第36話:皇帝暗殺事件【戦闘回】

「陛下をお守りいたせ。第一分隊陛下の盾となれ。第二分隊、皇太子殿下をお連れしろ。第三分隊は敵を迎撃! うぐっ」


 近衛を指揮する大尉が近衛兵にまぎれた謀反人に後ろから撃たれました。


 爆煙の中、もう誰が敵なのかわかりません。


『お嬢殿。連合王国爆撃隊接近中。迎撃要請あり』


 ナタリーの走り書きメモ。


 そんなのほっておかないとお父さまの身の安全を第一に。ついでに上司である皇帝陛下の安全を確保を。


『目標は下町。チョコレート工場付近の可能性大』


 なんと。

 それは一大事ですわ。

 皇帝に関わっている場合ではありません。お父さま、メイド分隊を向かわせますわ。お気をつけて。


「スターシャ、皇太子をお守りいたせ。警護が薄い」


 お父さまの指示。

 わたくしよりもきっと良い判断なのでしょう。

 でもどこにいらっしゃるの、皇太子さま。だいたい顔を知りません。


 どどどどどっ!


 魔道兵?

 サブマシンガンから放たれる魔道弾の乱射で次から次へと陛下の肉壁が倒れていく。


 これは放っておけませんわ。

 ミハイルッ子一号を救援に向かわせる。


「皇帝、お前の圧政で殺された娘の仇だ。死ねっ!」


 今度はウェイターがトレイの下から手榴弾を取り出して投げつける。しかし近衛兵の射撃により床に落ちる。


 あれは広範囲破甲爆弾!?


