMOに参加するイタリア軍の航空魔導師である主人公が、途中で裏切り史実のドイツ空軍パイロット=魔導師を相手にハードな戦場でイタリアチックに戦う。魔道推進力のエネルギーがぐーたら女神の気まぐれでランダムに増減する。だからイケイケゴーゴーの時はすごい。しかしその方向性もランダムで敵味方に損害をもたらす」


 ぼろくそ言われる最弱ヘタリアが最強に成り上がる作品です。


 トロツキーグラードの戦い付近で裏切るかもです。

 基本、ミリオタにはにやりとできる設定です。だって、もろランダム性能はイタリア風味だし、首無しRe.2002アリエテII要素や、セリエ5が活躍するんですから(^^♪


 こんな話です。

https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16818023211815664102



 そんな作品を読みたいと思われる方がおりましたら、作者フォローをしておいてください。

 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu

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💕伯爵令嬢の空戦日記 ~帝都を守る最強のネームド航空魔道兵はスイーツを死守する~ 🅰️天のまにまに @pon_zu

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