第7話:エナドリがアフターバーナー【演習回】。第1章、終わりですわ

 帝国南部特設演習場

 帝都防衛総司令官ゲオルグ・ジュコーフ大将



「ケルテン伯。情報局はまことに優秀ですね。このように優秀な魔道中隊をたった十日間で作り上げてしまう魔道士官を探してくることができる!」


 嫌味を言った。


 どう見てもあの大尉。

 殲滅のウリエルではないか!


 私もこの目で確かに戦場で見たのだ。間違えはせん。このような人の域を超えた化け物が二人もいてたまるものか!


 私は上空を舞うミハイル・ザイツェフ大尉という偽名を使っている殲滅の熾天使を見上げた。


 奴の軍歴はほぼ消し去られている。

 名前すらだ!


 いったいどうやったら人の記憶からも消し去れるのだ。いや、消し去ったのではない。皆が皆、別の証言をする。


 書類なら偽造できるが、かかわった者全員の口封じするとは。


 さすが皇帝陛下の影。

 いや、帝国の影の支配者ともいわれている。


「いやいや。大将こそ二年前のハラパ河畔包囲戦の大勝利。わが軍ドクトリンの見本と参謀本部の方々が評しておりましたぞ」


 戦略的負け戦の栄光か。そんなものは政治目的なのが常識。


 互いの嫌味も含めたお世辞合戦をおしまいにして、本来の戦いの観戦に移ろう。


 ◇◇◇◇


 <スターシャ視点>


 今日は新編成なった急造帝都防空集団の合同訓練ですわ。


 この前の初空襲に迎撃が間に合わなかった事で沢山の将官のクビが飛んだとか。本当の首が飛ばなかったのは帝国では珍しいわね。


 その対策として、帝国総司令部は東部戦線に分散配備していた魔導兵から、基幹要員である熟練下士官を引き抜きました。総司令官は勇猛でなるジュコーフ空軍大将さま。


 彼らによって新兵を組織的運用、戦闘できるようにさせるというのが今回の目的です。


 軍の上層部はほぼ全員貴族です。


 さすが優秀な方々。

 『軍の総力をあげてたたく』という戦争の大原則を忠実に実行していらっしゃいます。


 それを地道に実践し続けるなんて、貴族という方々は辛抱強い努力家なのですね。


 わたくしもそのような貴族になれるように頑張りましょう。


 ジャガイモの空き箱の上に立った私の前に整列する十二名のスイーツ中隊メンバーに、先任指揮官になったヴィクトル・コーネフ中尉が号令をかけます。


「中隊長殿から訓示がある。総員傾注!」


 訓示なんて固いことではありませんけれど。


 優しく褒めるだけですわ。


「貴様ら、十日間の地獄の訓練、よく五体満足で生き残ったな。褒めてやろう。

 たった今、貴様らは蛆虫を卒業する。これから貴様らは皇帝陛下の盾となり鉾となる。

 鉾は刃こぼれもする。折れもするだろう。

 盾にはひびが入り、割れていくであろう。

 だがそれらは必ず俺が拾って皇帝陛下の元へ届ける。

 貴様らの雄姿をつづった上奏文とともに。

 ルーシア帝国に栄光あれ!」


 言っていて恥ずかしいです。


 昨晩寝ずに下書きして、カンペを作りました。おかげで睡眠不足。お肌に悪いですわ。


 ウラァァァァ!!!!


 昨日までげっそりしていた皆様。


 どうしてそんなに元気なのかしら。


 そんなにお仕事がお好きなら、もっと働いていただきましょう。


 きっと皆様、もっと喜んでくださいますわ。



 ……彼女は知る由もない。

 みなが心の中でこう叫んでいることを。


(やったぞ、終わった! 地獄の訓練が。この殲滅のミハイルに比べたら、東部戦線の地獄など天国だ。今日からは俺たちはアームウェイトの外れたアスリート。何でもできるぞ!!)



