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第8話:世界情勢の勉強をしますわ

 世界を統べる巨大な帝国。日が没するところのない帝国、連合王国。


 それに対抗する第二の勢力が、ルーシア帝国だ。


『日が没するところのない』といわれるだけあって、連合王国の版図は地球の全域に広がっている。

 どの時刻でも、地球上のどこかの連合王国領土で日が昇っている。


 それに対し、ルーシア帝国は大陸の中央に位置し、西から東へ歩いたとすれば、それだけで地球の三分の二を通過できる大きさの大陸国家だ。


 軍事力も世界最大の動員力を持つ陸軍は最強と言っていい。


 西に隣接していた軍事強国プロシアン王国を、その数の猛威で壊滅させ、東西に分裂支配するところまで追い込んだ。


 一方、連合王国は海洋国家。

 その海軍力はその他すべての海軍がまとまって襲い掛かっても、逆襲して壊滅させるほどの巨大なものだ。



 ルーシア帝国の周辺は、北に凍り付いた海。

 南に巨大な山脈を挟んで、連合王国の巨大な植民地、インディー諸国と砂漠地帯に接する。


 東は海を挟んで合州連盟とその同盟国である皇国。


 つい十年前、合州連盟に支援された皇国に手痛い敗戦をしたルーシア帝国は二年前、大動員をしてハラパ川畔にて皇国軍と合州連盟の陸軍を包囲撃滅した。



 そして問題は西に隣接する、この時代をリードする白人国家が跋扈ばっこする半島状の亜大陸。

 この正面にルーシア帝国の軍事力のほとんどは向けられている。

 それが通常の軍事バランスだった。


 だが合州連盟を支配する資本家たちのルーシア帝国への長年の恨みが、皇国をたきつけての開戦へと導いた。

 その後合州連盟が参戦、東部戦線が形成された。


 東部戦線は血みどろの膠着状態となり、連合王国はその時間を使い、陸海軍をして大戦を戦い抜くことのできるものに整備。


 満を持して、襲い掛かるはずだった。


 ある一人の航空魔道兵の活躍によって、東部戦線の膠着状態が解除されるまでは……


 ◇◇◇◇


 ぱちぱちぱち。


「すごいですわ。お父さま。ものすごくわかりやすかったです。歴史の教師もできるくらいですわ」


 今日はお父さまにお願いして、世界情勢のお勉強をしておりますの。


 だってわたくし。学校にほとんど行っておりませんから。


 お母さまにお教えいただいたことと、魔道兵の座学しか頭にございません。貴族ではないものには士官学校への入学は狭き門。


 本当は「世界史の先生を雇っていただけませんか」とお願いしたのですが。


「おお! スターシャは勉強好きなのだね。よしよし、では父さんが直接教えてあげよう!」


 と張り切ってしまわれて。


 本当に良いのでしょうか。

 情報局のお仕事って、とてもお忙しいのでは?


 心配なので副官としていつも付き従っている方にお伺いしましたところ、嬉しそうに苦笑いされて


「と、とんでもございません。局長閣下がいらっしゃらなくても組織が回るように、しごかれ……げふん。訓練されておりますので、ご心配なく」


 と、汗をかきながら教えてくださいました。

 汗がひどかったのでハンカチを貸して差し上げようとしたら、蒼い顔をされて凄い勢いで逃げてしまわれました。


 どうしたのでしょうか。

 後を振り向くと、私たちの会話を笑顔で見守っている優しいお父さまの姿が見えました。


 わたくしが若い方とお話しする時は、いつもこの笑顔で見守ってくださいます。



「だからスターシャ。君の存在はできるだけ隠したかったのだよ。いいように宣伝材料にされるからね」


「宣伝材料ですか?」


「そうだよ。ポスターとか映画とか伝記。そんなものの対象になってしまう」


 それはちょっとまずいですわね。

 ウリエルやミハイルの姿をずっとしているのは、もう戦地ではないのですから嫌ですわ。


「だから死んだことにして軍籍抹消。伯爵令嬢として生きていってほしいのだが。スターシャは空戦が好きなのだろ?」


「はい! 空戦のない人生なんてクソですわ。あわわ」


 いけない。

 汚い言葉は厳禁。

 そんな言葉は空で存分に吐きましょう。


「だから帝都で暮らしなさい。そして素敵なお嫁さんになって赤ちゃんに『おじいちゃん!』と呼ばせてほしい~~~!」


 ゼエゼエ言いながら自分の言葉に酔ってむせぶお父さまを生暖かい眼で見守りつつ、改めて思いました。


 ノードッグファイト、ノーライフ


 私の人生は空戦ですわ!



「ところが空軍のクソどもが、お前の中隊を遠征させるといってきたのだよ。しかも敵地に」


「どんなことろですの?」


「西プロシアン、カイゼルスラウンド。敵陣奥深い連合王国の義勇軍団基地だ。十日後までに侵入して攻撃せよと言ってきた。極秘任務だそうだ」




 ◇◇◇◇


 聖歴1941年3月14日の空戦日記


 親愛なるお母さま。


 お父さまは、いまでもお母様のことを大切に思っていらっしゃいます。


「孫が欲しいな」


 そうおっしゃいます。


 わたくしがお母さまと同じ黒髪ではなかったのでがっかりされているのでしょうか。


 私は、自分に赤ちゃんが生まれたら黒髪の子をお願いしますと、コウノトリさんにお願いしておきます。


 お空で会ったらぎゅっと抱きしめて「か、必ずそうします~」というお返事をいただけるまで力いっぱいお願いしようかと。


 そうそう。

 今日は空軍の偉い方からお願いをされました。


「連合王国の基地に出向いてパーティーに飛び入り参加してくれ」


 というものだと解釈いたしました。


 でも嫌ですわ。

 舞踏会なんかあったら逃げ出します。


 でも追って来られる方とならダンスをしてもいいかしら。やっぱりダンスは雲の上がいいですわ。月夜ならばもっときれい。


 そうだ。

 深夜に訪問すれば喜ばれるかしら。明日から深夜のお出かけの練習をいたしますわ。


 今日も明日も明後日も、あなたが喜ぶレディになれるように努力するスターシャより愛をこめて。



 ◇◇◇◇


 いつもスターシャを見守ってくださるあなた様。

 今後ともよろしくお願いいたします。


 え?

 もう飽きたと申されますか?

 それは嫌ですわ。


 こう、ぎゅっと羽交い絞めにして★とフォローをつけるまでお待ち申し上げております。


 あれ?

 変ですわ。

 読者様、お眠りになるなんてひどいです。

 息をするのも忘れてお眠りになられるなんて。

 心臓も休まれておりますわ。


 では今のうちにあなた様の指を使って★とフォローをタップいたしますね。

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