 まずいです。

 ミハイルッ子一号を向かわせる時間がない。


 わたくしは残るスロットを使って舞踏会用特殊パンプスを起動させて加速。爆弾をつかもうとします。


 だけどそれよりも先に近衛の服の若い男が爆弾に覆いかぶさろうと身を投げ出します。


 なんという自己犠牲の精神。

 侮蔑いたしますわ。

 死んだらスイーツが食べられないじゃない。そちらの方が重要事項。


 しかたないです。

 その方のお腹が爆弾につく前に右手を差し出して爆弾を握り……つぶします。


 どがん。


 空間障壁を作った右手のひらの中で爆発。


 ふうっ。

 大丈夫です。

 皆さまお元気です。

 明日もスイーツを食べられる体。幸せですわね。


「君。無茶をするもんじゃない」


 なんだか顔面偏差値がぶっ飛んでいるイケメンがわたくしに説教をしようとしているらしいです。

 見ると近衛の制服の左胸にびっしりと勲章の略章が。


「あなたこそですわ。あの爆弾は普通の手榴弾とは違って体では防ぎきれませんのよ。そんなことも知らずに近衛をしているの? そんな勲章、捨ててしまいなさい」


 なんだか呆れている顔ですがそんなことはどうでもいいのです。


「マリア。戦闘メイド分隊を呼んでちょうだい。この場を制圧。あなたは私と共に屋上へ。あと重要物資は確保しましたか?」


 壁の陰で控えていたマリアが動き出します。

 近衛を差し置いて下手には動けませんから、わたくしだけ守るようにと指令を出していましたが、それよりも重要物資確保を優先させました。


「確保完了。すべてのスイーツを一つずつ。キャンディバッグに収納完了しました」


 では参りましょう。


「イリーネフさま、ダリア様、ナタリー。屋上でお遊びの時間ですわ」


 まだ爆煙と喧騒の残る中、わたくしたち仲良し四人組は屋上で連合王国の紳士を歓待する準備をしにまいります。


 ◇◇◇◇


 先ほどの自己犠牲青年。


「殿下! お怪我はございませんか? なんという無謀なことを。あなた様にもしものことがあればこの帝国の未来が暗黒に包まれます」


 どうやら皇太子殿下だったようで。


「大丈夫だ。爆発は握りつぶされた」


「握りつぶされ?」


「どうやらあのお嬢さんは魔導師らしいな。どこの令嬢だ?」


「ケルテン伯爵の次女でスターシャ様かと」


「ふ~ん。面白いレディだね」


 肩のほこりを払いつつ、何事もなかったような表情で立ち上がった皇太子殿。


 なんだか皇太子に目をつけられてしまったらしいスターシャであった。


 ◇◇◇◇


 屋上についたころには連合王国の爆撃隊の襲来を伝える空襲警報が鳴り響いていました。


〈ザイツェフ少佐。聞こえるか。何をしている。至急上がってくれ。一機でも多く迎撃に上がらんと帝都が火の海になるぞ!〉


 マリアの持っている受信機からジュコーフ司令官の怒鳴り声です。


「了解。万難を排して迎撃を成功させます」


 といっても、まずはここの制圧ね。


「マリア。会場の制圧はまだ?」


「今しばらくお待ちください」


 まずいわね。

 ミハイルッ子一号はまだ解除できないかしら。


「コーネフ大尉。迎撃に専念しろ。私は皇帝陛下を守るので手があかない」


 先ほどまで演出を頑張っていた第二中隊の皆さんは魔力切れです。軟弱ね。もうスロットルVも使い切ったとか。


「ス、スターシャちゃん。あんなに多くの爆撃機。防げるのでしょうか」


『重爆百五十機以上。直掩魔道兵二個連隊。迎撃が間に合った味方、一個連隊。状況極度に不利』


 これはわたくしたちが何とかするしかございませんわ。


「スターシャちゃん。前つかった魔力暴走弾をつかいます?」


『不可。ここで爆発すると帝都がマヒする』


 ナタリーの言う……いえ、書く通りですわ。

 こんなところであれを爆発させれば、帝都の通信交通がマヒ。魔道師は全員大怪我です。


「こんな時はあれですわ。ごにょごにょ」


 わたくしは、まだ実験もしていない兵器を使う提案をしました。


「それは危険よ。スターシャちゃん」

「ま、まずいです、アレを使うと……」

『悲劇の確率、四十……演算不可能』


 でもあれしか方法はございません。百五十機以上の重爆撃機が下町を爆撃したら、木造のあばら家が多いのですぐに大火災です。


 チョコレート工場も大被害。


「仕方ありませんわ。チョコレー、げふん。人命には変えられません」


 こんな時にもスイーツの事しか考えられないわたくし。もう少し修行しないとお父さまに呆れられます。

 だってスターシャはお母さまのような素敵なレディになるのですもの!


「マリア。例のランチャーを」


「はい。お嬢様」


 渡された特殊ランチャー二基にダリアちゃんが砲弾をこめます。

 そのまえにイリーネフ、ん~、かわいくないわね。やっぱりイリーナちゃんと呼びますわ。イリーナちゃんが二つに増えた術式スロットで特殊砲弾二個に巨大な魔力をこめます。

 いつも通り白目をむいて倒れます。


 ランチャーはわたくしの左右の手で構え、ランチャーに付属したリフレクターサイトに映るナタリーからの情報を元に二地点に射出。


 ばすんっ

 ばすんっ


『発射角良好。着弾まで三、二、一、今』


 秘密警察の予算を流用して作られたナタリー専用システムで、スコープ内にナレーション字幕が浮かびます。


 下町の向こう。

 一キロ先に着弾。

 爆発は上空だけに伸びます。


 そして輝く柱が現れて、その間に電磁の網がバチバチバチ。


 成功です。

 これに引っ掛かったものは超高圧電流が一瞬だけど流れて電子機器を破壊……するはず。


 下町の皆さま。触らないでくださいませ。結構なお時間、その柱は残ってしまいますので。


「では、わたくしは上空へ参ります。もう陛下と皇太子殿下は安全ですのね?」


 マリアに状況を確認してからミハイルッ子一号を解除。自分の装備を身にまといます。


「さあ、待っていらっしゃい。紳士の方々。しびれるくらいのダンスを踊りましょう!」


 追加ブーストをつけたブーツは強力なGとともにザイツェフ少佐の姿のわたくしを一気に敵直掩魔道兵のところへ向かわせる。


「ひゃ~っははは! 久しぶりの空戦ダンス、楽しみましょう!!」


 帝国の迎撃魔道兵をなぶり殺しにしていた連合王国の魔道兵に七.七ミリをぶち込みつつ戦場を駆け抜ける。


 帝国のスイーツはわたくしが守りますわ!


 やはりスイーツが第一になってしまうわたくしをお許しください、お母さま。

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