「ではこれを渡す。危ないときは使用を許可する」


 皆様に茶色いミニボトルが渡されました。


「これはスロットルV。三分間だけ魔力が強化され、術式演算回路スロットも倍加される。推進力に回してもよいし、火力・防御力にも回せる。必要な時にだけ使え」


 皆様、怪しそうにボトルのラベルをご覧になっております。


「中隊長殿、質問よろしいでしょうか。このラベル、ルーシア文字ではない気がいたしますが」


「それは詮索しないことだ。ただ、軍の秘密実験の産物とだけ言っておこう」


 皆様、途端に元気がなくなりました。

 不安なのでしょう。


「味は保証しかねる。これは兵器だ。作業に疲れた者の味方。もっと敵を撃滅できるように空軍工廠からのプレゼントだと心得るのだな」


 やっぱりそれ以上お伝えするのはやめておいた方がいいでしょうね。異国の文字で「これはエナドリだ、もっと頑張れ」と書かれている飲み物だなんて言えないわ。特にエナドリを上司からの差し入れとして選ぶと効果があるとのこと。


「では実戦訓練開始。敵は帝都防衛魔道大隊一個のみ。たやすい敵だぞ。一個小隊ごとにシュバルム。シェブロンを組み、ウィーブ戦法。敵をかき回せ!」


 十日間では大したことはできません。

 とにかく敵をかき回してもらいます。


 そこからが本番ですわ。




『ダヴィドフ小隊の後ろに敵四機。ワルゲン、叩け! 何が帝都防空のエリート部隊だ。東部戦線帰りをなめるな』


了解コピー。……よ~し、いい子だ。そのままのコースで機動していろ。四機いっぺんに寝かせてやる。新兵どもは俺の射撃に合わせて発射しろ。ウオッ!……』


『どうした、ワルゲン。応答せよ』


『上方から狙い撃たれている! ルーキーが三機ともやられた。どこから撃っている?』


『見えた。魔道弾の射撃確認。な……んだと? 途中で爆発、ほうきのように無数の魔道弾が味方を覆った。これでは一気に小隊全機が撃墜される』




 腕がなまりました。


 拡散魔道弾を使ったのに七分もかかってしまいましたわ。

 もっともっと練習をしないと素敵キケンなダンスのパートナーに誘っていただけません。


 おや、中隊の皆様、スロットルVを使わなかったのですね。相当自信があるご様子。

 

 それにしては全身ボロボロになっていますわね。たとえ訓練弾とはいえ、魔道弾ですから相当痛いはず。


 みなさま、根性がおありです。

 安心しました。


 では明日からは、もっともっときつい訓練メニューでも大丈夫でしょう。


 きっと喜んでいただけると思います。




 ◇◇◇◇


 天国にいる私の大好きなお母様へ


 天国にも雪が降っておりますでしょうか?

 極寒のルーシア帝国は、まだ冬景色が続いています。


 スターシャ、今日は感激しておりますの。

 たった十日間で新米士官がたが目覚ましい成長を遂げて。敵役の魔道兵多数から見事に逃げ切っていました。


 きらきら光る汗をまき散らして飛ぶ姿は帝国の軍人さんにふさわしい勇姿でした。


 降りてきた時、パイロットゴーグルの内部もびしょびしょになっていましたわ。きっと目にも発汗腺がたくさんあるのね。


 それからお母様。

 お母様の残してくださったレシピ。役に立ちましたわ!


 あのエナドリというもの。


 わたくしには効いたのですが、みなさまには効くのかわからないので試してみようかと生産して隊員さんにお渡しいたしました。


 使用してくれた方はいなかったのですが、上司の差し入れという物に感動した結果なのでしょうか。


 大変効果がありました!


 これからは毎回あれをもって訓練に励んでもらいます。疲れて眠くなった時、とても効果があると、お母様の祖国では重宝されていたとか。


 これからも疲れを取っていただき、どんどん活躍していただきます。



 あなたの忠実なる娘、スターシャ





 ◇◇◇◇




 読者の皆様。

 今日も勉学、お勤めご苦労様です。


 スターシャ、手作りのエナドリをご用意いたしましたわ。どうぞ召し上がれ。

 おいしくないですって?


 おかしいですわね。

 お母さまのレシピには「上司や先生からの差し入れエナドリは嫌でもありがとうを言え」と書かれておりました。


 あなた様もどうぞ★を三つお支払いくださいませ。お支払いできない方はフォローでもいいですが、それも嫌なら今度グレネードも差し上げますわ❤




 ◇◇◇◇


 

 お知らせ。


 番外編あります。


 💕伯爵令嬢の空戦日記 ~帝都を守るネームド航空魔道兵はスイーツを死守する~ 第1話をお見せしますわ。四コマ漫画風もありましてよ♪

 https://kakuyomu.jp/works/16817330666996220475


 Ver2

 https://kakuyomu.jp/works/16817330667844058283


 よかったら笑ってやってください(^^♪

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